友達(しまたんのお話の続編)

かおり @orange_shake_

【友達・1】 「あー、やっぱこれよこれ！寒くなるとこの熱燗が飲みたくなるの♡」 熱燗、て。 こいつホンマに女か。 背中のチャックからオッサン出てくるんちゃうか。 「ちょっと、横山全然飲んでないじゃん！飲めよー」 『ちょ、お前ホンマめんどくさいな』

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【友達・2】 加えて、絡み酒かい。 やから何年も男おらへんねん。 無理矢理注がれた熱燗に口をつける。 確かに美味い…けど。 『…きっつ』 これ相当度数高いやろ。 それをさっきから顔色一つ変えずに水みたいに飲みやがって。

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【友達・3】 『お前これジョッキでいけるやろ』 「馬鹿にしてんのか」 そう言いながらさりげなく俺の皿にもキュウリを避けてサラダを取り分けてる。 こういうところ、ホンマ何やねん。 そこで女子力見せてくんなや。 安田みたいやな。男か女かわからへんとこが。

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【友達・4】 「ぷっ…横山もう顔赤い。弱っ！」 『うっさいボケ。色白やから赤なりやすいだけじゃ。』 だいたい何やねん。 いきなり電話してきて飲み行こーって。俺まだそんな気分ちゃうねんけど。 「すいませーん、ハツとレバーと砂肝。横山も食べるよね？2本ずつ下さーい。」

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【友達・5】 内臓系ばっかやんけ。 だからそれやりながら食い終わった皿片付けんな安田女。 ギャップとか通り越してよくわからん気持ちになるわ。 『で、何やねん急に呼び出して。』 「んー？失恋した横山を元気づけてあげようの会？」 『はぁっ⁉︎』 何で知ってんねんこいつ！

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【友達・6】 「え？違うの？あの子好きだったんじゃないの？」 『いや、何でそれ知ってんの…』 「だって泣いてたし」 『泣いてへんし』 「ていうかさ、それでいいの？」 熱燗を煽ったそいつは音を立ててお猪口を置くと、俺を睨んだ。

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【友達・7】 「奪えばいいじゃん、好きなら。 何自分からサプライズパーティーなんか開いてあげちゃってんの。バカじゃないの？」 『何でお前にそこまで言われなあかんねん。』 「あれだ、結婚式の最中に花嫁連れ去っちゃえ。」 『アホちゃう？』

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【友達・8】 「ほいほい余興と二次会の幹事まで引き受けちゃってる横山の方がアホじゃん。」 今度は冷酒になっとるし。 てか、この状況何。 何で俺この酔っ払いオヤジに説教されてんの？ 「おめでとうなんてさ、思ってもないくせに、」 『思っとるよ。』

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【友達・9】 黙って聞いてたけど、さすがに限界。 彼女の手からグラスを奪った。 『確かに好きやった。いや、今も好きや。結婚式までには区切りつけるつもりやけど。 やからこそ、あいつの幸せそうな顔が嬉しいんやんか。』 「何それ…いい人ぶっちゃってさ。」 『お前に何がわかんねん』

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【友達・10】 そこまで言って、はっと我に返った。 さすがに、言い過ぎた。 「…わかんないよ。」 俺の前にあったグラスを奪い返して、口をつける。 「そうだよね、横山はいい人ぶってるんじゃなくて本当にいい人なんだもん。 私にはわかんない。どうしたらそんな風に思えるの？」

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【友達・11】 静かにそう言った彼女の目には、涙が溜まっていた。 『…なんかあったん？』 こいつから男の影なんて、感じたことなかったけど。 そういえば春にはこんなネイルなんかしてなかったし、髪の色とか化粧の感じももっと派手やった。 もしかして。 『お前も、失恋した？』

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【友達・12】 「失恋なんて言うほどじゃないよ。不倫だったから。」 『ぶっ‼︎』 思わず酒吹いてもーた。 「ちょっとー何やってんのよせっかくのお酒がもったいない。」 酒吹いて、汚いより先にもったいないが出てくる女はこいつぐらいやと思う。 『は？お前、不倫って…』

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【友達・13】 「知らない？結婚して奥さんがいる男の人と…」 『いや、そこまでアホちゃうし』 机を拭いて、チラッと俺を見た。 「…引いた？」 『…いや、別に。』 確かに、驚きはした。 でも、俺やって結婚する女をまだ好きやって言うてる時点でこいつを否定する資格なんてない。

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【友達・14】 「フられたよ？奥さんにバレたんだって。まぁ、いつかはこうなるってわかってたけどさ。」 そう話す声が少しずつ震え始める。 「わかってた。でも…好きだって気持ちだけが、消えてくれないんだよね。」 『………』 「奪いたかった。でも彼はそんなこと望んでなかった。」

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【友達・15】 頬を流れた涙を拭こうともせずに続ける。 「私がやりたかったこと、代わりに横山にやってほしかった。周りのことなんておかまいなしに、自分の幸せを奪ってほしかった。」 オッサンくさいとはいえ一応女が目の前で泣いてんのに、何してやったらええかわからへん。

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【友達・16】 こんな時に限ってポケットに入ってんのはクッシャクシャのハンカチだけ。しかもこれさっきトイレで手ぇ拭いたばっかのやつやし。 こんなんやから俺あかんねんなぁ…結局、新しいおしぼりもらって渡すことしかできんかった。 「ごめんね、ちょっと酔っ払っちゃったかな。」

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【友達・17】 「泣き上戸なもんでね。へへっ」 グラスを持ち上げて泣き笑い。 嘘つけ。お前どっちかっちゅーと笑い上戸やんけ。 あと今持ってるグラス、それ酒ちゃうで。さっき取り上げたときに水とすり替えとってん。 「横山は、大人だ。自分よりもあの子の気持ちを考えてあげられて。」

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【友達・18】 その言葉が、刺さった。 俺やって、あいつの幸せが自分の幸せやなんて言いながら、心のどこかでこいつと同じこと考えてなかったわけやない。 喧嘩したって相談されて、一瞬テンション上がったことだってある。 彼氏と自分比べて、俺の方がって勝手に思ってたことだって…

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【友達・19】 ただ俺はこいつの言う通り、醜い感情に気づかんふりしてええ奴ぶってただけ。 こいつは自分の気持ちに嘘つかへん。 どんなに醜い感情からも、逃げへん。 お前の方が、よっぽど大人やで。 「…え、なんで横山まで泣いてんの。」 『え？』

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【友達・20】 言われて初めて、自分の頬が濡れてることに気付いた。最近多いなこれ。 『…うっさい、もらい泣きじゃ。ついでに俺も泣き上戸や。』 「ふふっ。じゃあ、もっと飲め！泣けー！」 おしぼりで豪快に顔を拭く。 おい、化粧落ちるとか気にせぇよオヤジ女。

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【友達・21】 「この前、我慢してたからさ。泣かせてあげたかったんだよ横山を。 まさか先に自分が泣くとは思わなかったけどねー！」 またいつものように笑って、酒を注文する。まだ飲むんかこいつ。 でも、そんなこいつの前やから俺は泣けるんやと思う。 「あ、そうだ。」

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【友達・22】 おしぼりを置いた彼女が、俺に押し付けてきたのはええブランドの紙袋。 『何これ。』 「クリスマスプレゼントー！」 『何でドラえもん風やねん。』 開けてみると、お洒落であったかそうなマフラー。 『うわ、これええやつやん。』 「でしょー！」

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【友達・23】 『え、でも何で急に俺にくれるん？』 長い付き合いやったけど、今までクリスマスプレゼントとかやったことないやん。 「…それ見ても、まだわかんないの？」 『え？』 こんなええマフラーを、いきなり俺にって…えぇ⁉︎

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【友達・24】 『え、ちょぉ待って、気持ちは嬉しいけど俺まだケジメついてないし、いやそれよりもお前のことは友達やと思ってるし…』 「は？何言ってんの？」 顔をしかめて盛大な舌打ち。 あ、そっか、そうやんな。 俺、何か勘違いしてたわ、うん。

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【友達・25】 普通、好きな男に舌打ちなんかせぇへんな。 「彼にあげようと思ってたクリスマスプレゼント。いらなくなっちゃったけどメンズだから自分で使うわけにもいかないし、捨てようにも物には罪はないし。」 『え、それで俺？』 今の話聞いといて、めっちゃ受け取りづらいねんけど。