「無情なる山水[やま]」――夢枕獏風ニンジャスレイヤー
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そいつは、そのものすごいものは、ミニットマンの腹の底から、おそろしい速さで腰を回り、背骨を駆け上がり、両肩を掴んで、やけどするような息を、彼の耳の裏に吐きかけているのだった。 (23)
2015-03-10 23:40:25そして、それは靴音でもあった。 薄暗い部屋で飲んだくれ、だめになったおやじを殴って飛び出した、その果てに、愚連隊を経て、たどり着いた、軍隊の行進だった。 (26)
2015-03-10 23:43:14ミニットマンは兵士になった。 さらさらの軍服と、きらきらしたライフルを持って、戦争へ行った。 軍服はすぐに汚れた。ライフルはだめになった。 彼の部隊は、本隊から切り捨てられ、廃墟と化した街に取り残された。 (27)
2015-03-10 23:44:22ざっざ。 ざっざざっざ。 ざっぞぞう。ざっぞぞう。 廃墟の外からは、敵の軍隊の、軍靴の音が聞こえてくる。 ミニットマンはひとり、それを聞いていた。だめになった、たまなしの、ライフルを抱いて、ぶるぶると震えていた。 (28)
2015-03-10 23:45:15あの頃は、やつも、別の名前だった。 おれも、ミニットマンではなかった。 たったふたり、地獄のような戦場に、取り残されて、生きていたのだ。 (31)
2015-03-10 23:48:16恐怖からではなかった。 こわいのではなかった。 いや、こわいにはこわかった。 こわいのは、しかし、敵ではない。 自分だった。 (33)
2015-03-10 23:51:06あの時のように、めちゃくちゃをしてしまいそうだったのだ。 おふくろのメモを握りしめ、部屋を、めちゃくちゃにした時のように。 コケシマートに、居合わせたやつらを、めちゃくちゃにした時のように。 おれは、めちゃくちゃに、敵へ突っ込んでしまいそうだった。 (34)
2015-03-10 23:52:09「なんでって、死んじまうだろう」 「死んじまっては、いけねえのかよ」 ミニットマンは聞き返した。 「どうだろうな」 イクエイションが言った。 (37)
2015-03-10 23:55:33「死んじまって、いけないことはない。おれたちはみんな、いつかは、そうなるんだからな。それがこの世のルールだ。インガオホーだ」 「やけにポエットなこというじゃねえか」 「ありがとう。だけどね、それは、死んじまうのは、今じゃない」 「じゃあ、いつなんだ」 (38)
2015-03-10 23:57:32「計算?」 ミニットマンは呆れた。 こいつはなにを言ってやがるんだ? だが、ミニットマンの気持ちを知ってか知らずか、イクエイションは言葉を続けた。 「そうだ。おれには計算がある。この糞ったれな地獄を生き延びる、計算がな。そして」 「そして?」 (39)
2015-03-10 23:59:40「その計算には、あんたが、必要なんだよ」 そう言って、イクエイションはじっとミニットマンを見た。 ずだぼろの軍服を着て、やっぱりだめになったライフルをぶら下げていたが、その目は奇妙にさわやかだった。 (40)
2015-03-11 00:00:18「おれが?」 「そうだよ。おれだけでは、だめだ。あんただけでも、だめだ。おれとあんた、二人そろっていることが、計算には必要なのさ」 さわやかな目の男が、言った。 (41)
2015-03-11 00:02:05そうして、イクエイションの指示した「計算」通り、敵部隊を撹乱し殲滅した二人は、敵兵の装備をはぎ取り、後続部隊に救助される形で、地獄のような市街戦を抜け出した。 (43)
2015-03-11 00:05:49