日本人人質事件 高橋源一郎氏の言葉

この事件についてわたしにはこれ以上心にしみる言葉はなかった。
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高橋源一郎 @takagengen

日本人人質問題についていくつもの意見が生まれました。政府の政策の失敗を咎めるもの、あるいは人質の自己責任を問うもの…。わたしは、自分の「意見」を書く気にはなれませんでした。最初に見たふたりの人質の映像が目に焼きついて離れなかったからです(その次の残酷な映像はみませんでした)。

2015-01-29 18:08:59
高橋源一郎 @takagengen

オレンジの囚人服を着てひざまずき、ナイフを持って自分たちの死について語る覆面姿の男の横で、ふたりは何を考えていたのだろうか、と思ったのです。その映像から目を離し、すぐになにか「意見」を言う気にはなれませんでした。そのまま、そこで、ずっと考えていたいと思ったのでした。

2015-01-29 18:10:49
高橋源一郎 @takagengen

スーザン・ソンタグは、誰よりも鋭い意見の持ち主として知られていますが、それでも、こう書かざるを得ませんでした。「意見というものの困った点は、私たちはそれに固着しがちだという点である。……何ごとであれ、そこにはつねに、それ以上のことがある。どんな出来事でも、ほかにも出来事がある」

2015-01-29 18:12:57
高橋源一郎 @takagengen

「そこにはつねに、それ以上のことがある」。この事件だけではなく、なにかが起こるたびに、わたしは、このことばを思い出しました。結局は、なにかを言わねばならないとしても、前のめりに、自分が正しいと思うからというだけで発言することの恐ろしさを、いつも胸の奥に抱えていたいと思ったのです。

2015-01-29 18:14:41
高橋源一郎 @takagengen

襲撃事件の後、フランスを代表する知識人、エマニュエル・トッドのインタビュー記事が読売新聞に掲載されました。トッドはこう言っています。「私も言論の自由が民主主義の柱だと思う。だが、ムハンマドやイエスを愚弄し続ける「シャルリー・エブド」のあり方は、不信の時代では有効ではないと思う」

2015-01-29 18:16:54
高橋源一郎 @takagengen

「移民の若者がかろうじて手に入れたささやかなものに唾を吐きかける行為だ。だがフランスは今「私はシャルリーだ」と名乗り、犠牲者たちと共にある。わたしは、感情に流されて、理性を失いたくない」

2015-01-29 18:18:22
高橋源一郎 @takagengen

「今フランスで発言すれば「テロリストにくみする」と受けとめられ、袋だたきに遭うだろう。だからフランスでは取材に応じていない。独りぼっちの気分だ」「9・11」の後、熱狂的な愛国の渦とアメリカの攻撃的政策に反対した人たちと同じように、トッドも「独りぼっち」になったのです。

2015-01-29 18:19:54
高橋源一郎 @takagengen

そんな中、フランスに長く住んでいた、偉大なアメリカ人(風刺)漫画家、ロバート・クラムがアメリカの新聞の取材に応じました(このことについては、少し前にツイートしました)。彼もまた、フランスが、「9・11」のアメリカと同じ危険な熱狂に入りこんでいると指摘しています。

2015-01-29 18:21:28
高橋源一郎 @takagengen

けれど、あえて「火中の栗」を拾うように、クラムは「ムハンマドの尻)という(風刺)漫画を描きました。気弱そうな、クラム本人が(ムハンマドという彼の友人の)尻を描いた漫画を掲げたものです。そこで風刺されているのは、「シャルリー・エブド」がやったような、宗教的権威ではありませんでした。

2015-01-29 18:23:12
高橋源一郎 @takagengen

風刺や表現の自由は、弱者が、国家や宗教といった「公」の正義を名乗る強者と戦うために編み出した(産み出した)ものでした。だとするなら、各国の首脳が連帯して守ろうとする風刺や表現の自由とは何でしょうか。風刺や表現の自由が、正義の言論になったとき、その生命は終わるのかもしれません。

2015-01-29 18:24:50
高橋源一郎 @takagengen

クラムが描いた「ムハマンドの尻」は弱々しい。原理主義の熱狂からも、愛国の熱狂からも、表現の自由への熱狂からも離れて、クラムの画は「独りぼっち」でたたずんでいる様に見えました。それは、風刺や表現の自由が生まれたばかりの頃の様子にも見えたのです。以上です。読んでいただければ幸いです。

2015-01-29 18:26:52
高橋源一郎 @takagengen

後藤健二さんの本を読み、彼の言葉を探した。後藤さんは、強い信念と高い志を持った人だったことがわかる。とてもかなわない。そんな後藤さんの死はとても悲しい。悲しいけれど、死者を比べることなんて愚かだということはわかった上で、なお、ぼくには湯川遥菜さんの死の方がもっと悲しい気がする。

2015-02-03 22:19:43
高橋源一郎 @takagengen

湯川さんのことを少し調べた。少しだけわかった。湯川さんは、思慮深くもなく、場当たり的に行動する、特にはっきりした思想も持たない、いろんなことに失敗した人だった。つまり「ふつうの人」だった。ぼくも大して変わらない。彼を攻撃している人だって同じなのに。だから悲しい。ただ悲しいだけだ。

2015-02-03 22:21:18