メニイ・タイド・リビングデッド・アンド・ア・コンクリート・グラッジ#2

大和初出撃
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劉度 @arther456

『うえええええ!?ちょっと待って、私実戦は初めてなんですよ!?』唯一の例外は、担ぎ出された大和本人であった。何しろ彼女は大和になってからこの方、演習とトイレ以外で部屋から出たことのない筋金入りの引きこもりである。実戦の経験などあるはずがなかった。 22

2015-02-28 22:10:37
劉度 @arther456

「大丈夫だ。演習通りにやればいい」『でも実弾なんでしょう!?』「大和の艤装は頑丈だから、無茶しなければ死なないよ」『でも私が旗艦なんて……指揮とかは……』「名目上だ。むっちゃんと伊勢の言うことを聞いて、ドーンと仁王立ちして堂々としてれば、それでいい」 23

2015-02-28 22:13:55
劉度 @arther456

『いやだー、こわいー、ひきこもりたいー……』それでも大和は踏ん切りが付かないようだ。流石、アマテラスの加護を受けた戦艦の艦娘なだけある。「むっちゃん、大和を引っ張ってでも出撃させておいて!」『いいわ、やってあげる!』『ヤメロー!ヤメロー!』 24

2015-02-28 22:17:13
劉度 @arther456

「敵航空機、接近!」「航空戦用意!『蔵王』の対空システムも起動させて!」向かってくる敵編隊は、夜明けの紫色の空に一筋の黒雲を作っていた。今まで見たどんな編隊よりも多い。コウモリの群れにも見える敵編隊に向かって、銀と緑の翼を光らせて、艦娘たちの式神が飛んで行く。 25

2015-02-28 22:20:27
劉度 @arther456

黒雲と銀雲の間で、小さな爆発がいくつも起こった。航空戦が始まったのだ。二つの雲はもみ合い、互いの喉笛を食いちぎろうとする。やがて乱戦となり、黒雲の群れの一部がその中から飛び出した。制空争いはこちらが僅かに不利。「しょうがない。対空砲、撃て!」 26

2015-02-28 22:23:41
劉度 @arther456

護衛についていた駆逐艦と軽巡が、空に向かって砲を放ち始めた。雲に穴が開き、敵編隊は二分された。片方は更に高く、もう片方は海面スレスレへ。爆撃機と雷撃機が混じっている。雷撃機は対空砲火で大半を落とされながらも魚雷を投下、そのうちの幾つかが周囲の艦娘、そして指揮艦に命中! 27

2015-02-28 22:26:51
劉度 @arther456

「今だ!水上打撃部隊、出撃!」『りょ、了解!旗艦大和、出撃いたします!』僅かな隙を縫って、大和を始めとした戦艦部隊が出撃した。あとは彼女たちが空母棲鬼たちの下に辿り着けるか、それにかかっている。「全艦、耐えるぞ!駆逐艦は指揮艦を護衛!輪形陣を敷け!」 28

2015-02-28 22:30:12
劉度 @arther456

『こちらブイン3番隊!先程の雷撃で11番隊指揮艦が航行不能!』「3番隊はそのまま残って救助活動!他の艦娘たちも、できるだけ助けなさい!」提督の方針は、とにかく人命第一だ。その為なら、多少陣形が乱れても構わないし、敵の追撃も容易く諦める。 29

2015-02-28 22:33:28
劉度 @arther456

『補給大将!輪形陣のポジションはどうする!?』「あっ」この空母棲姫攻撃艦隊は寄せ集めだ。陣形の細かい打ち合わせなど行っていない。「ブインが2部隊離脱したからええと……トラック組は前方!ラバウルとブインは左舷、ショートランドとタウイタウイは右舷について!」 30

2015-02-28 22:36:40
劉度 @arther456

『すいません、ブルネイはどうすれば!?』「お前のポジションが一番安全だ、安心して戦え!」その命令を聞いて、ブルネイ所属艦隊が後方についた。これで陣を組める、と思ったのもつかの間、また通信が入る。『フゥーム、こちら、トラック部隊』「どうしました!?」 31

2015-02-28 22:39:55
劉度 @arther456

『前方と言われたが、正直損耗が厳しい。応援をくれ!』自分のところの泊地が襲われてるんだぞ、やる気を出せ、と言いかけたのを、提督はなんとか飲み込んだ。先程の空母棲姫との戦いで最も激しく戦ったのがトラック艦隊だ。それを考慮しなかった提督の落ち度である。 32

2015-02-28 22:43:10
劉度 @arther456

「タウイタウイ!ショートランド!2部隊ずつ前方に回して!」『ヨロコンデー!』『良か。……やれやれ、忙しいのう』忙しい。その通りだった。『蔵王』で艦隊指揮を執る提督は忙殺されている。海上護衛戦には慣れていても、目まぐるしく状況の変わる最前線はまるで勝手が違った。 33

2015-02-28 22:46:25
劉度 @arther456

これが艦娘の指揮であれば、状況判断を彼女たちに任せることができただろう。しかし今は、複数の艦娘部隊を総括する立場である。丸投げはできなかった。かといって自分で全て差配する能力も、提督には無い。足りないのが経験か才能か、それは分からないが、今の場を纏めきれないのは確実だった。 34

2015-02-28 22:49:36
劉度 @arther456

「敵第二波、来ます!」またしても、黒雲の一部が向かってきた。「無人機上げろ!少しでも足しにするんだ!」「了解!」『蔵王』後部甲板から、上空直掩用の小型無人機が射出される。数は少ないが足しにはなるはず。そう思った矢先に、零戦と無人機が衝突した。 35

2015-02-28 22:52:54
劉度 @arther456

「ほあっ……?」ぶつかったのは、どこの式神か。指揮艦直上は無人機で守るため、式神を飛ばさないという決まりになっているはずだが。『何をやっとる!我の貴重な艦載機を……』ラバウルの物部が毒づいた。「そりゃこっちのセリフだ!直上に式神は入れないって決まりでしょう!?」 36

2015-02-28 22:56:11
劉度 @arther456

『悠長なことを!頭上を守らないでどう戦えと!?』「そのための無人機でしょうが!そっちも早く出して!」『えっ』「えっ」『無人機なぞ、この南方海域にはほとんど回ってこないぞ』その一言で、提督は事情を察した。「武器の補給途切れているじゃない!?」 37

2015-02-28 22:59:24
劉度 @arther456

指揮艦たちが輪形陣を組もうとしている頃、先行した大和も苦戦していた。『包囲マルゴーマルより敵駆逐艦多数接近!どうしますか?』「あ、あう……」「重巡部隊を足止めに!」『先行部隊が交戦開始!』「う、あー、えと」「そのまま持ちこたえなさい!」『敵の潜水艦を発見!』 38

2015-02-28 23:02:37
劉度 @arther456

「だめだー……」旗艦大和には次から次へと報告が入ってくる。昨日までニートしてた大和に指揮ができるはずもなく、全ての指示は伊勢と陸奥が出している。しかしそれでも、矢次早に話しかけられるだけで大和の神経はすり減っていた。『衣笠です!敵前衛の陣容は……きゃあっ!?』 39

2015-02-28 23:05:49
劉度 @arther456

「うえっ!?」悲鳴が上がる。先行部隊に何が起きたのか。「急ぐわよ、大和!」「は、はいぃ!」陸奥と伊勢が増速、それについて大和も前に出る。硝煙と水煙をくぐった先に待ち構えていたのは、10隻を越える金色の戦艦タ級だった。「ッ!全艦、密集陣形!」 40

2015-02-28 23:09:02
劉度 @arther456

伊勢の一声で、艦娘たちが集まり防御フィールドを張った。密集陣形で展開した防御魔法陣は、相乗効果で強度を増す。タ級の砲撃が降り注ぐが、フィールドは何とか持ちこたえ、惨事を防いだ。「こ、怖ぁ……」鼻先まで爆風が迫る光景に、思わず大和は尻込みする。 41

2015-02-28 23:12:17
劉度 @arther456

爆炎のスコールが止んだ。敵の弾切れだ。「反撃開始よ!散開!」艦娘たちが砲撃のために陣形を解いた。大和もそれに習い、訓練通りに砲撃を始めようとする。「いたた……」だが、後ろから聞こえてきた弱々しい声に振り向いてしまった。頭から血を流す、重巡の艦娘がいた。 42

2015-02-28 23:15:31
劉度 @arther456

「ちょ、ちょっと!大丈夫!?」「え?あ、はい!大丈夫、です!」「ひっ」喉を締め付けたような小さな悲鳴。大和に振り返った艦娘の腕は、砲弾の破片でズタズタに切り裂かれていた。CGでもイラストでもない、画面越しに見るものでもない本物の戦傷を、大和は初めて見た。 43

2015-02-28 23:18:43
劉度 @arther456

「だ、大丈夫なわけないでしょ!?血が、血が出てるのよ!?」「これぐらいなら慣れてますから」気丈に微笑む少女の顔は、しかし血の気がなく真っ青だ。「早く下がって、手当を……」「大和!」名を呼ぶ叫び。陸奥が血相を変えて彼女を睨んでいた。一瞬、なんでそんな顔をするか分からなかった。 44

2015-02-28 23:21:57
劉度 @arther456

「狙われてるわよ!?」陸奥が続けた言葉で、彼女は今、戦っていることを思い出した。タ級の群れが、孤立した彼女に砲口を定めていた。「嘘――」気付いた瞬間、一斉に砲弾が発射された。避ける間もなく、水柱と爆炎が大和の体を一瞬で覆い隠した。 45

2015-02-28 23:25:08
劉度 @arther456

大和の周りの海面が一瞬凹むほどの一斉射撃だった。陸奥も、伊勢も、他の艦娘たちも攻撃の手を止め絶句する。一発でも致命傷になるフラッグシップタ級の砲撃だ。その数十倍の攻撃を一斉に受けては、いかに大和といえども。誰かの砲を構えた腕が、だらりと垂れ下がった。 46

2015-02-28 23:28:28