沈黙した猿#2

寂れた村に現れた奇妙な見世物の集団。彼らと出会って、廃業寸前の音楽家ギルダーは大きく運命を変えます #1はこちら http://togetter.com/li/760078 #3はこちら http://togetter.com/li/769670 #4はこちら http://togetter.com/li/772741 続きを読む
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そのままギルダーは、深い眠りの底へと沈んでいったのだった。 51

2014-12-26 20:25:03
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ギルダーの目が不意に覚めた。夢を見ていたようだが、思い出せない。悪い予感がする。家の中は真っ暗で、窓の外から月明かりが差していた。奇妙に静かな夜。闇の中、ギルダーの目が光る。何かがいる。彼は誰かの気配を感じていた。家の中、闇に沈む空間に誰かがいるのだ。 52

2015-01-05 19:37:10
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ギルダーは上体を起こし、毛布を跳ねのけた。物音がして、影が翻る。甘いような匂い。誰かが逃げようとしている。ギルダーは明かりもつけずに影を追いかけた。玄関のドアが開き、影が月明かりの下に躍り出る。そこにいたのは……小柄な女性だった。どこかで見たような記憶。 53

2015-01-05 19:41:32
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月明かりの下の追跡劇はしばらく続いた。街灯も無い薄暗い村の道を逃げていく女性……いや、娘だろうか。ギルダーは運動不足の身体に鞭を打って、全速力で走った。そのとき、娘の足がもつれて彼女は土の地面に転がった。ギルダーは彼女の腕を取った。そして自分の家へ引っ張っていく。 54

2015-01-05 19:45:45
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「何者だ、君は」 「アハハッ、捕まっちゃったね」 その声に聞きおぼえがあった。昨日、聞いた気がする。家の前まで引き返したとき、蛍のような光点が浮かび上がる。光源の魔法。小さいランプのような光が二人を照らした。「君は……」 「種明かしだよ。腕、解いてくれる?」 55

2015-01-05 19:51:32
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侵入者は、猿の面をつけた踊り子だった。紐のような衣装は着ておらず、いまは黒い簡素な服を着ている。「何のために泥棒に入ったんだ。公演に影響するぞ」 「泥棒じゃないんだけどなぁ。いや、泥棒か。教えてあげる。私は魔法使いだよ」 ギルダーはびっくりして彼女の腕を放す。 56

2015-01-05 20:00:31
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「魔法使いだって……? そうか、それなら……はは、なんてこった」 魔法使いは特権階級だ。魔法が使えない市民に対して、家へ立ちいるのも自由だし、危害を加え、時には命を奪っても罪には問われない。そんな魔法使いに対して無礼を働いてしまった。ギルダーは怯えた。 57

2015-01-05 20:07:03
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踊り子は手を2回叩いた。一瞬にして場所を移動し、二人はギルダーの掘立小屋の中にいた。何故かランプには明々と火が灯っている。「ね、本当の魔法使いでしょ」 ギルダーは身体を硬直させて、ぶるぶる震えた。魔法使いによって蛙に変えられても、文句は言えない。 58

2015-01-05 20:15:43
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「何のために、僕の家に来たのですか? 命、命だけはどうか……」 ギルダーはすっかり怯えてしまった。いつもの無感情なギルダーだったら、死を受け入れたかもしれない。ただ、寝る前に彼は希望を取り戻しつつあった。せっかく気持ちが上向いてきたのに……生きようと思ったのに。 59

2015-01-05 20:24:03
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「あはは、そんなに怖がらなくたっていいって。私は人殺しなんて興味ないの。興味あるのは、あなたの心臓。その、赤く脈打つ心臓よ」 60

2015-01-05 20:31:18