「ダーク・ブルー・アーマー・アンド・ライト・クルーザー・ガール」

カラテだ
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ダーク・ブルー・アーマー・アンド・ライト・クルーザー・ガール」

2015-03-03 19:44:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

正午、鹿屋基地内道場。窓より真昼の太陽の光差し込むこの道場において、対峙する一組のジュー・ウェアの男女の姿在り。「1、2、3、4」白鉢巻を額に巻いた黒髪の少女が右腕ストレッチをゆっくりと時間をかけて行う。「2、2、3、4」更に左腕も同じようにゆっくりとストレッチ。 1

2015-03-03 19:55:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それに対する褐色肌の男は微動だにせず、少女の動きを観察していた。その瞳は獣めいて鋭い。「スゥーッ」男は息を吸い「ハァーッ」そして吐いた。「スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…」男は呼吸を続ける。これは単なる緊張緩和のための深呼吸ではない。精神のヘイキンテキを保つ呼吸法だ。 2

2015-03-03 20:03:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そんな彼らの様子を、道場下座壁際において注視する二人の男在り。二人は第1種軍装に身を包んだ提督であった。「しかし、自分で頼んでおいてなんですが」小柄な提督が心配そうに呟く。「大丈夫なんですかねリカルドさん」「それは杞憂だよるなか司令」隣の細身の提督が軽い調子で呟きに答える。 3

2015-03-03 20:21:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「葛葵司令」小柄の提督、瑠奈花が隣の葛葵に視線を移す。「仮にも提案者は君だ。今更どうこう言っても仕方ないさ」「それは、そうですが」瑠奈花は言いよどむ。事の発端は単純だ。数日前の酒の席において、瑠奈花はリカルドの修めるカラテに興味を持ち、腕試しを吹っ掛けたのだ。 4

2015-03-03 20:29:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

久しぶりの美酒に舌鼓を打つリカルドは二つ返事でこれを承諾した。だが、当日となりトラブルが起こった。瑠奈花の麾下の艦娘である長良がどこからかこの話を聞き出し、割り込みをかけたのだ。トラブルを面倒がったリカルドが長良の挑戦を受け、今二人は道場内で対峙しているのだ。 5

2015-03-03 20:32:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しかし、私ならまだしも艦娘ですよ」瑠奈花は己の胸の内の不安を吐露する。「それも私の麾下では一番鍛えている長良だ。如何に常人戦力といえども」「割と大丈夫だと思うよ?」葛葵は瑠奈花の不安を一蹴した。「大丈夫、とは?」「簡単に言うなら」葛葵は微笑した。「彼が狩人だからさ」 6

2015-03-03 20:37:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「狩人?それが一体?」「さぁ、雑談はここまで」葛葵は目を輝かせて大仰に言った。「イクサが始まるよ」 7

2015-03-03 20:40:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

(攻めてこない?)長良は左腕を斜め前に構えたオーソドックスな左前構えを維持しつつ、眼前のリカルドとの間合いを図る。対するリカルドは右腕をチョップ形で前に構え、左腕を腰に落とし構えるどこか柔術めいた構えだ。その全身から溢れ出す闘気、或いは殺意が長良を突き刺すが、当人は不動だ。 8

2015-03-03 20:47:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

当初、長良は目の前の男が粗野な暴力者の類であり、自身の司令官が相手取るまでもないと考えていた。如何な常人戦力と言えど筋肉だけではフォースとライトセイバーの使い手である瑠奈花は元より、自分にすら勝てぬ。そう考えた。(けど)長良は頬に一筋汗を流す。(この人、何?) 9

2015-03-03 20:51:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

長良はリカルドの目を見た。獣めいた鋭い目だ。だが理性がある。同時に、敵として今構えている自分への殺意が。(何て禍々しい)長良はその青い瞳を怖れた。彼女が経験したことのある殺意は、深海棲艦らの発する無機質で行く先を無くした殺意だ。明確に己だけに突き刺さる殺意を長良は知らない。 10

2015-03-03 20:59:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「物事は常に見えるとおりとは限らない」瑠奈花が良く口にする、古の心得の内の一つが長良の脳裏に過る。正にその通りであった。目の前の男は粗野な暴力者ではない。それよりももっと恐ろしい何かだ。(けど)長良は己を奮い立たす。(負けない)「はぁ!」長良はリカルドに躍り掛かった! 11

2015-03-03 21:04:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

(体格差から見て、今のままでは抑え込まれる!)長良の危惧通り、リカルドとの体格差は伝説のブル・ヘイケとベンケイの一騎打ちを想起させる差があった。長良はリカルドの不意を突くために跳躍!(このまま、首を獲る!)「たぁ!」長良は跳躍の勢いから右回し蹴りを放つ!SMAAAASH! 12

2015-03-03 21:12:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

この時、長良は気付いてはいなかった。己がリカルドの殺意に煽られ、無意識に攻撃的になっていたということを。彼女が本気で蹴れば人間の首なぞ容易く圧し折れる!少なくとも、瑠奈花はそう思っていた。だが「イヤーッ!」今まで黙していたリカルドが吼える!瞬間、長良が空中で停止! 13

2015-03-03 21:15:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「エッ」長良は宙に浮く己に困惑した。首を蹴ったはずの己の右足を見る。長良は驚愕した!長良が蹴るその瞬間まで腰に構えられていた左腕が、盾めいて長良の蹴りを止めているのだ!先程打ち据えたのは首ではなく左腕!しかも、右足から伝わる感触は、骨すら折れていないという事実を告げる! 14

2015-03-03 21:21:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

な、ナムサン!何たる耐久力か!そしてリカルドは素早く左腕を返し、無造作に長良の右足を、掴んだ!「しまっ!?」「イヤーッ!」リカルドは力強く長良の右足を後ろに引き、近づいてきた長良の顎に対し、痛烈な裏拳を、叩きこんだ!「イヤーッ!」SMAAASH! 15

2015-03-03 21:25:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

裏拳命中と同時に、リカルドは足から手を離した。引くと押す、二つのベクトル衝突衝撃により、長良の意識は一瞬で刈り取られた。「はっ!」タタミに頭から落ちかけた長良を、間一髪で瑠奈花が抱え込む。「長良、大丈夫か」「心配せんでも」瑠奈花のせいにリカルドが声を掛けた。「殺してはない」 16

2015-03-03 21:30:18
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「殺す?」瑠奈花はリカルドの言葉に思わず問い返した。「殺すつもりだったのか?」「それがご所望だったんだろ?」リカルドは心外だと言わんばかりの顔をした。「『死を常に隣人とせよ』狩人の訓戒だ。訓練とは言え、殺す、殺されるの気概でやらねば」リカルドは淡々と喋る。「身にならん」 17

2015-03-03 21:35:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「うう…」長良が呻いた。「長良!」「言ったろ、殺してないと」リカルドはため息をついた。「軽く顎小突いた程度だ。寝てりゃ直る」リカルドはぼやいた。「それに本当に命懸けでやるなら鎧着てくるっつうの」「いや、それはやりすぎじゃない?」葛葵がリカルドたちに近づいた。 17

2015-03-03 21:40:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「て言うか、土足で道場に上がるのはいけないと思うよ?」「そこ突っ込み所か?」リカルドと葛葵は朗らかに語らう。そんなリカルドを見て、瑠奈花は思い出した。狩人。そう自称する者達が提督の中に一定数存在することを。確か正しくは「モンスターハンター、か」「おん?」「そうなんだろう?」 18

2015-03-03 21:46:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「モンスターハンター、ね」リカルドは頭を軽く掻いた。「それは自然とのコネクトに真に成功した優秀なハンターの総称だ。俺はただの一介のハンターだよ」「成程」瑠奈花はその答えを聞き、理解した。リカルドにとって、命とは賭けて当たり前。それがハンター。命を奪う者の義務であると。 19

2015-03-03 21:51:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

つまり、戦いの心構えが違うのだ。聞けばハンターの狩る獣とは、ワイバーンや大猿、巨翼の怪鳥など、少なくとも瑠奈花の世界の常識の外の化け物たちだ。彼らに身一つ、武器一つで立ち向かうメンタリティは生半なものでは役に立たぬ。覚悟が必要だ。己が虫けらめいて殺される覚悟が。 20

2015-03-03 21:55:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

艦娘にその覚悟が無いか、と言われれば、無論ノーだ。だが、常にそれを意識しているかと言われれば、それもまたノー。自分の死を常に意識し続けるメンタリティとは、どれ程の物なのだろうか。瑠奈花は、自身の信ずるフォースの教えとは違いながらも、超然としたハンターの思想に興味を持った。 21

2015-03-03 22:03:00