「天に願いを」(1)
- mamiya_AFS
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「…って、いつまでついてくるんだよ、お前はっ!」 リンゴとバナナはまだしもドリアンはおかしいだろ! というか飛び過ぎだろ、果物のジャンルしか合ってない。メロンとかならギリギリセー…いや買わねぇよ、そんなに!
2014-08-30 21:18:31「ちょっとどころじゃねぇよ、なんでパジャマまで買ってんだ! というかなんで千歳のサイズ知ってるんだよ。おま…、見舞いにパジャマとか…、なんかおかしいだろ」 もしもオレが入院してる時に千代田がパジャマを持ってきてくれたとしたら。 しかも手作りで。いやいやいや、有り得ないだろ。
2014-08-30 21:22:37千代田がお見舞いに手作りパジャマを持ってきてくれる。 そんな事がもしも実際にあったのなら。 いいよ、その場で告白してやってもいいぜ天の神様。やれるもんならやってみろよ。
2014-08-30 21:23:34……。 ノックを重ねると、中からは強張った返事が帰ってきた。 扉を開く前に廊下を見回す。片目だと首を振る幅が大きくしないといけないのだが、もう慣れたものだ。 「入るぜ、千歳」 ずっと思ってはいた疑問を、確かめる為に。この為に千代田との作業を捨てたんだ。
2014-08-30 23:06:45目が、合う。 向こうは両目なのにこっちは片目なのできっちり完璧に合ったわけではないが。 上半身を起こした千歳の背後の窓の向こうでは夕日が橙を眩しく突き刺してきていた。千歳の目線の動きを細かく伺う。 溜め息。 ほぼ確信が確信へと変わる。
2014-08-30 23:12:26「見舞いだ。ここに置いておくぞ」 祥鳳の所為でぱんぱんになった紙袋をベッドの傍らの台に置き、丸椅子へと腰を下ろす。困ったように眉根をひそめている千歳がちらちらと視線を投げ掛けてきていた。 オレが単独で現れた事に驚き戸惑っているようにしか見えない。 が、違う。
2014-08-30 23:14:50確認しているんだろう。本当にオレしかいないのか、を。 引張る必要も無かった。むしろ急がないと倉庫の整理を終えた千代田がやってきてもおかしくない時間だ。 息を吸い込む。別に緊張してもいない自分に少々嫌気が刺す。
2014-08-30 23:17:15千歳が表情を変えずに、纏っている空気の質を硬化させる。…わずかに殺気が含まれている点をどう前向きに解釈すればいいんだろうな?
2014-08-30 23:22:21「初めて会った時から…、ってのは嘘だが。その頃は見えていたみたいだしな。見えない、ってもずっとじゃないだろ。たまーに、だ。たまにではあるけれど違和感は感じていたよ」 一拍置く。 「オレも隻眼だからな」
2014-08-30 23:24:52沈黙が下りる。窓は閉じたままだと言うのに出撃だか遠征だか戻ってきたらしいどこかの艦隊を迎える声が聞こえてくる。平和でいつも通りの景色だ。 確認が終わってしまったのでこれ以上言う事も浮かばなかった。というか否定してくると思っていたので拍子抜けしていた。
2014-08-30 23:27:38「……」 返す言葉がまるで思い当たらないのでとりあえず首を巡らせて千歳の顔色を見る。 そっくりな言葉を妹本人からやたら頻繁に聞いているので、変な感じだった。 まぁ、言い出すだろうとは思っていた系統の言葉ではある。怪我をすると見せびらかしにきたり、逆に弄りに来るうちの姉が異常だ。
2014-08-30 23:33:06声の冷たさに自分でも少し驚く。何に怒りを感じているのかは明白ではあるが。 宇宙飛行士には遠く及ばないかもだが、消防士並には『資格』として身体能力の最低値を求められるのが艦娘である。特に視力は普通程度ではマイナス点とされる。海戦が舞台である以上、当然の事だ。
2014-08-30 23:38:00片目の視力を失ったオレも、それまでの戦果に加え、補って余りある他の五感があるお陰で除名は免れているだけなのだ。旗艦までハイスピードで昇り詰めたとは言え実戦での結果や他の突出した身体能力を持っていない千歳では、抗議する余裕すら与えられないのは間違いない。
2014-08-30 23:41:26というか、よく今までバレなかったな。常に、ではないとは言え隠し切れるような欠点でも無いというのに。基本的にずっとくっついてるのに察していない千代田が一番問題だな。でもあいつはそういう抜けてるところが可愛いからいいんだ。
2014-08-30 23:43:09「…だろうな」 それは容易に想像がつく。根本として、あいつが艦娘をやっているのは9割9分『千歳お姉が艦娘だから』だろう。 知ってる。わかってるんだよ、そんな事は。
2014-08-30 23:45:59