メニイ・タイド・リビングデッド・アンド・ア・コンクリート・グラッジ #3
(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)
2015-03-02 21:03:51夜が明けつつあった。だが、未だに爆撃の雨は止まない。「これ以上トラックで走るのは危険ね」最後の島に向けハンドルを切りながら、五十鈴が呟いた。通信施設を救ってから5つの島を回ったが、海にも陸にも怪しげなものは見つからなかった。だが、輸送艦は未だに出現を繰り返している。 1
2015-03-02 21:05:41「この島は?」不知火が五十鈴に訊いた。「ええと……ここの工場を作る時に資材置き場にしてたと思うわ」五十鈴も覚えていないような島だ。古びた建設資材以外、何もないように見える。トラックが上陸すると不知火は荷台から辺りを見渡した。全長500mもない、小さな島だ。 2
2015-03-02 21:09:06「残念だけど、収穫無しよ。早く戻って……」「待って下さい」不知火がアサルトライフルを手に荷台を降りた。五十鈴には気づけなかったが、不知火には痕跡が見えていた。砂を被った鉄骨、その一箇所、人一人が座れる分だけのスペースの砂が払われていた。 3
2015-03-02 21:12:21近寄ると、もっと分かりやすい証拠があった。「五十鈴さん!」「何よ?」「この島に、普段人は出入りしますか?」「するわけないじゃない、こんな島。何かあったの?」「タバコの吸い殻です。それも、割と新しい」「なんですって!?」五十鈴がトラックから飛び降りた。 4
2015-03-02 21:15:38不知火は地面の吸い殻に屈みこむ。煙草の銘柄は一種類。新しさはまちまち、風化しかかっているものもある。長い期間、定期的に誰かがここで待機していた痕跡だ。「誰がここにいたのかしら」「調べてみましょう」二人は頷き合うと、狭い島の中を捜索し始めた。 5
2015-03-02 21:18:50木も生えていない島だ。おかしなものはすぐに見つかった。不審なコンテナを開けてみると、その中には地下に続く階段が伸びていた。「こんなものがあるなんて……」愕然とする五十鈴。何者かが、日本海軍の根拠地のど真ん中に地下施設を作っていた。 6
2015-03-02 21:22:09「五十鈴さん。不知火が中を探ってみます。30分経っても戻ってこなかったら、応援を呼んできて下さい」抱えた小銃を確認しながら、不知火は呟く。「待って、危険よ。応援が来てから……」「ここの地下が輸送艦の出現に関わっているかもしれません。なら一刻を争う」 7
2015-03-02 21:25:34「不知火の体のことなら大丈夫です。艤装無しでもそれなりに戦えます。危なくなったら、すぐに引き返しますから」こう言われては、五十鈴も頷く他無かった。「……分かったわ。気をつけなさいよ」「了解」不知火は頷いて、銃を構えて地下に潜った。 8
2015-03-02 21:28:52階段の底には施錠されていないドアがあった。中に入ると勝手に電気が灯る。センサー式の照明があるとは、かなり新しい設備のようだ。人の気配が無いか慎重に辺りを窺いつつ、不知火は歩を進める。廊下はしんと静まり返り、一見誰も居ないように見えるが、どうにも嫌な予感がする。 9
2015-03-02 21:32:07所々にあるドアは、施錠されているか、開けてみても何も無い部屋ばかりだ。本棚やベッドはあるが、その中身が無い。引き払われた研究施設だろうか。せめて忘れ物がないだろうかと本棚の下を覗きこんでみると、埃をかぶったUSBメモリがあった。持ち帰ることにする。 10
2015-03-02 21:35:20今見つかる収穫はこれぐらいしかない。後で調査隊を呼ぼうと思いながら、不知火は立ち上がろうとする。その動きが止まった。入り口からは見えなかった本棚の影、部屋の隅にタイマーのついた黄色い物体があった。不知火にはそれが何だか一目で分かった。時限爆弾だ。 11
2015-03-02 21:38:31ごくり、と白い喉が生唾を飲み込む。一瞬、その爆弾が炸裂し、骨も残らず吹き飛ばされるヴィジョンを幻視する。幸いそのようなことにはならなかった。冷静に観察すれば、タイマーの時間は30分後にセットされている。逃げるどころが、もう少しこの施設を調べる余裕すらあった。 12
2015-03-02 21:41:57再び不知火は、施設の中を捜索する。今度は足早に、しかし痕跡を探す眼光はより鋭く。時限爆弾は一つだけではなく、要所要所に仕掛けられていた。爆発すれば、この施設は完全に崩落するだろう。そこまでしてこの施設を秘密にしたい理由は何なのか。銃のグリップを握る不知火の手に力が籠もる。 13
2015-03-02 21:45:09鍵のかかった扉に、再び目を向ける。鍵は物理錠かナンバーロック、カードキーは使われていない。ナンバーロックの一つに、不知火は目を留めた。4枚のパネルの数字が掠れている。「4桁ね」その4枚のパネルを、不知火は適当に押す。数回の失敗の後、鍵が開いた。 14
2015-03-02 21:48:24中に入った不知火は、目を見開いた。ドアの先も通路だったが、今までとは様子がまるで違っていた。まず広い。普通車が楽に通れるぐらいの広さだ。そして両側の部屋には鉄格子が嵌めこまれている。床には何か重い物を引きずったような傷、そして血を拭きとった痕。 15
2015-03-02 21:51:38こもった異臭に顔をしかめながら、不知火は奥へ進む。牢屋には何も無い。だが、何かがいた形跡がある。人間用ではない牢屋の中に閉じ込められていたのは、何か。焦燥感を募らせながら、不知火は更に歩を進める。そして、一番奥の鉄格子の向こうに、それを見つけた。 16
2015-03-02 21:54:55黒い水溜りに浸かった戦艦タ級の死体が、恨めしげに不知火を見ていた。「そんな……馬鹿な……」不知火の目が見開かれるのも当然のことだ。深海棲艦の体は死ぬと6時間以内に黒い水となって、溶けて消えてしまう。つまりこの死体は、ついさっきまで生きていたのだ。 17
2015-03-02 21:58:11振り返り、今まで通り過ぎてきた牢屋の数に戦慄する。これだけの深海棲艦を捕獲して、一体ここでは何の研究が行われていたのか。床の血痕が、その正体の一端を語っているようだった。「……すぐに戻らないと」我に返る不知火。一刻でも早くこの事実を知らせなければ。 18
2015-03-02 22:01:27駆け出そうとした足が止まった。開けておいた暗証番号付きのドアの向こうに、誰かが立っていた。ドアとほぼ同じ高さに達するかなり大柄な体を、黒いトレンチコートで締め付けるように覆っている。顔は目出し帽と深く被ったフードで見えない。そして、虚無と敵意を不知火に向けていた。 19
2015-03-02 22:04:39「何者ですか」アサルトライフルを構えて、不知火は不審人物を誰何する。返事はない。黒コートがドアを潜った。「止まりなさい。それ以上不知火に近づけば、発砲します」銃口を足に定めた。それに対し黒コートは、止まるどころが走り出した。見た目に反して、速い! 20
2015-03-02 22:07:54不知火は引き金を引いた。黒コートの足に3発、だが止まらない。今度は胸に3発、だが止まらない。構え直して、頭に3発。フードに穴が開くが、それでも止まらない!間合いに入った黒コートが大振りの掌底を繰り出す!不知火はそれを潜り回避!掌底は後ろのコンクリート壁に命中! 21
2015-03-02 22:11:04