【邪悪の樹――二籠】第一戦闘フェイズ――理の樹

万斛の鎌――無感動(@Apathie_Evil) 伽藍の矢――物質主義(@materia_evil
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無感動Apathie @Apathie_Evil

唯一『外』へと向かう、その扉を潜って。 ——見えたのは広い空間だった。足元、靴に硬い感触。かつかつと確認をしながらぐるりと周囲を見渡した。 ああ——そういえば、【色欲】に髪を結って貰うのを忘れていた。 「……闘技場か」 声を出して感覚を確かめる。

2015-01-11 19:56:06
無感動Apathie @Apathie_Evil

異常はない。『いつも通り』だ。整えられてもいない髪が肩にかぶさるのを払いながら真っ直ぐ円形に作られた石畳の中を進んでいく。巨大な円形闘技場。 ——相手は、既に居るのだろうか。広過ぎる空間、見渡すにも暇がかかる。

2015-01-11 19:56:07
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

扉をくぐるその肩に、その頭に、未だ『残酷』の手の感触が残っていた。戻って来なければならない。戻ってきて欲しい。そして、また。 そう改めて思い直した。そうして決意を終える頃には、もう視界は開けていた。

2015-01-11 20:22:14
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

隙間無く地面を覆い尽くし見渡す限りに続く石畳、逃がさぬとばかり高く聳える床と同じ色と材質で出来た壁。見渡す限りの灰色。屋敷を見慣れた目にとって、随分と退屈に見える世界。 その中を見渡すうち、やがて視線は一点で留まった。灰色の中に煌めく一粒の金を、彼方に見出した。

2015-01-11 20:22:49
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

興味と衝動に導かれるままそれを目掛けて駆け出す。踏み出したブーツの足音、擦れ合う鎧の金属音、引きずられる槍の擦れる音、そのすべてを知らないまま。

2015-01-11 20:23:03
無感動Apathie @Apathie_Evil

脚を動かしたまま周囲を見渡しているうちに、音が聞こえた。石畳を踏み締め蹴りこちらへと距離を詰める一つ。堅牢とは言えないでもしっかりとした鎧を身に着け槍を手にした——『男』のようなモノひとつ。 足を止めて右手を伸ばすのは『準備』の起点。

2015-01-11 22:21:58
無感動Apathie @Apathie_Evil

次点に手を握るのは剣を持つにはその動作が必要だから。握れば、すぐさま黒い剣が姿を現す。 終着の三つ目には左の脚を引き剣先をそちらに向け構えを象る。来るその正面に向けるのは半身、突くも薙ぐも、まずは一つの交叉で見る為に、身構えるのは最小限。 ——言葉は不要だろうと脳裏に一つ。

2015-01-11 22:22:00
無感動Apathie @Apathie_Evil

冠した名の如く矢と疾駆するそれをただ、見据える。

2015-01-11 22:22:01
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

手にした槍の先端が前へと向けられてさえいれば、それはまさに放たれた一矢と紛う様であったろう。しかし武器はその役目を果たせぬまま石畳に身を削られていくだけ。そしてついに、うっかり握り忘れでもしたように無造作に投げ出され、離された柄が地面を打ち付けるよりも前に音なく消失した。

2015-01-12 00:01:46
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

その持ち主はただ目に入った金色へ近付くことに、その示すところを知ることだけに夢中だった。 やがてそれは金が人の形を成していることに気付き、同色の視線が自分を向いたことに気付き、その手に現れた黒の切っ先が自分へ向けられていることに気付いた。

2015-01-12 00:01:53
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

認識した瞬間に、確かに「男」であった姿が陽炎のように揺らぐ。その姿に重なるように、怯えた目をした年端も行かぬ子供が幻じみて顔を出す。石畳を叩く足音は急速に音量を下げ、そのまま数度響き、止まった。 ぶれた姿は静寂の訪れとともにひとつへ纏まる。それは見据えた初めと同じではない。

2015-01-12 00:02:02
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

向けられた刃に相対するのは、二人を囲む石壁をそのまま切り取ってきたような大盾。その陰から顔を覗かせるのは、先よりも装甲の量を増した鎧に守られた男。蒼い瞳には風貌にそぐわぬ恐怖の色が纏わり付いていて、それは同時に、たった一つ残った幻影の子供の面影でもあった。

2015-01-12 00:02:09
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

交錯するは視線のみ。 歩くならば五歩ほどかと思える距離は戦いにおいてあまりにも短く、だが男が踏み出すことはない。 恐れと鎧と盾とに身を固められた男は、それ以上に動けないのだ。

2015-01-12 00:02:23
無感動Apathie @Apathie_Evil

金はそれを見て——その金色を瞬かせた。動かない表情が動いたとしたら、驚きか、意外だと言わんばかりのものに変わっていただろう。 構えを解く。切っ先を下ろす起点に続いて、剣は握ったままに常の直立に戻り。 「……どうした」 問うにしては固い声。それも、いつも通りではあるのだが。

2015-01-12 01:28:11
無感動Apathie @Apathie_Evil

「心臓を喰いに来たのではないのか」 楯から顔を覗かせるその姿は、【無感動】が【無感動】出さえなければ何かを覚える事もあったやも知れないが。 ——何を失っているのか。矢のモノがこちらと同じとも限らないが、分からないにはどうしようもないと、ひとまず声を向けた。

2015-01-12 01:28:12
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

石畳を向いた切っ先に、大きく安堵の息をついた。しかし体勢は変えぬまま、不安げに揺れる蒼を変わらずそこにある金へと向け、その口元が何やら言葉を紡いだことを見て取った。 対話の可能な相手であるならこの大盾の必要性は薄い。けれどもあの剣が今度こそ自分へ振るわれないという保証はない。

2015-01-12 02:32:46
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

逡巡する。伝えることが出来て、なおかつ振るわれた剣に咄嗟の対応のできそうなものは、無いか、何か。 記憶をさほども遡らぬうちに思い当たるものが一つ。それは望んだ通りに、瞬くより早く、大盾と入れ替わるように現れる。

2015-01-12 02:33:09
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

白地の四角い板に同色の無骨な持ち手。『不安定』の使っていたと同じプラカードは石畳を貫けずに倒れ込み、男は慌ててそれを手で支え、その文面を相手へと見せる。 『ごめんなさい おと わからないの  きらないでくれて ありがとう』

2015-01-12 02:34:32
無感動Apathie @Apathie_Evil

金色はそのなんとなくこまこまとした仕草を見て、そして軽く息を吐いた。 ——言葉は不要なのではなく通用しないとは。 看板のようなそれに浮いた文字は子供染みているしと思いながら少し考える。周囲を見渡しても文字が書けるようなものは無い。石畳に血文字——は、どうなのだろう。

2015-01-12 18:29:48
無感動Apathie @Apathie_Evil

自分の手を切ったところで違和感しか残らないが。 ひとまず——いきなり切り掛かってもあの楯を再び出されては突破するのには暇がかかるだろう。警戒というよりも恐怖されているようにも見えるが、己で見てもこの細い身体のどこに恐怖しているのかも分からない。 どうしようかと、思考を巡らせて。

2015-01-12 18:29:48
無感動Apathie @Apathie_Evil

——【拒絶】と【色欲】がそうしていたように。 黒い剣は足元、石畳に突き立てる。刃の具合はいつも通りだとそれで確認しながら、一歩だけそちらに距離を詰めて左手を伸ばした。 そのまま、手招く。右手の指先で左手の掌を何度か叩く。 掌を出されればそこに文字を書くつもりで。

2015-01-12 18:29:50
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

踏み出された足、差し出された手。僅かに躊躇する様子を見せるものの、剣の刃先が石畳の向こうへ消えているのを確認すれば、動けぬほどの重厚な鎧とその前面を隠すプラカードは解けるように消え、軽鎧に身を包んだ様が露わになる。金が最初に認めた姿へ。

2015-01-12 20:59:08
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

そうして望まれた通りに、目の前の相手へと掌を差し出した。その手だけでも斬り落とそうと思えばほとんど苦労は無さそうな、そんな無防備さで。

2015-01-12 20:59:10
無感動Apathie @Apathie_Evil

すんなりと手が出て来たことには会話が不可能な相手ではないという判断が固まった。 左手で差し出された手を支えるようにして右手の指で掌に文字を書く。問いは単刀直入に。 『戦いに来たのでは無いのか?』 ——文字の上では疑問符が消えることは無い。名告りは省いてそれだけ書いて眼を見やった。

2015-01-12 21:45:29
『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

向けられた金色の眼差し。それから逃げるようにこちらの視線は出したままの掌へ落ちた。指の動きは文字と同時、自身の心にわだかまる同じ問いをも描き出す。 最初にこの場に立ち辺りを見回した時、自分を送り出したはずの扉はもはやそこには無かった。

2015-01-12 22:40:45