「音素と周波数」または「世界の粒度」について

ツイートより引用:「世界」を分節している情報の粒度をサンプリング定理の限界から考える事が出来るわけです。 大変興味深いツイートまとめ。
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Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

昨日、というか今朝4時までチームで詰めた仕事となり、午前は爆睡でありました^^ いま川嶋君からあったのとややずれますが、例えば「音素と周波数」という関係を端的に示す例 来週駒場の講義レッスン用のメモの下書きとして書いてみたいと思います。格好良くいうと「世界の粒度」というお話^^

2015-01-10 13:55:05
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

例えば今、デジタル録音した短い音の断片があるとします。実際に媒体に記録されているのは膨大な数の列で、それを「サンプリング周波数」の速さで再生すると音が聞こえます。仮に隣り合うデータを足して2で割るという操作をすれば何が起きるでしょう?石ころにやすりを掛けるよう少し角が取れますね?

2015-01-10 13:57:08
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

隣り合う二つのデジタル音響データを足して平均を取ると、一番細かな動き=高周波成分が消えてなめらかになる、つまりローパスフィルタの働きをします。(またこれはサンプリング周波数が半分になったのと同じ事でもあります)平均化した音を聴いてみると、少し響きが変化し、でも元の声は聴き取れる。

2015-01-10 13:59:25
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

ではこれを4倍8倍16倍・・・と平均化巾を広くしていったらどうなるか?・・・実際やって音を聴けば解りますが、最初意味のある言葉の音声であっても、段々意味不明になって行き、どこかから先はノイズになります。ナイキストのサンプリング定理そのものですが、これを情報の粒度から考えてみます。

2015-01-10 14:01:46
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

今サンプリング周波数44.1kHzで明瞭に意味が聴き取れていた録音サンプルを隣り合う32個を平均して再生したら全く意味不明になったとしましょう。このとき実質的なサンプリング周波数は約1378Hzですからその半分、689Hz以下の情報しか情報として標本化できないという見方も出来ます

2015-01-10 14:06:36
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

例えば1300Hz以上にあって600Hz以下にないものって何?と考えると、音声言語で考えれば無声子音がこれに当たるわけですね tとかkとかchとかhといった区別。無声子音の帯域の情報を失うとはそこでの区別が消滅する、つまり「君」と「地味(魑魅?)」と「氷見」の区別がつかない状態。

2015-01-10 14:12:21
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

つまり(やや大げさに言えば「世界」を)分節している情報の粒度をサンプリング定理の限界から考える事が出来るわけです。シラブルというものを考えるには早口言葉が分かりやすい。1秒に3音節の言葉は発音できますが10音節は困難16音節は不可能に近い。つまりシラブルの粒度は高々16Hz程度。

2015-01-10 14:14:49
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

いま音声言語の音素弁別に関して二つの特徴的な時間に触れました。仮に有声子音mと無声子音kの区別がつかない粒度で音声を記録再生して「めんたま」と「+んたま」の区別がつかないと困りますね^^(岩波の雑誌にはこう言う表現は取りませんが^^;)どうじに「ん」「た」が区別出来ない早口も困る

2015-01-10 14:18:09
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

いま言ったのは、要するに音声言語の「子音」の弁別と「母音」の弁別おのおのに特徴的な時間(分解能の)巾があるという当たり前のお話で、シュトックハウゼンはこの母音のほうについて「リズム」と「音高」に一貫性がある先駆的な指摘でKontakte(1958-60)で一貫した仕事をしています

2015-01-10 14:22:22
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

逆にシュトックハウゼンが見落としていたのは言語で言えば子音にあたるアタック時間巾の問題で、これはアナログベースの1950-60年代に問う方が酷な話、デジタルでZ変換が扱えるようになってからの後知恵では楽な話で、彼の先駆性は十分評価すべきです。ちなみにFFTの開発は1965年のこと

2015-01-10 14:24:40
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

もうひとつシュトックハウゼンが微妙に枠組みにいれ損ね、生前本人と話してニマ~ッと笑って喜んでいたのは「バインディング周波数と瞑想」というポイントです。つまり最速リズムと可聴最低音の間には人間の視聴覚など諸感覚を同期させるバインディング帯域があり、これを逆用して動画が再生できる訳で

2015-01-10 14:26:53
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

超低周波というより「心拍帯域」という言葉を僕は使いますが、心臓の鼓動と同じく数Hzオーダーのリズムで私達は行動し話し言葉を理解し音楽演奏もしますが30Hzのテレビ動画は完全に滑らかな動きとして認知し、50-60Hzで点滅する蛍光灯はずっと連続して点いているとしか認識しないでしょ?

2015-01-10 14:28:50
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

この途中の帯域が「危ない」領域で、伝統的な宗教でも多くの瞑想がこうした帯域に関連する何らかの生理的なメカニズムを活用している、この種の話題をシュトックハウゼンは大好きで、私は彼がこれを[見落とした]とは言わず、彼の作品がすぐ近くの可能性を開いたと話すわけですが、喜んでましたね^^

2015-01-10 14:31:15
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

デジタルになってから、例えばメルツバウみたいなアーチストは、今いったような帯域で興味深い試みをしていたと記憶しています。ややアドホックな印象を受けましたが、大事なポイントに触れていた。ダムタイプの池田氏などもいい線を掠める仕事をしていたような印象、昔の記憶で定かに覚えていませんが

2015-01-10 14:33:11
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

ともかく、こういう話題は非常に基礎的かつ一般的で、平易にお話も出来ますが、かなり深い人間の本質に直結しており、この[バインディング周波数]まわりの現象に音楽屋として興味を持っています。ラプラス変換で実数項σが担う減衰はこれらを明示する一つの方法として有効なので、これを採用しました

2015-01-10 14:36:02
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

譜面と簡単な式とリズムと周波数と音速で割った長さ目安。これら小学生でも使える程度の道具を適切に使うと、例えば教会内でのパイプオルガンのダイナミクスとかオルガンとエアコンの喧嘩調停とか色んな事に役立ちます。J.S. バッハはこうしたことに長け、オルガン鑑定人としても多くの仕事とか。

2015-01-10 14:39:02
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

@Line_GOD_Curve 普通に計算したほうがおもしろいよ。音速=340m/s固定でもいいから。

2015-01-10 14:39:38
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

実際にレッスンや講義、リハーサルで使う言葉はごく常識的で平易、かつすぐに役立つものが大半なわけですが、ふと考えるならそれらが「世界の粒度」、より慎重に考えるなら、私達が世界(を弁別的に認識する像)を分節する情報の粒度と随所で深く関わり、それが言語や論理、意味を生み出す事が解ります

2015-01-10 14:42:46
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

理系の学生なら解析の最初のほうで数学的帰納法によって自然数を定義したりする、よく分かる様な解らないような手続きを経験された人も多いでしょう。1があるとし、サクセサーがあるとして、とかいうの。こうした能力を類人猿がどこまで持ち、どこから持たないか。相似拡大縮小の同定能力とか。本質的

2015-01-10 14:44:12
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

結局「思想」のために準備する稿は、日本語で思想の読者にきちんと伝わるものを目指したく、哲学科I先生初め諸先輩、また何より駒場から院ゼミまで若い諸君とのディスカッションを経て、より通じやすいものをと思うわけで、明らかにツイッター向きの話題でないけど、此処にも記している次第です^^;

2015-01-10 14:46:11
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

で、さっきからのまとめ。川嶋君からあったカウエルの先駆的な観点は、例えば蝋管蓄音機などと結びつく発展などあればよいかなと思う(良く知らない)。シュトックハウゼンは第二次世界大戦後のアナログ電子音響技術を用いて出来る所までは徹底し、デジタル以降の部分が落ちています。そういうお話^^

2015-01-10 14:52:09
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

.@action_music あと1.5倍~へミオラみたいな話、シュトックハウゼンのはメシアンからで、元はラヴェルとかフランスの文脈と思うのですが、これとカウエルが直接関わるのか、僕は良く知らないのです。いずれも完全に独立して考えており、おのおの先駆的という何となくの認識で^^;

2015-01-10 14:55:18
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

例えばハープのグリッサンドとか金属巻き線をピックで縦に擦るグリッサンドなどは典型的に「バインディング周波数」=最高速テンポと可聴域最低音の間に位置するやばい領域ですね。マリア・リルケは頭蓋骨にレコード針を宛てる原喧噪Urgeraeuschを夢想しましたがその実相に一歩踏み込む訳ね

2015-01-10 14:59:06
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

リルケはいう訳。頭蓋骨の継ぎ目のギザギザ、あそこにレコードの針をあてて再生したら、いったいどのような響きが聞こえるだろうか・・・と。約1世紀を経て僕らが言えることは、ざらざらとした手触りの帯域雑音、ホワイトノイズは人間の脳が作り出す「色のない音像」で、だから「形」が見えやすい実質

2015-01-10 15:00:57
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

手順に関しては99.9%普通の話をしますが、最終的に音楽で僕が鳴らすのは常にパラドクス、反語的に宙づりになったもの。逆に言えば、言葉なぞで説明してそれで消費されてしまっては、作り手としては完全に負けですから^^ リルケが頭蓋骨にレコード針は勿論荒唐無稽、だからそこに詩が生まれる。

2015-01-10 15:02:49