熱(前編＋後編)

かおり @orange_shake_

【熱・1】 『大丈夫…？』 「…ごめん、大丈夫じゃない。」 ＊ 熱を出したという知らせを受けて飛んできた彼女の自宅。 開けろ、嫌や、の押し問答が玄関先でしばらく続いた後、体力の限界が来た彼女がふらついて。 『ええから開けぇ言うてるやろ！』

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【熱・2】 思わず、自分らしくない大声を出して半ば無理矢理にドアを開けさせた。 そんなになるまで無理させたん俺やのにな。 なんとか鍵を開けてくれた彼女を抱えると、めっちゃ熱くて。 なのに寒い寒いってうわごとみたいに言って、震えて。 これ、思ってたよりやばいやつちゃうん…？

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【熱・3】 大慌てで彼女をベッドに運んで、貼っていたけどすでにカラッカラになったおでこの冷却シートを貼り替えて。 えっと…何したらええの？ クローゼットを開けて、ありったけの何かあったかそうなもん着せて、布団になりそうなもん全部かぶせて。 えーっと、えーっとぉ…

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【熱・4】 『大丈夫…？』 「…ごめん、大丈夫じゃない。」 そして、冒頭に至る。 ＊ 『僕、あと何したらええかな…』 「帰って、本当に。」 『それ以外で』 「じゃあ何もない」 『なんで甘えてくれへんの？うつしたらあかんとか思ってる？』

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【熱・5】 確かに頼りないけど、この状況でも頼られへんってさすがに傷つくで？ 「…そうじゃなくて。甘えてるから、言ってるの。 正直、今はうつすとかうつさないとかどうでもいいし、しんどくて、何にも構ってられないから、 本当に、ただ辛いだけだから、」

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【熱・6】 息を切らしながら訴えることは、理解には苦しむけど、どうやら本当らしい。 彼女が強がってるときはしんどいとか辛いとか、僕が心配するようなネガティブな言葉は一切使わへん。 『…わかった。』 わかってへんけど、わかった。 1人にしてあげた方が、ええんやんな。

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【熱・7】 ベッドから手の届くところに薬と体温計とスポーツドリンクと、携帯を置いて。 『何かあったら電話しぃや？』 「…ごめんね、」 『謝らんでええって。じゃあ、ゆっくり寝ぇや？』 そう言って寝室を出て、そのまま玄関を出た…フリ。

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【熱・8】 部屋を出るときに少し開けておいた寝室ドアの隙間から時々様子を伺いつつ、リビングで過ごす。 1人になりたいのはわかったけど、やっぱり心配やもん。 何かあって電話くれても、すぐに駆けつけられんかったら意味ないやん。 それに、彼女のあんな姿見るの初めてで、僕やって怖いし。

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【熱・9】 しばらくして、彼女が寝入った頃に一度様子を見に、そっと部屋に入る。 紅潮した顔に、荒い息。 思わずよからぬことを考えてしまいそうになった自分にビンタして、そっとおでこに触れる。 『…あっつ。』 なぁ、これ薬ほんまに効いてる？不良品なんちゃうの？

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【熱・10】 汗かいたら下がるー言うけど、全然かいてる様子ないし。 とりあえず加湿器のレベルを上げる。僕の方が先に汗かいてまいそうやねんけど。 「…りゅう、」 その時、彼女のか細い声が僕の名前を呼んだ。 やば、起こしてもうた？ 慌てて顔を見るけど、相変わらず目は閉じたまま。

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【熱・11】 ていうか紅潮した顔に荒い息で、眉間に皺寄せて僕の名前呼ぶって…いや、あかんあかん。 今度はビンタする代わりに、疼き始めた股間をぐっと押し込めて、もう一度彼女を見る。 僕のこと呼んだのって、寝言？ えー、だとしたらめっちゃ可愛いんですけど。

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【熱・12】 彼女の一大事なのにニヤけそうになる顔を手で押さえる。 僕の身体、良くも悪くも素直すぎる。 「んっ…りゅう、」 あ、また呼んだ。 しかもその前の「んっ…」ってやつ、何？ それ、あれやん！あの時の、あれやん！ え、まさかそんな夢見てる？

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【熱・13】 いやいやそんなわけないやろ！それどころちゃうねん彼女は！ 自分で自分にツッコミを入れながら自問自答していると、苦しそうな彼女が手を伸ばす。 え、何？ 手探りで何か探してる…あ、まさか。 テーブルの上に置いた携帯を渡してみると、案の定。 「りゅう、」

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【熱・14】 僕の名前を呼びながら、うっすら開けた目で携帯を一生懸命操作しようとしている。 僕の存在に気付きもせずに。 その目から一筋、涙が流れた。 『………、』 もう何も考えられんくなって、その手から携帯を奪って、ベッドにもぐりこんで彼女を抱きしめた。 「ん…りゅう？」

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【熱・15】 『ん、僕やで。』 「りゅう…」 何で僕のこと呼ぼうとしたんかわからんけど、今はこうしてあげるのが1番ええ気がして。 その考えは間違ってなかったみたいで、彼女は大人しく腕の中に収まって泣いてる。 『…どしたぁ？』 「んんぅ…」

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【熱・16】 何も言わんけど、とりあえずその熱い背中をさすって頭を撫でる。 『しんどいなぁ、怖いなぁ。』 「りゅう…」 『ん？なん？』 「ここに、いて。」 『おん、おるよ。』 ほんまはずっとおったけどな。

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【熱・17】 帰れって言ったかと思ったらおれって言ったり。 ほんま、僕のお姫様はわがままなんやから。 ま、僕はそんなお姫様のことが大好きなんやからしゃーないか♡ 【前編＊おしまい】

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【熱・18】 しばらくぎゅーってしてたら、彼女は安心したみたいにまた眠りに落ちた。 長いまつ毛についた涙を拭って、熱いおでこにチュッてキスして。 「んぅ、」 ほら、また可愛い声。やからそれあかんって。 ベッドの中で、抱きしめて。 このシチュエーションでそんな声出されたら。

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【熱・19】 いやいやいや。 あかんあかんあかん。 思わず彼女の脚に絡めてた自分の脚を離して、少し腰を引く。 触れとったら、何が起きるかわからへんわ。 え、でもこれ、よくあるやつやんな？ 熱が出てる彼女がやけにエロくて、しかもこーいうときって感度抜群で…

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【熱・20】 明らかに何かの見すぎなあれこれが頭をよぎる。いやだからあかんって。 自分の中の理性を総動員して不謹慎なスケベ心と戦っていると、彼女がふと目を開けた。 「りゅう？」 あ、ヤメテその甘い声。 ああ、あと涙目上目遣いもあかん。 あああ！その袖ちょっと引っ張る感じも…

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【熱・21】 真っ赤でぷるぷるの唇は濡れてて、もう俺を誘ってるようにしか… …あ。 もしかして、誘われてる？ 俺、誘われてるの？ 神様、俺のこと試してる？ 吸い寄せられるように顔を近づけて、抵抗もままならない彼女の唇にそっと口付けた。 うわ、当たり前やけどあっつい。

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【熱・22】 いつもと違う感じに興奮して、思わず軽く舌を絡める。 「…んっ、ゃぁんっ、はぁっ」 おいおいおいおい！ 聞きました今の！ 思いっきり喘いでますやん！ ね、神様！ 味を占めた僕が唇を首筋に移動させようとしたそのとき… 「…ゃだっ、ちょっ、ほんとやめて…」

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【熱・23】 もぉ〜、そんな可愛い声でやめてなんて、煽ってるようにしか聞こえへんで？♡ 「待て、やめてって言ってるでしょ、殺す気…？はぁっ…」 …あれ？ 何だかいやよいやよも好きのうちにしては様子がおかしい… ……あ。

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【熱・24】 潤んだ瞳は相変わらず上目遣いで可愛くこちらを睨んでるけど、その瞳の奥がガチの怒りに燃えているのが見えてしまった。 『…はっ！ごめん‼︎』 「…もういい、出てって…」 『や、ごめんもうせぇへんから！』 「うるさい…出てって…」

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【熱・25】 そう言うと微かな力で俺をベッドから押し出して、背中を向けてしまった。 あちゃー、完全に怒ってもうてる。 これ、今弱ってるからこれだけで済んでるけど、元気な彼女ここまで怒らせてたら今頃家追い出されてるな。 神様、ごめんなさい。 もぉ、俺あかんな。最低や。