#完全ノープラン艦これ与太話 【ワイヴァーン・イズ・スティル・アライヴ】#1～#2

春魔解丼 @vespiking

鬼怒は両拳を高く掲げた。「なァ！アンタ名前なんて言うの？命の恩人！今のパナイ！マジパナイ！教えてよ！」ドゲザ女はユラリとこちらを向き、オジギした。「……ドーモ、ピュリプレゲトン＝サン。ナガノです」「アッハ！ピュリプレゲトン……それ、私の名前？イイネ！新しい名前！」 #KZNPLN

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鬼怒の、否。ピュリプレゲトンの全身は最早、拘束具とは程遠い。何らかの霊的作用により艤装じみて変形した拘束具。セプク防止のギャグボールは砕け、口元は今や、禍々しきメンポが覆っていた。『ニン……ジャ……？ニンジャ、ナンデ……？』執行人らはしめやかに失禁した。 #KZNPLN

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ピュリプレゲトンの両拳とメンポの周囲に、超自然の炎が逆巻く。『アイエエエ、大丈夫。ここは安全、大丈夫』地獄の三頭犬じみた恐るべきカトンは、『大丈夫、ここは安全、大丈夫、ここは』「イヤーッ！」 #KZNPLN

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翌朝。解体場が謎のガス爆発で吹き飛び、執行人妖精3名と囚人の命を奪ったニュースは瞬く間に、大聖堂の駆逐艦に広まり、睦月らを恐怖させた。彼女らは口々にこう呟いた。「誰がミユキ様を怒らせたのだろう」と。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ワイヴァーン・イズ・スティル・アライヴ】#1終わり。#2に続く。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ワイヴァーン・イズ・スティル・アライヴ】#2 #KZNPLN

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「全く、面倒事が増えたね」居住区のはずれ、客人用の空き部屋で目を覚ました夕立は、既に身支度を整えた時雨の渋い顔をぼうっと眺めた。「ああ、おはよう。いい朝だね」「ぽい」夕立は眠い眼をぐにぐにと擦り、大きく欠伸をした。 #KZNPLN

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「囚人1隻と執行官3名が『解体』中に、謎のガス爆発で死亡。当局は原因を究明中」時雨は昨日、同じカテドラル内で起きた事故を報じる新聞を片手で弄び、ドレッサーの椅子を傾けた。「面倒だな。こっちは磯波の目撃情報に、山城の行方も探らなきゃならないのに」 #KZNPLN

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山城との通信が途絶えたのは数日前の事だ。彼女はマイヅル・シティで、ある噂の調査を独自に行っていた。『……航空母艦、飛龍は、生きている』「――磯波が消えたのは、飛龍が死んだ翌朝だ。そして、磯波の目撃情報が出た。件の噂の出所、マイヅルで。無関係とも、思えないな」 #KZNPLN

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「ぽ、ぽ、ぽいっ」夕立はちょうど寝巻きを脱ぎ捨て、軍服にすぽりと首を通したところだった。ばしゃばしゃと顔を洗い、犬めいてブルブルと水を払う。そこまでを愛しげに見守った時雨は、洗面所から出る夕立の歩に合わせ、ゆっくりと立ち上がった。「それじゃ、行こうか」「ぽい！」 #KZNPLN

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廊下を歩く途中、何隻かの艦娘と擦れ違った。昨日出逢った、睦月や如月も見かけた。マイヅル・カテドラルの居住区は広大だが、ここに住んでいる艦娘はそう多くは無い。なんらかの理由で帰るべき場所を失い、助けを求める艦娘達を、ここカテドラル居住区は保護している。 #KZNPLN

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擦れ違う艦娘らは一様に、ひそひそと呟きながら、何ともいえぬ何かに怯えるように身を寄せ合い、歩いている。異様なアトモスフィアがあった。「……皆、警戒している。僕らにじゃない。全てに対してだ。少し、面倒になったな」時雨は今朝の新聞記事を思い出し、小さく呟いた。 #KZNPLN

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「鋒を持たない猜疑心は、真実を闇雲に覆ってしまう。皆、何が自分に不利に働くかが解らないからだ。無意識下で、要不要を問わない偽証が混ざる。長丁場になるな」「ぽい……」夕立も怯えた様子だ。彼女は感受性が強過ぎる。少し、アトモスフィアにあてられたか。「夕立、大丈夫？」 #KZNPLN

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夕立はなにかを振り払うようにふるふると首を振り、ぎゅうと時雨の袖口を掴む。「……大丈夫だよ。安心して」「ぽい……」時雨の無感情な、冷たく温かい微笑みが、夕立を包んだ。「さ。食堂に着いたよ。朝ご飯にしよう」「ぽい！」 #KZNPLN

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時雨はわしゃわしゃと夕立の頭を撫で、食堂に入り、朝食のサバとミソスープを胃に収めた。質素だが、しっかりと栄養の整った食事だ。夕立は窓の外をぼうっと眺めた。居住区からは、危険な工業区画のスラム街は見えない。帰省したという漣や潮は、何かに巻き込まれてはいないだろうか。 #KZNPLN

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そんな事を考えながら、黙々とサバをつつき、食堂に出入りする艦娘らを眺める。皆、件の事故で不安を抱いている。日常が壊れる事を恐れている。それは、今の平穏を愛している証拠でもあった。夕立は時雨を見、そして己を省みた。今の私は、彼女らと比べ、果たして幸福か？ #KZNPLN

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今の時雨は、優しかった昔の時雨とは違う。それは自分にしか解らないのかも知れないし、もしかすると、おかしいのは自分かも知れない。完治し、痕跡すら残さず再生した筈の、肩の古傷がズキリと疼く。あの日、磯波が両足を失った日、時雨に撃たれた傷。時雨も、夕立も、もう戻らない。 #KZNPLN

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時雨は夕立を眺めながら、最後のサバを口に運び、呑み込む。ここには暫く滞在する事になるだろう。じっくりと内部に溶け込み、探る。面倒は、元より覚悟の上だ。ここは外界と隔絶し過ぎている。アトモスフィアが異様だ。昨日の事故の所為ではない。不可視の戒律めいた、秩序がある。 #KZNPLN

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昨日、時雨が最も奇妙に感じたのは、とある駆逐艦の口から零れた『ミユキ様』という言葉だ。彼女は極めて平易な口調でこれを一度だけ零し、その事にすら気付かぬように、不自然なほど自然に会話は終わった。ミユキ。かの大戦より以前に建造され、そして没した駆逐艦の名だ。 #KZNPLN

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『艦娘』駆逐艦深雪の建造記録は存在しない。磯波を除く、他の特I型駆逐艦と同様の『失われた艦霊』の1隻。特に戦前に没した深雪は、時にシンピテキ概念として扱われる。『ミユキ様』……駆逐艦深雪から生じた、何らかの信仰だろうか？同じく特I型、磯波と何らかの関係がある？ #KZNPLN

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とかく、考えていても仕方があるまい。あまりに未知な事が多過ぎる。すべてに関連性があると考えるべきだ。件の事故も、少々きな臭い。今日も聞き込みだ。そう思うが早いか。考え込んでいた時雨を、甲高い音が現実に引き戻した。「……夕立？」 #KZNPLN

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カラリと高い音を立ててテーブルに落ちたのは、夕立の握っていた箸だ。夕立は大きな円い白眼をさらに広げ、真紅の瞳孔をぎゅうと絞り、入口を凝視していた。時雨も入口を振り返った。そして彼女も一瞬、ぎょっとした。そして、すぐに立ち直る。「……そうか、もう、そんなに経つのか」 #KZNPLN

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食堂に入ってきた1隻の駆逐艦。彼女は『件の軍人さん』時雨や夕立を認め、会釈程度のアイサツをした。夕立はそれを、凍り付いたように眺めていた。「ドーモ、はじめまして。村雨です」 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ワイヴァーン・イズ・スティル・アライヴ】#2終わり。#3に続く。 #KZNPLN