座礁艦隊その45 ~海上護衛~

@ ryorinovels 氏の #座礁艦隊 まとめました
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RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

断崖の頂きはたった54メートル上だというのに、五十鈴には長距離遠征の航路よりも遠く感じられる。雨は岩肌を叩き、うかつな場所を掴めば滑り、落ち、ザイルで繋がれた巻雲の状況次第では一蓮托生で麓の海面に叩きつけられるだろう。艦娘の船体はその衝撃に耐えられるだろうか。 #座礁艦隊

2015-01-24 21:40:36
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

手と足、一つ一つ動かし、岩肌を掴み、引っ掛け、踏ん張って、登る。その動作に集中する。少しでも不安のある場所は選ばない。スタミナの心配は無い。長期間の作戦行動をこなす艦娘は、この程度で疲れない。問題があるとするなら、艦娘によるクライミングは世界初だろうということだ。 #座礁艦隊

2015-01-24 21:46:57
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

だろう、だろう、だろう。 分からないことが多いと人は不安になる。艦娘も同じ。クライミングの練習は、作戦が決まってから可能な限りやったけど……。五十鈴は斜め下の巻雲を見やって、とりあえず安全そうなポジションを確保し、 「1から2、登れ」 巻雲へ簡潔に通信。小声で。 #座礁艦隊

2015-01-24 22:12:33
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

交互に登ってゆく。万が一の時は、止まってる方が支える。ちゃんと支えられるかしらん。濡れた岩肌は裏切ることがある。訓練で何度滑って落ちたか。クッションの無い眼下の海面は、叩きつけるとコンクリートに匹敵する硬さになる。落ちれない。落ちてはならない。 #座礁艦隊

2015-01-24 22:21:55
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

巻雲が真横を追い抜くとき、五十鈴は彼女の顔を見る。微笑。楽しそうな。潜ってた時はあんなに愚痴ってたのに。すいすい登坂してゆく。あっという間に待機ポジション。 『ツーからワン、登れ』 一息つく間が少ない。不満。手を伸ばす。足を上げる。引っ掛け、踏ん張る。 #座礁艦隊

2015-01-24 22:26:09
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

『遅いですよお、何もたついてるんですかあ』 嫌味たっぷりの巻雲モデルの声がムカつく。五十鈴はきっ、と上を睨む。 「あなたはよくスイスイ登れるわね。しかも楽しそうにして」 『楽しいですもん。少なくとも海中で潜水艦の真似をするよりは遥かに』 #座礁艦隊

2015-02-05 21:58:23
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「雨風でいつ不意に滑落するか知れないのに?」 『五十鈴が滑ったら遠慮なくザイル切りますから、お気をつけください』 クソメガネめ。五十鈴の悪態は雨風にかき消される。 と、右手をかけた石が絶壁から外れる。その勢いで左手も滑り離れた。 ヤバい。 首の後ろが冷える。 #座礁艦隊

2015-02-05 22:03:48
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「ぐっ」 一つ前に掴んでいた隙間に指を差し込み、滑落を止める。痛みの信号が手に走る。肝が縮こまった。おそらく大多数の艦娘が一生味わうことのない感覚。 再び巻雲を見上げると、すでにナイフをこれ見よがしに準備してある。あのクソメガネ、本気だったのか。なんて奴だ。 #座礁艦隊

2015-02-05 22:07:14
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

『危なかったですね』 「そのナイフしまって。必要ないから」 どうしてこいつと私なんだ。巻雲はともかく、艦体そのものが駆逐艦よりも重い軽巡洋艦の五十鈴に岩を登らせることを決めたのは誰なのか。これも自分だけの運用方針なのか。艦娘の本来の機能や装備を極力使わせないという。 #座礁艦隊

2015-02-05 22:11:34
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

いや、余計なことを考えるのはやめよう。やれと言われた以上やるしかないのが軍隊だし、それは海軍でも水陸機動団でも同じ。今は登るしかない。 『シンカーワン、ツー、停止せよ』 突然叢雲から指示が飛ぶ。 「こちらシンカーワン、どうしたの」 『右手の海上を見て』 #座礁艦隊

2015-02-05 22:15:19
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

首を回して目を凝らす。 何かいる。数キロ先の海上に、三隻の船。 岩肌を掴んでいる手の状態を確認し、フリーな方で双眼鏡を持つ。 「船ですねえ。二隻確認」 「貨物船に……あの起重機、サルベージ船かしら」 「どっかの鎮守府の海上護衛艦隊もついてます」 #座礁艦隊

2015-02-05 22:24:03
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

叢雲へ報告しようとして、五十鈴はその船の航路がまさにこの岩礁を目指していることに気づいた。 「シックス、二隻の船はこちらへ向かっているわ。軽巡一、駆逐三の典型的な護衛艦隊付き」 『了解。船が岩礁の中に入港するまでその場を維持。動くな』 #座礁艦隊

2015-02-05 22:28:32
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

ますますややこしくなったらしいことを五十鈴は感じた。サルベージ船は轟沈艦娘を引き上げに行っていたに違いないが、それに艦娘の護衛がついていたことが問題なのだ。 「どっかの鎮守府がグル、ってことですかねえ」 「だとしたら大問題よ。利敵行為で重罪だわ」 #座礁艦隊

2015-02-05 22:32:32
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

このまま潜入したら、あれらとも戦うことになるのだろうか。船は岩礁へ接近し、護衛艦隊の内訳も明らかになる。龍田モデルを旗艦に、三日月、文月、菊月の睦月型で固めた省エネ編成。 暫くしてすべて断崖の陰に隠れる。 『船団の入港を確認。ワン、ツーは護衛艦隊の出港まで潜入中断』 #座礁艦隊

2015-02-05 22:40:38
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「泳がせる、ってこと?」 『そうよ。既に猪口さんが外諜の別部隊に指示を出して追跡の準備に入ってる』 「その……もしどこかの鎮守府がこの違法サルベージに協力してたら」 『まだ情報は十全じゃない』 通信の相手が猪口敏江、"元"戦艦武蔵に代わる。 #座礁艦隊

2015-02-05 22:44:19
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

『知っててやっているのか知らずにやっているのか、知っているとしたら誰まで知っているのか。それら次第だ。今の護衛艦隊は何も知らずにただいつもの海上護衛任務を行ってただけで、サルベージの中身は見ていない、なんてことも充分ありうるからな』 #座礁艦隊

2015-02-05 22:49:05
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

いずれにせよ当該鎮守府には査察が入るだろうが、と猪口敏江は締めくくった。 十数分ほどして、四隻の艦娘は岩礁から出てくる。五十鈴らの背後をぐるりと回って、北東の水平線へ消えてゆく。 『ワン、ツー。登坂再開せよ』 五十鈴はまた登りだす。頂上は少しだけ近くなった。 #座礁艦隊

2015-02-05 22:58:54