西村さん艦娘周辺

忘備録
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洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

やがて、季節は冬になった。 扶桑の肌は雪よりも白い。喫茶店に入ると手袋の下の手を出して壁際の暖炉の火にかざす。雪の日も、曇りの日も、どんな日も扶桑は欠かさず来店して数時間仕事をして帰っていった。日向はコーヒーを淹れながら、自分が手を添えて扶桑を温めてやりたいと思う。

2016-01-08 00:28:58
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

だが、自分が扶桑に触れていいのだろうか、扶桑に触れたいと願っていいのだろうかと自問ばかりして、行動には移せない。扶桑ほど美しい人、いや、この世のものならざる美しすぎる人なら、きっと想い人もいるだろう。日向はそう考える。扶桑が毎日喫茶店に訪れている事実を特別とは考えられない。

2016-01-08 00:30:57
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

日向はそういう人間だった。誰かが自分を特別に想っていることには悉く鈍く、自分が誰かを特別に想っていることは表に出さない。特段、日向は感情を殺しているのではなく、感情を察知するのも表現するのも下手なのだった。 そんな日々が大きく変わったのはクリスマス前日の24日のことであった。

2016-01-08 00:33:49
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

その日は生憎の雪――世間ではホワイトクリスマスと喜ばれるが日向にとってはお客がほとんど来ないためいつもと変わらない、いや、いつもよりも悪い日――だった。扶桑が定時になっても現れないのだ。日向は扶桑の注文するコーヒーをすでに淹れかけてしまった。何かあったのだろうか。

2016-01-08 00:36:41
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

日向の店に扶桑が来ないことは今まで有り得なかった。たまたま扶桑が体調を崩しているかもしれない可能性など、日向の頭には浮かばなかった。日向が考えた扶桑が来ない理由は、一つ、喫茶店のコーヒーに飽きてしまった、二つ、この雪で交通機関が麻痺している、三つ、のっぴきならぬ事情が発生した

2016-01-08 00:39:06
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

、であった。一つ目ならば仕方がない、自分が至らなかったのだ。二つ目ならば待っていれば来る、あるいは明日になれば来るだろう。三つ目ならば、コーヒーを淹れる以外に何かしてやりたいが、果たして自分に何ができるだろうか。この時点で日向の思考は扶桑に何かが起こったのだと決めつけていた。

2016-01-08 00:41:01
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

日向はいくつものことを同時に考えるのが苦手である。加えて、三つの内すぐに考えるべきは三つ目だけだったため、他の選択肢は消えたのだった。扶桑に何かが起こっている。とすれば、日向の持つ能力でそれが解決できるだろうか。日向は自身の特別な力について考えを巡らした。

2016-01-08 00:42:54
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

剣道、合気道、空手、武術の心得がある。馬に乗れる。コーヒーを淹れるのが上手く、好きな音楽はクラシック。財産はこの店と二階の居住スペース、大量の書籍と古い時代劇のフィルム。それらが解決できる問題であるならいいが、果たしてどうなのだろう。

2016-01-08 00:45:25
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

日向が思考の迷路にハマってしまうのを防ぐような絶妙のタイミングで入店のベルが鳴った。雪の中傘も差さずに来たのだろうか、扶桑の黒髪は雪に覆われており、肌の色、コートの白と重なって、全身が信じられないほど無色透明になっていた。温めなければ消えてしまう。日向はそう直感した。

2016-01-08 00:47:42
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「暖炉に当たるんだ」日向はカウンターを出て扶桑に近づき、雪を払うと暖炉前に椅子を置いて座らせた。それから一度外に出て「本日閉店」の印を出すと、店の中に戻って二階から厚手の毛布を持ってきて扶桑に被せた。「コーヒーを淹れるよ」扶桑は黙ったままだった。

2016-01-08 00:50:22
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「ミルクは淹れてないが」日向に手渡されたコーヒーカップで両手を温めながら、扶桑は小さな音を立てて黒い湯を啜った。暖炉の火に照らされた扶桑の赤い目から不意に涙が一筋零れ落ちた。「熱かったか?」日向が尋ねると、扶桑は小さく首を横に振った。「……すごく温かだったから」

2016-01-08 00:52:45
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

扶桑の表情は笑っているような、泣いているような微妙なものだった。日向はそれを安堵しているものだとは受け取れず、ただ複雑な表情だと受け止め、何か大変なことがあったのだという事実だけを察した。いつもはそれなりの距離から眺めている扶桑の顔がすぐ近くにある。日向は無意識に視線を注いだ。

2016-01-08 00:55:01
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「……扶桑、さん……それは?」日向は扶桑の顔をまじまじと見つめて気が付いた。その頬、濡れた髪に隠されるようにして赤く痣のように腫れている箇所があったのだ。「……なんでもありません」だが、武道経験者の日向にはそれが凍傷などではなく誰かに殴られてついた傷だと一目で分かった。

2016-01-08 00:57:16
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「なんでもないことあるまい。私はそれなりに武道を嗜むから分かるが、それは殴られなければつかない傷だ」日向は立ち上がって救急箱から湿布を出してくると扶桑の冷えた肌に貼ってから改めて言う。「あなたの肌の美しさが分からない者がやったのでしょう」日向は自分が珍しく怒っているのに気が付いた

2016-01-08 00:59:52
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

扶桑は日向のものではない。だが、扶桑の肌に傷がつくのは許せない。それは強烈なエゴだった。ミケランジェロのピエタが傷つけられれば、世界中の人が怒るように、日向は誰のものでもないが美しいものへの攻撃に対して怒っていたのだ。同時に、扶桑の美しさを人一倍愛している自負も日向にはあった。

2016-01-08 01:03:24
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「一体何をされたのですか。どうか私に話してはみませんか。私はそれなりに強いし、あなたに対して誰よりも誠実に尊敬の念を抱いています。扶桑さん、話すだけでも楽になりますよ」もっとも日向には扶桑の話を聞くだけで済ます気など微塵もなかった。それどころか、扶桑の敵を全て殲滅する気でいたのだ

2016-01-08 01:05:59
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「……」扶桑は顔を上げると、しばらく日向を見つめていた。その赤い瞳の奥には複雑な感情が渦巻いていた。日向は目を逸らさないようにだけ努めた。細かいことを考えるのはどうも苦手である。直感的に、扶桑の視線を受け止め続けることが一番必要だと思ったのだ。そして、それは当たっていた。

2016-01-08 01:07:46
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「あなたはどうして……いえ、詮無いことですね……」扶桑は小声で何か言い一度目を瞑る。再びその瞳の赤が暖炉の火を反射した時には、扶桑は覚悟を決めたような精悍な顔つきになっていた。 「日向さん……どうか私を……助けてください」

2016-01-08 01:10:08
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

伊勢が道場を継ぎたくないけどそれを言い出せない雰囲気を日向は察して「私が勝ったらお前は破門だ、伊勢」と伊勢に真剣勝負を申込み親がいる前で日向が紙一重で勝利、伊勢は出ていくことになり「……さっさと行け」とだけ日向は言うんだけど実は陰で泣いているんだよね

2016-01-16 10:33:05
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

伊勢は誰にも慕われる人で道場の主にピッタリなのに対して日向は求道者故に強いけど門下生が来ない。それを知ってなお伊勢の自由の為に日向がそんな行動をとったことを伊勢は分かってて、「……頑固者」とだけ言い残して去る。日向は伊勢が最期の瞬間で踏込に躊躇いがあったことを思い噛み締める。

2016-01-16 10:35:34
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「私は最後まであなたに勝てなかったよ」と日向は呟いて道場を継ぐ。伊勢は独り暮らしを始め念願の自分の人生を歩み始める。しかし、道場主の仕事は意外と日向の性にあっていて門下生は最上くんしかいなくなったけど近場の高校の顧問や自身が大会に出ることで何とか道場を存続させる。

2016-01-16 10:38:19
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

伊勢さんは自由の風を纏っていますから、それが榛名には新鮮に思えたのでしょう……飛ばされた榛名の帽子を拾ってくれた伊勢さんは、家と学校以外の世界を知らない榛名にとってまさしく外の世界全ての象徴のように感じられたのです

2016-01-16 10:46:38
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

日向の母親はお茶をやっていて、その家元が華道も嗜む扶桑で、日向の家の茶室から出てきた扶桑に日向が一目惚れしたところから物語が始まる(声をかけるのにその後10回ほどを要した、というか練習する日向に逆に扶桑が声をかけた)

2016-01-16 10:48:30
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

いつも扶桑を見ていた日向が扶桑が近づくと練習してるふりをするんだから扶桑に声をかけられても仕方ないんだよなぁ(この後滅茶苦茶二人っきりでお茶を習った)

2016-01-16 10:49:44
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

最上が連れてきた新しい弟子が時雨で、時雨は柔術を習いに来て、偶然最近日向が仲良くしている(日向の両親は結婚させようとしている、扶桑は日向と二人でお茶を点てるのを楽しみにしておりまんざらでもなさそうだ)扶桑と、連れ立ってきていた山城に出会う。これが山時雨の出会いだった……

2016-01-16 10:51:24
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