不知火に落ち度はない 32(モグリ)
「じゃ、出発しんこー。シートベルトは締めてね」 「あ、はーい。えっと、ここの港までお願いできます?」 マルした地図を見せてくれる。 結構遠いなここ。 「オッケ、その間にご飯しよっか」 シートベルト装着確認。 じゃ、ドライブ行きましょうかね。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 16:39:30そして同時に動き出すバン。 もうわかりきったパターンである。 ──ちょっと遊んでやりますか-。 そうして、女の子付き、楽しいドライブが始まったのであった。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 16:40:36■
「あ、あのぉ……長瀬さん?」 「なぁにかな? 長良ちゃん」 本日入ったのは、ちょっと恋人達の集う有名店。 現在俺達は海のパノラマが一望できる、カップル席に座ってる。 流石に長良ちゃんも気づいたらしい。 ちょい顔赤くして、もじもじしております。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:00:43「あのですね! 自分は作せ……むぎゅ」 はい、しー。 軍人さんはそういうのを公の場で言ったらいけないぜ。 指で制して、ダメだぞ、ってしてあげないと。 「こういう店嫌いだったかい?」 「あ……いえ、あの……」 うん、かわいいね。長良ちゃんは。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:03:01なお、視界にはあのバンに乗ってた連中がいる。 素直な連中である。こんな店内にわざわざ入るんだから。 駐車場で待ってればいいじゃん、って思うだろ? ここ、駐車場も目の前にあるのよ。 なんかしようにも絶対できないし。 したら即電話通報だしね。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:05:18だからってわざわざ店に入るかって? 書いてるのよ、駐車場の看板に。 『レストラン利用のお客様以外の駐車はご遠慮ください。悪質な場合は通報します』 ここ、景色いいじゃん? カーセックスのメッカなんだよ、まじで。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:06:32つ・ま・り・だ。 カップルでいっぱい、いちゃいちゃタイムの空気の中に突如投げ込まれた厳つい男達。 ホモカップルが居るぞーって、ちらっ ちらっ と熱い視線をいただいてます。 あとはボッチグルメのおじさんが一人。 あっちはかろうじて風評被害を避けてる。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:09:36だが、すんごい居づらそう。 メニューを開きもしねえで、誰とも目を合わせられないで居る。 あー、面白いねえ。 こっちからはあんたら全員丸見えですよ。 超絶目立つカモパンはいてきたのは失敗だったねロシア人。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:12:04片目は渋い顔するが、この作戦結構有効なんすよ。 女子コンビだと難しいけど、一番いいのは男女組。 たまに任務を忘れて男と女の顔になるんで、ワインを一杯おごってやるんです。 それで追跡なくなったことあるしね。 殴り合いで解決するこたぁないんです。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:21:23一方長良ちゃんは、メニューと格闘中。 どれが旨いか、って顔しつつ、お財布と相談ってところかな。 「オススメはそーだね。まずこのラムと、あとシャラン鴨。期間限定のベジョータソテーもいいよ」 お肉好きそうな子だもんな。 ちょっとよだれ今出たよ。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:24:09「え、っと。あの……それ値段書いてない……」 「じゃ、俺が頼むから、半分こしよう」 さっと手を上げ店員さんを呼ぶ。 そして、にっこり笑って言ってみる。 「ラムと鴨と、このソテー。あとはオススメの肉あったらそれも」 畏まりましたと言われました。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:27:02これでローストまでは時間がかかる。 「あ、このピザもおいしそうじゃない? マルゲリータ」 「あ。ほんと。これいっちゃおうかな」 長良ちゃんは少し目元を緩ませて言う。 お値段は漱石一人ちょい。 金銭感覚的にはフツーの子なのね。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:29:48「えっと、サラダは……」 「セットでスープとつくよここ。メチャおいしいから、ここのにんじんドレッシング」 珍しいだろ? でも超うまいのよニンジン入り。 「あとはドルチェもセットでつけられる。ただ、内容は決められない」 「え? ここ、指定ないんです?」 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:37:28「なにかアレルギーや、嫌いなものあったら、注文の時言えるよ」 「え、き、キワモノとか来ないかな……」 「俺の通った限りでは、焼きプリンやティラミス。あとはチーズケーキ類だね」 「あ。ならよかったぁって……通ってるんです?」 お、突っ込み来ましたか。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:39:15「気になる?」 「あ……な、なりませんけど別に」 顔をやや赤くして言われたね。 どんな想像をしたかはわかる。 「そうだよ。ここのドルチェは最高でね。やみつきなんだ」 「そ、そうなんですか」 ほふ、と息を吐いて言う。 やっぱ年齢詐称されてない? #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:43:39「長良ちゃん。二十歳過ぎてんなら、ワインもいいよ? イタリアのやつ揃ってるから」 「あ、いや!! お酒は……えっと、弱いんで」 わたわた手を振る。 なーるほど。訳ありなのね。 食べられませんマークつけたっと。 じゃあ、これはちと片目に相談だな。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:46:04「じゃ、俺はあとカラスミのクリームパスタにしよっと」 「え。カラス?」 目を丸くしてびっくり長良ちゃん。 ほぼ確定。酒は経験できない年齢だな。 「魚卵の燻製だよ。おいしいから一口食べてみない?」 「あ…はは。じゃあせっかくだから!」 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:51:52そして再度呼びつけて、ご注文。 ピザは早めに焼き上がるだろうから、今お腹を鳴らしそうなこの子は満足できるだろう。 駐車場の方は動きなし。 そりゃそうだ。レストランで電話って今時やらないからね。 やろうとすれば、即俺に見つかるし。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:53:38「あ。長良ちゃん、聞いていい?」 「え? 何です?」 外の光景を眺めてたところを呼び戻され、こちらを振り向く。 「つきあってる人とかいるかい?」 「?!?……おおおお お答えできません!」 あははは。ごめんごめん。 「そっか、俺はいないよ」 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 17:57:12「いや、関係ありませんし?! な、ナンパですか?」 「うん、最初からそう言ってるじゃない」 「!? そ、そう言えば……そうだったかも」 可愛いねぇこの子。 「ごめんごめん。話題変えよっか。どっか泊まりの帰りかい?」 「あ……えっと。そんなところです」 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 18:03:08「大変だね。一人であんなところとか」 「あはは……体力には自信あるんですよ」 「車とか運転しないの?」 「あー……免許ないんです。それに立派な足ありますから」 なるほど。徒歩移動か。 いや、現実的じゃないな。 タクシーは流石にないから、バスかな。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 18:07:28「うん。立派な足してる、陸上選手かと思った」 「あ、わっかります? えへへへへ」 うん、相当自信があるとみた。 「スプリントかな。ほら、ふくらはぎが少し四角いよね」 「わ、すごい。正解です。長瀬さん詳しい」 そうだね。じゃ、教えてあげるか。 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 18:12:14「一応、元ボクサーですんで。アマチュアだけどね」 「えー。見えない。ぜんっぜん見えない」 「だよねー、あははは」 一応オリンピック候補だったけどねー。 こんな状況じゃ出られないご時世だし。 「相当成績良かったんじゃ?」 「あ、はい」 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 18:17:41「えっと、国体で準優勝。世界大会には出られなかったけど……」 「おー、すっごいね。世界レベルと知り合いになれるなんて。サインもらっていい?」 「い、いいですけど」 照れ照れしてる。 スッと、手帳の一番最後のページを開く。 「長瀬艦長へ、でいいです?」 #不知火に落ち度はない
2015-01-28 18:20:03