「石田三成の青春」第二話「出仕~長浜城へ」
「石田村石田藤左衛門正継が三男佐吉にございます。何事も、羽柴のお殿様のお言いつけどおり、羽柴のお殿様の御為に、いのちをかけてお仕え申し上げる所存でございます故、何とぞ宜しくお願い申し上げます」 覚えてきた挨拶の言葉を一気に言った。 #石田三成の青春
2015-02-14 18:11:07「立派に挨拶が出来ましたなぁ」 女人が笑顔で優しく声をかける。 「どうじゃ、おね、わしが言うた通りであろうが」 秀吉が自慢げに言うと 「ほんに、利発そうなお子でございますなぁ」 秀吉におねと呼ばれた女人が、佐吉を見て目を細める。 #石田三成の青春
2015-02-14 18:12:36「さあさあ、こちらへ来い」 秀吉が言うと、佐吉は手前の間に入って平伏した。 「そんなところでは話が遠い。もっとこっちへ、こっちへ」 秀吉が更に促す。 佐吉は奥の間の敷居の前で躊躇っていたが、 「遠慮はいらぬ。入りなされ」 おねの言葉に奥の座敷に入った。 #石田三成の青春
2015-02-14 18:13:51「わしの奥方じゃ、今日からは母と思い、甘えればよい」 「は」 佐吉は平伏するだけだ。奥方様用の挨拶も用意はしてきたのだが、それは別々の場面を想定したもので、さっきした挨拶とあまり違ってはいない。ここでそれをやると、殆ど繰り返しになる。だからやめた。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:01:58「佐吉は、歳はいくつになりますか」 「はい、今年で十五にあいなりまする」 「そうですか、ならば、虎よりは一つ、市よりは二つ上ですね」 おねが少年二人方を見て、 「仲良う、お仕えせねばなりませぬぞ」 諭すように言う。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:02:58「はい」 二人は声をそろえて、素直な返事をした。 「加藤虎之助に、福島市松じゃ。そしてこっちが、蜂須賀彦右衛門家政、彦右衛門は十七じゃったかの」 秀吉が、三人を紹介した。 「石田佐吉にございます。よろしくお願い申し上げます」 #石田三成の青春
2015-02-15 18:03:47佐吉は三人に深々と頭を下げた。当然。三人からも同様の挨拶が返ってくるものと思っていた。が、 「加藤虎之助」 「福島市松」 二人の少年からは、それだけだった。さすがに彦右衛門は、二人に比べれば大人だ。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:05:56「蜂須賀彦右衛門でござる」 と、少しだけ頭を下げ、 「何か困ったこと、解らぬことがあれば、遠慮なく訊くがよい」 改まった口調で言った。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:06:44それでも、佐吉にしてみれば、不満だ。不満だが、不思議なもので、年下の二人のあまりにも無礼な態度に、彦右衛門の態度がかなり好意的なものに思えた。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:07:26佐吉の長浜城での生活はこのように幕を開けた。 小姓といっても、秀吉の身の回りの世話は、おねをはじめ、女性たちの手で行われることが多い。勿論、女好きの秀吉のこと、男色の相手なども皆無だ。 ならば、小姓たちは毎日、何をして過ごすのか。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:08:43まず槍、剣術の稽古から、軍学、築城、そして町づくり、農政、楽市楽座などの経世済民などを実践で学ぶ。 槍、剣術の稽古は、虎之助、市松の得意とするところだ。歳は下だが、身体は二人とも佐吉より大きい。体力もある。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:10:06それに加えて、家で殆ど稽古したことのない佐吉は、二人の相手ではなかった。といって、手加減できる二人ではない。いつも二人のしたたかに打ちのめされるのだ。見かねて彦衛門が待ったをかけ、五、六分の力で相手をしてくれた。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:10:54軍学、築城、経世済民は、虎之助、市松、彦右衛門の三人に、佐吉はすぐに追いついた。そして、特に経世済民は佐吉の得意とするところだった。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:11:58槍、剣術の稽古では悔しい思いばかりの佐吉だったが、それいがいのもの、時に経世済民では、優越感に浸れるのだった、 #石田三成の青春
2015-02-15 18:12:45虎之助、市松は、この頃は佐吉に対して、悪気など全くない。ただ、自分の得意とする槍、剣術において、それが不得意なものの気持ちを思いやれなかっただけだ。#石田三成の青春
2015-02-15 18:14:12そして、佐吉にも二人に対して悪気など微塵もなかった。ただ、自分の得意な経世済民において、それが不得意なもの気持ちを思いやれなかっただけなのだ。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:15:34しかし、この小さな相違が、大きな溝になり、やがて大きな戦へと進んでいくのだが、それは、かなり後の話。 この頃の三人は、ぶつかり合いながらも、お互いに成長していく。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:16:15長浜城に橘が香る、 城の一角には、今日も、三人の言い争う声が、明るく響いていた。 #石田三成の青春
2015-02-15 18:17:01以上で「石田三成の青春」第二話「出仕~長浜城へ」終了です。 お付き合いくださりありがとうございました。 第三話(開始日未定)もどうぞお楽しみに!!! #石田三成の青春
2015-02-15 18:19:15