オバケのミカタ第四話『オバケのミカタと瀬戸大将』Aパート(1/3)

twitter連載小説『オバケのミカタ』の第四話。妖怪&特撮テイストのアクション小説です。
1
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

友愛にとって不運だったのは、今年担任になった教師が「親子のスキンシップ教」の熱心な信者だったことだ。彼女によると、現代っ子の心が荒んでいるのは、親と子の触れ合いが減ったせいだそうだ。つまり一緒に食事をするとか旅行に行くとか、そういうことが足りないのだと。 #OnM_4 48

2015-01-10 22:41:48
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

基本的に子供は、教師の言ったことなんか真に受けない。真に受けないが、ちゃんと覚えておく。同級生を批判するための武器になるからだ。「先生が言ってた」は「テレビで言ってた」に並ぶ最強のカードである。これを切られたら黙るしかない。反論しても泥沼にはまるだけだ。 #OnM_4 49

2015-01-10 22:42:15
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

そして今の担任が何かにつけ「スキンシップ教」の教義を口にするのは、友愛を一方的に殺すことができるカードをクラス全員に配っているようなものだった。友愛に父はいない。母は仕事で毎日遅くまで帰らず、食事はほとんどスーパーのお総菜か弁当で、旅行など夢のまた夢だ。 #OnM_4 50

2015-01-10 22:43:11
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「友愛のお母さん来てなかったけど、仲良くしてる?」最初の授業参観の日、同じグループの桃香が半笑いでそう訪ねてきたとき、やばい、と直感した。「ウン、超仲いいようち。お母さん帰り遅いのに毎晩ご飯作ってくれるし。たまに晩ごはんファミレスになるけど」即座に嘘を吐いた。 #OnM_4 51

2015-01-10 22:44:05
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

弱みは見せられなかった。実情が知られたら、友愛は「親に愛されてない子」いうことになってしまう。それが「心の荒んだ現代っ子」になり「犯罪者」になるのは時間の問題だ。そうなれば後はもう皆のオモチャだ。NOと言っても、怒りを表明してもネタにされるだけ。 #OnM_4 52

2015-01-10 22:44:25
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

友愛はいかに自分の家庭が愛に満ちているかを折に触れてアピールせねばならなかった。母は夫と死に別れて以来、二人分の愛情を友愛に注いでくれるのだと、友愛は説明した。実際のところ父は浮気して母と離婚しただけだが、とてもそんなことは言えないので、この際死んでもらった。 #OnM_4 53

2015-01-10 22:45:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

嘘に嘘を重ねていくのは気を遣う。前の嘘と矛盾はないか、何かの拍子に全てバレやしないかと、常に戦々恐々としていなければならない。そんな中で、今日の外食はありのままに語ることのできる、貴重な話題となるはずだった。それなのに――結局これも嘘になってしまった。 #OnM_4 54

2015-01-10 22:45:24
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ウ、ウーン、ウーン」ふと、か細いうめき声が、鬱々とした友愛の思考を断ち切った。「ウウウーン」庭から聞こえてくる。人の声のようだ。一緒に、食器がこすれるような音も聞こえてくる。友愛は庭に面したサッシを開き、サンダルをつっかけて芝の上に降り立った。 #OnM_4 55

2015-01-10 22:45:49
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

周囲を見回したが、伸び放題の芝から雑草がひょろひょろ顔を出しているきりで、何もいない。てっきり近所の幼稚園児か、さもなければ変な声の犬猫でも入りこんだのかと思ったのだけれど。「ウーン、ウーン」また、声がした。道に面した生垣の方からだ。友愛は振り向いた。 #OnM_4 56

2015-01-10 22:46:33
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

そして、妙なものが動いていることに気づいた。白い。コバルトブルーの線が入っていて、動くたびにカチャカチャと音を立てている。友愛は足音をしのばせ、そうっと生垣に近づいた。目を凝らす。それはポット――ボーンチャイナのティーポットだった。ティーポットが動いている? #OnM_4 57

2015-01-10 22:47:54
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

中にバッタでも入りこんで暴れているのかと思った。友愛はさらに近づき――ハッと息を呑んだ。ポットは、上下で真っ二つに割れていた。上半分がこちら側に転がり、下半分は生け垣の枝に引っかかっている。中は空っぽだ。そして上半分から伸びた腕が、下半分を引っ張っている。 #OnM_4 58

2015-01-10 22:48:18
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

腕は焼き物の破片を組み合わせたようなモザイクタイル状だ。ポットの下半分はがっちり枝にくわえこまれてしまっており、外れる気配はない。「ウウウーン……!」上半分が力むあまりにそり返ると、乗っていた蓋がころんと落ち、そこにくっついていた目玉と、友愛の目が合った。 #OnM_4 59

2015-01-10 22:48:42
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「……ちょっと貴女。ぼーっと突っ立っていないで、手伝ってくれませんこと」注ぎ口をぱくぱくさせながら、ティーポットが口を利いた。友愛は腰を抜かした。 #OnM_4 60

2015-01-10 22:49:00
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

投げ飛ばされた星子は道場の床へしたたかに叩きつけられ、勢い余ってごろごろと転がった末、壁に激突してようやく止まった。「痛ったーっ!」間髪容れずにマコトは地を這うような水面蹴りを放った。昴の足を刈って転ばせ、腹の上に肘を振り降ろす。「ぐえーっ! 参った!」 #OnM_4 61

2015-01-10 22:49:47
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

少女と青年の姿はたちまちかき消え、代わりにぐったりした二羽のカラスが出現した。マコトは油断なく構えを戻し、遠巻きに組み手を見守っていた明星坊に向き直った。「え、ワシも?」老人がおのれを指差す。「お願いします」彼女の口調は柔らかいが、有無を言わせぬ響きがあった。 #OnM_4 62

2015-01-10 22:50:43
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

鷲鼻と禿頭が印象的な老人はしぶしぶ、といった様子で構え、気合い一閃、マコトに打ちかかった。中段突き。マコトはブロック。続く左右の連打も手の甲と肘を巧みに使用して捌くと、マコトは明星坊のふくら脛に強烈なローキックを見舞った。ぱん、と肉を打つ音。「おうっ!」 #OnM_4 63

2015-01-10 22:51:09
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

明星坊はけんけんしながら飛び退く――かと思わせておいて、そこからいきなり上段の回し蹴りを放った。虚を突かれたマコトの防御が、一瞬遅れる。ぎりぎりでガードしたものの体勢を崩され、マコトは横にたたらを踏んだ。そこへ明星坊の正拳が迫る。「きえーッ!」 #OnM_4 64

2015-01-10 22:51:25
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

鳩尾を狙ったその拳をマコトは避けようとせず、逆に自分からそれを受けにいった。鎖骨に拳が突き刺さるが、威力が乗りきっておらず、有効打には程遠い。そしてマコトはその腕を巻き取るように捕まえると、床を蹴って跳躍、両脚で老人の腕を挟み取った。跳びつき腕十字だ。 #OnM_4 65

2015-01-10 22:51:47
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「あいだだだ! ギブ! ギブギブ!」引き倒された明星坊は床板をバンバン叩いて降参した。マコトは技を解き、スルリと立ち上がる。壁際で観戦していた二羽のカラス――星子と昴――が、揃って溜息をついた。「お師匠……」「じゃって無理じゃもんこんなの! 老人虐待反対!」 #OnM_4 66

2015-01-10 22:52:13
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

ここは彩瓦市と厚木市の境界近くにある、小さな古武術道場だ。道場主の明星坊は《天狗》。門下生の星子と昴は《鴉天狗》だ。マコトは週に一度か二度、こうして彼らに稽古相手を頼んでいるのだった。練習は主に実戦形式で、一人では練習しづらい投げや寝技の訓練も兼ねている。 #OnM_4 67

2015-01-10 22:52:40
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「歯ごたえなくてごめんねーマコ姉。鞍馬の人たちとかだったら、もうちょっと相手になるんだろうけど」星子がうなだれると、首に提げた巾着袋が揺れた。「いえ、そんな。胸を貸していただけるだけでも私はとても助かりま……っくしっ!」「なんじゃ、クシャミなんぞしおって」 #OnM_4 68

2015-01-10 22:53:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「おぬしが風邪とは珍しいの」「いえ、そういうわけでは……?」「誰かがマコ姉の噂してんじゃないの?」「迷信だろそんなの」言った昴に、星子は侮蔑的な視線を送った。「莫迦。あたしたち自体が迷信みたいなモンでしょ」「あ、そうか」「……」マコトは無言で首を傾げていた。 #OnM_4 69

2015-01-10 22:53:28