宵の血に依る契約城:三日目夜

──そして、最後の夜に。
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ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

俺の生きてきた世界には、たったそれだけのことをしてくれるものが、あまりにも少なすぎた。 突き放すような言葉にも、薄情だなどと思わない。優しさや甘さを求める気持ちを、俺はまだ覚えていない。 触れた手を、その指先を、縋るように掴んで、見上げる。 「死ぬ時は、“俺”のままで、死にたい」

2015-01-17 14:53:43
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

左の片方しかない菫の瞳は、揺れてはいない。不安も、疑念も、抱いてはいない。ただ、正体の分からない嫌悪と恐怖を、どうすることもできずに、震えている。 「――から、手、出しても、別にいいけど……そのまま、死にたくは、ねーから」 都合の良すぎる眠気に見舞われて、ぎゅうと手に力を込めた。

2015-01-17 14:53:50
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「……起きたら、お前の話も、聞きたい。俺、ヴァエクのこと、まだ、何も……」 瞼が落ちてくる。寝てろと言われたせいだろうか。意識も、落ちていく。 全身から、くたりと力が抜けた。ソファーとヴァエクに身体を預けるようにして、“俺”は眠る。“あたし”はいるのかいないのか、菫は隠れたまま。

2015-01-17 14:53:58
ヴァエク @elqVaec

「……ハッ。言ったろうが、死なせねェってな」 腕にかかる重みは、あまりに軽い。 閉ざされた瞳に、ヴァエクはかつての言葉を言い直す。 好きと言うその言葉には、想いがあった。 他人を、吸血鬼を、周囲の全てを遠ざけていた心では、もうないのだと知った。その変化は、望まれぬものではない。

2015-01-17 19:48:16
ヴァエク @elqVaec

肩に回した腕。掴まれた掌を、ヴァエクは更に握り返す。 決して、離さぬ様に。 「心配すんな。時間なんざァ、まだまだ幾らでもあンだ。幾ら定命のお前らだって、語る間ぐらいあらァ」 その声は、もう届いていないのだろう。 故に一つ、落とさねばならぬ言葉がある。 最期に残る、機会を。

2015-01-17 20:09:54
ヴァエク @elqVaec

「──『逃げンな』」 一拍。間をおいて、告げる声。 その言葉は、明確に告げられたそれは、過たず『命令』。 その意味は、内に在る者への呼びかけか。 ──あるいは、続く行動への閧の声か。

2015-01-17 20:11:34
ヴァエク @elqVaec

ソファーの背を、滑る腕。 靡く銀糸。傾く身体。 寝かされる、身体。 音が一つ。外される口布。 覆い被さる、身体。 呼吸。熱の吐息。 花の香りに、血の薫りが混ざり合う。 感じる熱を、隔てる物はもう何も無い。 逆らわなければ。 抗わなければ。 乙女の唇を奪う、獣の顎が、今落とされて。

2015-01-17 20:11:56
匿名企画『宵の血に依る契約城』 @Conces_Castle

——影落ちる夜の中で、ただ一つ佇む。 ——たまの瞬きも、見通す視線を遮るようなことは無く。 ——無音、見下ろす翼は動かない。

2015-01-17 20:46:52
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

桜色の衣と銀色の髪が、ソファーに広がる。 噛み付くにしては、優しく。 喰らうにしては、柔らかく。 奪われる。 唇が触れ合う。 吐息が、熱が、混ざり合う。 眠りの中。“人形”でなくとも、抗うなど、逃れるなど、できようはずもなく。 故に、静かに。 故に、厳かに。 口吻は、交わされる。

2015-01-17 21:33:20
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

それを切欠とするなら、まるで御伽話の姫君ように、“人形”の目が薄く開かれる。輝きを忘れて曇った菫が、覗く。そこには、何の感情も、少しの意思も、滲まない。 封じられた唇は言葉も紡がず、応える動きもないまま、ただ為されるがまま、覆い被さる獣の気が済むのを待っている。

2015-01-17 21:33:29
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

部屋の外から、控えめに、戸を叩く音がする。シアから言い付かった者は、憐れにも、室内の事情を知らない。

2015-01-17 21:33:36
ヴァエク @elqVaec

繋がる。 奪う。 啄む事さえなく、初めから貪る交わり。 それは血が流れないだけで、捕食の光景となんら変わりはなかった。 零れた、血薫混じりの息。 離された瞳に映る、光のない菫。 「お目覚めの気分はどォだ?お姫様よォ」 寄せたままの距離は、腕の中。

2015-01-17 23:51:09
ヴァエク @elqVaec

扉を叩く音。 一度目は無視した。 二度目は、応えた。 叩かれたその位置に、打ち込まれた血槍にて。 ……よもやウィータスラーウァの服を持ってきた召使いとは、思いもしないまま。

2015-01-17 23:54:47
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

扉に穴が開く。世話役の者達の微かな悲鳴は、室内までは届かない。気配が瞬く間に散って消える。おそらく、預かった荷、ウィータスラーウァの服まで血塗れになってしまったことだろう。果たして、彼らは、それを部屋に届けるという言い付けを、守ることができるのだろうか……。

2015-01-18 00:40:19
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

そんな、悲劇とも喜劇ともつかない事故にも、あたしは眉ひとつ動かさずに。 腕の中に囚われたまま。深く、強く、貪られたあと。 「……好みではないと、言われた気がするのだけど」 呼吸のひとつも乱さず、返す声は淡々と。夕方のことだ。そのために、“俺”はひどく傷付いたのに。とは、思うだけ。

2015-01-18 00:40:30
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

疑問にはしないまま。首を傾げる動きさえ、ない。 「ご用向きは、何かしら」 “人形(あたし)”は、従うべき言葉を待つ。

2015-01-18 00:40:40
ヴァエク @elqVaec

「……ッたく。ちったァ求めるだの嫌がるだのしろや。 ホントに筋金入りかお前は」 リアクションの薄さにヴァエクは舌打つ。 分かっていた事ではあるのだが。 「ま、祝言の前祝いみてェなもんだ。 それと……どうせ『最期』なら、最後に女としての悦びを教えてやるのも良いだろォと思ってな」

2015-01-18 01:41:55
ヴァエク @elqVaec

ふざけたような、その言葉。 ヴァエクは、珂々と笑う。布の隔たりは失せ、明らかになる口元。撓んだ口端から、牙が零れて見えている。 「言わなくてもわかンだろ。っつうか『解ってる』だろうが。 過保護すぎのは、もう結構だと」

2015-01-18 02:18:04
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「求めることも、拒むことも、あたしには許されてないの。それがあなたの命令でも」 一度与えられた言葉は、撤回されない限り効力を失わない。あたしはいくつもの命令に、縛られている。 「だから、できることだけで、できる限りをしたわ。“俺(この子)”自身が狙われることは、なくなったはずよ」

2015-01-18 11:13:56
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「そう、わかってる。代わることで守れたのは、“俺(この子)”がまだ幼かったから。今はもう、それじゃ、本当には守れない」 ゆっくりと瞬きをしながら、ゆると首を振る。 “俺”が“あたし”を嫌悪するのも、よく理解できている。“俺”の心は、かつてのあたしが持っていたものと同じなのだから。

2015-01-18 11:14:03
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「……封具(それ)、外しましょうか」 青い光を宿した封具を外せるのは、契約者となる人間だけ。人間の手でそれが外されることで、契約の儀が成立する。 「“あたし”は消え去るのだから、“俺”が契約することにはならないわ。外さなくても、そんなもので、あなたが餓死するとは、思わないけれど」

2015-01-18 11:14:10
ヴァエク @elqVaec

「止めろ」 表情こそ常の砕けたものだったが、声の質は頑としたものだった。 落とす視線は、手首。青玉の嵌まる、一つの腕輪。 「コレは、ウィータスラーウァ(アイツ)に用意された物だ。 ウィータスラーウァ(お前)の物じゃあねェ」 例え本質的には同一の者であろうと。

2015-01-18 14:19:09
ヴァエク @elqVaec

「オレ様が選んだのはアイツで、アイツが選んだのは何も選ばねェ事。それで片ァ付いてんだ。 たとえお前でも、そこに割り込ませねェよ」 故にこれは外されず、積み上がる一つ。 落とした視線を再び戻せば、黒に映す菫。その逆は果たして成されぬまま。 「むしろ外せと言いてェのは、そっちだ」

2015-01-18 14:25:03
ヴァエク @elqVaec

「『諾』(はい)しか言えねェのは、もう終いだ」 空いた腕が、その頬を触れる。 指先に感じる凝血。思えば最初の遭遇はこれだった。 「コイツ守る為にお前が出張るのも、護る為にお前が殺していくのも、終わりにしようや。 もうコイツまで、お前にする必要はねェよ」 それは、一つの宣言。

2015-01-18 14:38:48
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

止めろと言われれば、 「諾(はい)」 とは淀みなく。 曇った菫が、黒の視線を追うことはない。これはただ、声のする方へ、向けているだけなのだから。 「外せ、とは、何を?」 シアに着せられた服と、髪に飾られたものと、眼帯と、靴。その他には、何も外せるようなものを、身に着けてはいない。

2015-01-18 16:05:03
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