徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』(先行版)

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ろくせいらせん @dddrill

◆徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』togetter.com/li/793611◆ 連載中

2015-03-12 19:05:31
ろくせいらせん @dddrill

……翌日。街では、しめやかに祭りが行われていた。それは祭りであり、葬儀でもある。徳エネルギー技術者の老人と、ソクシンブツ。二人分の葬儀だ。 元々は、街が生き延びられることへの祝いの祭りの筈だった。だが、一人の老人の解脱によって、その意味は大きく変わってしまった。10

2015-03-12 19:41:07
ろくせいらせん @dddrill

人々の顔は暗い。強制成仏現象は、実に高僧二人分の徳を一瞬にして開放せしめ……徳ジェネレータを破壊し……現世に残されたのは、二人分の亡骸のみ。 彼等は、徳エネルギー技術者、ソクシンブツというエネルギー源、そして徳ジェネレータ。その全てを一晩にして失ったのだ。11

2015-03-12 19:44:04
ろくせいらせん @dddrill

「……これから、どうなるんだろうな」「言うな」ガンジーとクーカイは溜息を吐く。 「俺達が、ソクシンブツを見つけさえしなければ……」「街はどのみち、干上がっていたさ」彼等も、理解してはいるのだ。自分達は、間違ったことはしなかった。それでも、割り切れるものではない。12

2015-03-12 19:47:50
ろくせいらせん @dddrill

それともこれは、徳を積むことを諦めた人々への罰なのだろうか? 徳を開放したエネルギーを代価とし、人を高次存在へと引き上げる。それが、徳物理学が解明した解脱のメカニズムである。それでも、人類全てが解脱するためには徳の総量は遥かに足らない。13

2015-03-12 19:53:44
ろくせいらせん @dddrill

「少しでも早く、次の獲物を探すしかない。水素の備蓄が尽きる前に、だ」街の人々は、まだ生きることを諦めてはいない。ある者はガンジー達同様徳の遺物を探し、ある者は旧来の水力発電設備を復旧させ……またある者は、写経と念仏、マニ車などによって僅かでも徳を積もうと試みている。14

2015-03-12 20:01:10
ろくせいらせん @dddrill

「あれだけのものを見つけられたんだ。だから今度も出来る、だろ?」 「……そうか、そうだよな」「どうせなら、夢のエネルギー源を探す心積りで行こう」「ああ!」 やる気を取り戻したガンジーは、クーカイと拳を合わせる。彼等は調査用無人機のデータ解析に取り掛かった。15

2015-03-12 20:06:24
ろくせいらせん @dddrill

だが、問題は徳遺物だけではない。徳ジェネレータを修復するため、徳エネルギー技術者も探さねばならないのだ。かなりの遠出が必要になるだろう。廃寺以外に、人間の住まう集落も探さねばならない。 「……北に200キロか」「ギリギリだな。向こうで補給が受けられなければ、戻れなくなる」16

2015-03-12 20:10:07
ろくせいらせん @dddrill

「……いや、ここは博打を打つべきだ。もし人里があるなら、交易だってできるかもしれない」採掘屋の里は、かつての文明のサルベージによって成立している。自活可能な水準には達しているが……足りないものも多い。 数百kmの不整地を往復してでも、手に入れたいものはある。17

2015-03-12 20:16:19
ろくせいらせん @dddrill

「問題は……」「得度兵器、だな」人類の生活圏がここまで狭まったのには理由がある。 徳エネルギーを用いて動く機械生命体。かつての文明の遺産である。徳カリプスによって大部分が機能停止したが、生き残った一部は武装化した。その成れの果てが『得度兵器』と呼ばれる存在である。18

2015-03-12 20:25:46
ろくせいらせん @dddrill

『彼等』もまた採掘屋と同じ、他者の徳エネルギーを用いて生き延びる者達だ。 「……まぁ、こっちが徳を持ってなきゃ襲ってこないだろ」「それもそうだが……一部には、人間を浚って徳を生産させる集団もあると聞く」「無理矢理僧侶にされるのか……それは嫌だな。噂だろうけど」19

2015-03-12 20:28:05
ろくせいらせん @dddrill

そんな一幕がありながらも、彼等の遠征準備は着々と進められていくのであった。20

2015-03-12 20:28:54
ろくせいらせん @dddrill

「……意外なほど、あっさり着いたな」「……ああ」 採掘屋の街から、北に直線距離で200km。ガンジーとクーカイは目的座標のすぐ手前にまで辿り着いていた。 途中、巡航する大型得度兵器には何度か遭遇したものの……想定していたような『襲撃』は無く、退屈とすら思える旅路であった。21

2015-03-12 21:50:16
ろくせいらせん @dddrill

「……ここに、『仏舎利』の手掛かりがあるのか」「……そういうことらしいな」ガンジーとクーカイは残り僅かな旅路に気を引き締め直し、出発前の出来事を思い返す。 --【回想】-- 出発前、彼等の元を訪ねる人があった。それは、ラマ・ミラルパ20世の『孫娘』であった。22

2015-03-12 21:55:13
ろくせいらせん @dddrill

実際には彼女は孫娘ではなく。亡きラマ・ミラルパ20世が引き取った孤児であったのだが…… 「……おじいちゃんの机を探してたら、これが出てきたの」 そう言って、彼女はガンジーとクーカイに走り書きのメモを差し出す。 「あの爺さんが、俺達に?」「幾らなんでも手回しが良すぎると思うが」23

2015-03-12 21:59:13
ろくせいらせん @dddrill

「宛名は無かった。でも、この『情報』を生かせそうな知り合いが、貴方達しか居ないから」 「……そうか」クーカイは少女からメモを受け取り、広げる。「これは」次の瞬間、彼は目を見開いた。 「無限の徳エネルギーの源は実在する。我々はそれを『仏舎利』と呼ぶ……」震える声で、彼は読む。24

2015-03-12 22:04:27
ろくせいらせん @dddrill

「ここから北200kmの街に、手掛かりが残っている。世界に危機あるとき、それを探せ ラマ・ミラルパ20世」 「……仏舎利……」「ラマ・ミラルパ。こいつは、偉い坊さんの名前だ。あの爺さんがハゲてるの、歳のせいじゃなかったのか……」 「……お爺ちゃん、ずっと後悔してた」25

2015-03-12 22:07:32
ろくせいらせん @dddrill

思いつめた表情で、娘が口を開く。「世界をこんな風にしたのは、自分の責任だって……だから」 「罪滅ぼし、という訳か」「……」ガンジーは無言。 「世界の危機、というのはいまいちわからんが……この街の危機はすぐそこだ。遠出ついでに探してみよう」26

2015-03-12 22:11:16
ろくせいらせん @dddrill

「いいか?ガンジー」クーカイは落ち着きを取り戻し、ガンジーを見やる。「……ふざけんなよ」……ガンジーは拳を握り、ぶるぶると震えていた。 「こっちは、家族全員、徳カリプスのせいで無くしてるんだ。伝言だけ残して、自分は仏様かよ。身近に敵が居たってのに……俺は……!」27

2015-03-12 22:18:13
ろくせいらせん @dddrill

「……死人に当っても、どうしようもない」「……っく」クーカイはガンジーの肩を叩く。「今は、少しでも徳エネルギーが欲しい。俺達のやることには、変わりがない。そうだろう?まして仏舎利の手掛かりが、手に入ったんだぞ」「………そうだな」絞り出すようにガンジーは答えた。28

2015-03-12 22:24:15
ろくせいらせん @dddrill

「……爺さんの意志は汲もう。だが、こいつは黙っていた方が良さそうな問題だ」 「……はい」クーカイの態度に、娘は思わず気圧される。 「『仏舎利』は、俺達が見つけ出す」「……譲る気はねぇよ」 --【回想終わり】--29

2015-03-12 22:26:31
ろくせいらせん @dddrill

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2015-03-12 22:28:56