いちばん好きな人

∞すみれ∞ @magic88word

1 薄暗い部屋 俺の腕の時計をかざして見るおまえ 『…もう行かないと…』 まだ整わない息で言う いつも…帰るとは言わへんな やさしさのつもりなん 「あかん…まだ足らん…」 脚をからませて困らせる pic.twitter.com/GeZ7TRqDpR

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2 微かに身体が沈む感覚で目覚める はっ…！寝てもうた？ 白い背中が見える おまえが起き上がったとこやった …よかった 「まだええやん…」 お腹に手を回して引き寄せる 『すば…』 「もっかいだけ…」 わかってる…きりないねん いくら引き延ばしても 何も満たされへん…

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3 シャワーして、化粧して、服着て おまえが帰り支度する… いちばん嫌いな時間 これ以上引き留める術もない 送ってってもやられへん 自分の無力さ思い知らされる 最後に指輪をはめて 立ち上がるおまえ 『じゃ…行くね』 ベッドに寝そべったまま その指を強めに噛んだ

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4 別れよ…て言われたん いつやったかな 結婚して…とは言わんかった 『親に結婚急かされるの 孫の顔は見せてやりたいしね…』 ちょうど主演映画が 決まったばっかりやった 結婚するわけにはいかへんけど 別れる気もなかった 「したらえーやん」 俺はそう言うた

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5 半年後あいつはほんまに結婚した… 仕事が忙しなって 時間が作れんくなってたとき あいつからの留守電 『結婚することになりました…』 夜中に車を飛ばしてく 『結婚するの』 「・・・」 『なにか言って』 「・・・」 『すばるがしていいって…』 抱きしめるしかなかった

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6 引き留めることができひんかった 「そいつとおって幸せなんか？」 『女はね2番目に好きな人と 結婚するのが幸せなんだって』 「1番目のやつ、かわいそ」 精一杯ちょけて言うたのに それには答えんと 『私のこと１番に 愛してくれる人なの』 俺をまっすぐ見てそう言いきった

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7 しばらくは仕事に忙殺された いや、そう思い込もうとしとった 1ヶ月もたんかった 泥酔して留守電に名前叫んで… 気ぃついたら、あいつの膝枕やった 『ずるいよ…すばるは』 「俺かておまえやないとあかんねん」 pic.twitter.com/jyO6PW5daj

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8 あいつと知り合うたのは 東京に珍しく雪が降った日やった 道が混んでて新幹線に乗り遅れた 焦ってマネージャーに電話するけど 電波悪うてようわからん 「どないすんねん」 俺、情けない顔しとったんかな 『きっぷ…変更するんですか？』 そんとき声かけてくれたんが あいつやった

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9 自分のと一緒に手続きしてくれて いたずらっぽく笑う 『私の隣になっちゃいました』 「すんません」 『私、よく乗り遅れちゃうから』 人懐っこいのに グイグイ話すでもない もっすごでかいカバンやから 「旅行？」て聞いたら 可笑しそうに笑って 『仕事です』って

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10 俺のこと知らんみたいやし 人見知りの俺が すごい自然体でおれたのに まもなく新大阪っていうアナウンスで 反射的に目覚ましたら もうおらんかった 京都で降りたんかな？ なんで気ぃつかんかったかな カッコつけて降りる寸前に 連絡先聞こ思てたのに 完全に失敗…アホや〜俺

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11 そんなことも忘れかけた頃 新曲のMV撮影の現場で再会した 「うそー」 思わず指差してもうた 見つかったか…て感じで 舌出してるあいつ ヘアメイクさんやったんや 知っとったんか…やられたな 知らん間に頬が緩む "なんや、ええことあったか⁈" ヒナには隠されへんわ

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12 また逃げられてまう… 仕事中も落ち着かんくて あいつが終わんの待って 食事の約束取り付けた "すばるが女の子に喋りかけてる！" メンバーもびっくりしとったけど そんなんどうでもよかった あんな気持ち初めてやった あいつが一番大切な人になるのに 時間はかからんかった

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13 深夜のドライブで初めてのキス 「俺とおったら普通の… 人並みのデートできひんで」 『…？』 「遊園地とかそーいうとこ」 『すばるくんが落ち目になったら 連れて行ってもらう』 「ほんならジジイになるまで 一緒におってもらうで」 笑いながら唇を合わせて 舌を絡めあう

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14 ふたりでおるだけで幸せやった でも…日の当たる場所やなかった 薄暗いとこに 閉じ込めたままやった そして今も… pic.twitter.com/RupKfZdDIB

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15 明日はホワイトデーやな… いつも世話になってる店やったら 食事ぐらいいけるかも あいつとおるようになってから こんな行事も 照れんとできるようになった 今いける？ いいよー LINEしたらすぐ返ってくる 俺から電話は かけへんようにしてるけど

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16 「明日…逢えるか？」 『…ん、明日は…』 「ん？」 『その…女の子の日…だから』 「…おまっ別に俺それだけちゃうねん いつもんとこご飯行こかなって…」 『ごめん…彼と…』 「そか！そやな、そらそうや」 『ごめんなさい』 「かまへん、かまへん」 なんか色々切ないな…

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17 前にいっぺんだけ見たその人 珍しく昼間に車で出かけた 街は人で溢れてる 日曜日やったんや… 信号待ちで 通りのカフェにあいつを見つけた 嬉しそうに話してる 隣には…あれがダンナか だいぶ年上て聞いたけど どっかの俳優に似てる 男前で優しそうやな お似合いのふたり

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18 結局… 俺はあいつになにをしてやれてるん わがままばっかり言うて 自分勝手で 2番目なんは俺の方やな… pic.twitter.com/06HezpD3i7

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19 夕方からの雨が本降りになってきた せっかく咲いた桜、散るんちゃうか 毎年ひと気のなくなった公園で 夜桜みたよなあ…あいつと そんなこと考えながら 洗濯機回してる 「わびしーなぁー」 わざと声だして言うてみる 俺もヒナみたいにネコでも飼おかな？ 本気で考える

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20 ピンポーン♪ びくっ！ なんやこんな夜中に…いたずらか ピンポンピンポンピンポーン 誰や おそるおそるドアスコープから覗く 「え…どしてん！」 急いでドア開けたら びしょ濡れのあいつが立っとった 『すばる…』 それだけ言うて倒れこんでくる 酒…飲んでるんか？

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21 『ちょっと…雨宿りさせて』 「おまえ、うゎ…とにかく上がろ」 洗面所へ連れて行って タオルをかぶせる 「これあかん、風邪引くわ」 スウェットとってきて着替えさせて とりあえずソファに座らせる ふるえる身体を毛布で包んで 濡れた髪を拭いてやる 「なんか…飲むか？」

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22 ぷるぷる首振って抱きついてくる 『抱いて…』 「な、なん…」 なんかあったんか？ 飲めへん酒飲んで いつになく大胆なあいつに戸惑う 「こんな時間に…帰らんでええん？」 『今日…送別会で遅くなるから 実家に泊まるって…』 「そうか、早よ言うてくれたら よかったのに…」

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23 『ごめんなさい…』 首に手を回してくる 「おまえ…冷たい…」 『あっためて…』 あいつの冷え切った身体は 抱きしめたら 氷みたいに溶けてしまいそうやった なんとなく違和感を感じながらも 帰らんでええっていうあいつに 舞い上がって 一晩中溶かし続けた…

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24 目覚めたらあいつはおらんかった なんで…？ 夢やったんか あいつが結婚してからも 逢われへん時間を埋めるように 身体を重ねた でもこのときのあいつは なんか違うかった すばる…すばる…て 何回も名前呼んで 何度も求めてきた… アホやった… 酒のせいかと思てた

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25 メールするけど既読もつかへん 電話も出ーへん おかしい… そういえば昨日の様子も いつもと違うかったのに …今さら気づくか 最後にするつもりやったんか ひとりで決めるんか 行くあてもないけど 探しに行こ思た 部屋のドアを開けたとき はらり…何かが落ちた