基礎心理学くんのエイプリルフール2015

りんしんたんお久しぶりです!
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3. 虐待の連鎖

きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

……さて、ここまでは、虐待によって脳が傷つくというお話をしてきましたが、ここからは「虐待の連鎖」について少しお話しようと思います。

2015-04-01 03:49:59
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

「虐待の連鎖」とは、虐待が親から子へと伝播する現象です。つまり、虐待を受けて育った子どもが親になったときに、自分の子どもを虐待するケースが多いということを指します。これはあくまでも統計上の話であって、虐待を受けた人が必ず虐待するようになるということではないので、注意してください。

2015-04-01 04:00:00
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

「虐待の連鎖」はなぜ起こるのでしょうか。まず区別しておきたいのは、虐待の連鎖が「遺伝によるもの」か「経験によるもの」か、ということですね。これを直接的に確かめることは難しいのですが、アカゲザルを用いた興味深い実験がありますので、これから紹介します。

2015-04-01 04:14:59
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

サルの世界でも、虐待が観察されることがあります。そこでMaestripieri (2005) は、虐待の連鎖が遺伝によるものか経験によるものかを調べるために、アカゲザルで母子交換実験を行いました。つまり、虐待をする親ザルと、虐待しない親ザルとを、交換してしまう訳ですね。

2015-04-01 04:29:59
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

親ザルが子ザルに虐待をすれば、たとえ血の繋がりがなくても、その子ザルが大人になったとき、自分の子どもに虐待を振るうのでしょうか。また、虐待する親ザルと遺伝子を共有している子ザルであっても、虐待を受けずに育ったときには、立派な親ザルになれるのでしょうか。

2015-04-01 04:45:00
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

実験の結果はまさにその通りでした。幼少期に虐待を受けたメスのアカゲザルは、血の繋がりのない娘のサルに対して虐待を行いましたが、虐待する親を持つ娘であっても,生後すぐに別の親の元で育てられれば、虐待は連鎖しませんでした。pic.twitter.com/1nukYeN4Da

2015-04-01 05:00:00
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きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

この実験結果は、「虐待の連鎖」が遺伝ではなく、経験によって伝わるものである可能性を示唆しています。もちろん、これはあくまでもアカゲザルでの実験結果です。同じことがヒトにも当てはまるかどうかに関しては、慎重に議論しなければなりません。

2015-04-01 05:14:59
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

ですが、経験の要因がヒトの虐待の連鎖に関与していると考えることで、先ほど説明した「脳の傷」の話とも辻褄が合います。タイチャーは、「ストレスは,『悪意に満ちた』世界に対処するために,子どもの脳に不可逆的な変化をもたらす」と主張しています。

2015-04-01 05:29:59
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

虐待を受けることによって、「世界は信頼できないものである」という認知が形成されてしまう、という理屈ですね。このような構えが出来上がることによって、他者との関わりが困難になったり、自分自身についてのイメージが曖昧になってしまったりすると考えられます。

2015-04-01 05:44:59

4. 臨床的なアプローチ

きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

以上のことを考慮すると、虐待の被害を抑えるために最も有効な方法は、早期に介入し、虐待を未然に防ぐ、ということになるのでしょう。乳幼児健診などで行われる虐待のチェックは、こういった観点からするととても重要です。

2015-04-01 06:00:01
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

……ですが、残念ながら、これで虐待を完璧に発見できる訳ではありません。また、「検診に連れて行かない」というネグレクトをされたら、どうしようもありません。児童相談所の介入にも限界があります。もちろん早期発見を努めるべきですが、未然に防げなかった場合はどうすればいいのでしょう。

2015-04-01 06:14:59
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

虐待を受けた人のケアに従事する際に、治療の最終目的をどのように設定するのかは重要です。もし仮に、タイチャーの言う通り、虐待の傷が「不可逆的」であるとしても、なすすべがない訳ではありません。

2015-04-01 06:29:59
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

トラウマ症状は、様々な心理的・生物学的要因が相互に絡み合った結果として発現するものであると考えられます。また、トラウマ体験そのものだけでなく、後にそれを思い出すことや、対人関係のトラブルなどによって、二次的な症状が現れることもあります。

2015-04-01 06:45:02
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

根本的な治療が難しい場合には、まず二次的・三次的な症状を緩和できるようなアプローチを取ることが有効な場合があります。アセスメントや初期のカウンセリングでは、症状の全てを虐待の体験に帰すのではなく、いくつかの出来事の候補を挙げて、問題の構造を探ることも大切かもしれません。

2015-04-01 07:00:02
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

また、症状を「治す」というよりも、新しい対処法や解釈の仕方を「習得する」という考え方を採用したほうが、建設的かもしれません。こういった点では,自閉症スペクトラムやダウン症のような,先天的な疾患に対して取るようなアプローチが有効なこともあります。

2015-04-01 07:15:01
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

例えば、うつ病を発症したことによって、記憶力が落ちてしまったクライエントさんのケースがあります。当然ながら仕事にも支障をきたしてしまう訳ですが、自閉症スペクトラムの人によく勧められるように、メモ帳を常備して、いつでも机に貼れるようにすることで、彼の困難は軽減されました。

2015-04-01 07:30:01
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

できることから少しずつ取り組んでいくことで、「自分はちゃんとできるんだ」という自己効力感が得られます。この自己効力感は、クライエントさんが自身の症状と向き合う上で、とても重要な感覚です。

2015-04-01 07:45:02
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

それから、先ほど少し触れましたが、トラウマに対する介入法として、最近注目されているのが「トラウマ・フォーカスト認知行動療法」です。これは、トラウマ体験の余波を受けている、児童や青春期の子どもとその親を支援するために開発された、経験的治療モデルです。

2015-04-01 08:00:03
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

トラウマ・フォーカスト認知行動療法は、その名前にも含まれている認知行動療法だけでなく、愛着理論や神経生物学的発達理論、人間中心主義的治療モデルなどを織り交ぜた、適用範囲の広い心理療法です。このモデルには様々な特徴がありますが、「家族に焦点を当てる」という点はとくに重要です。

2015-04-01 08:15:02
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

子どもの置かれた環境は、トラウマ症状の回復にとってとても重要ですが、家族こそが、多くの子どもたちにとって最も直接的に影響をおよぼしうる環境と言えます。そういった意味で、ここでいう「家族」とは、必ずしも血のつながった親族でなくてもかまいません。

2015-04-01 08:30:02
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

先ほども言いましたが、虐待を受けた子どもは、歪んだ認知を形成してしまっていることが非常に多いです。例えば、一方的に虐待を受けたのにも関わらず、「虐待を受けた自分に非があったに違いない」などと考え、自分を責めてしまうことが多々あります。他者についての認知も同様に歪みがちです。

2015-04-01 08:45:02
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

このような認知の歪みは、クライエントさんのナラティヴ(語り)からも読み取ることができます。トラウマ・フォーカスト認知行動療法は、こういった認知の歪みの問題を解消する上でも、非常に有効なアプローチであると言えます。

2015-04-01 09:00:02
きそしんくん@おかげさまで9年目 @kisopsy_kun

トラウマ・フォーカスト認知行動療法の有効性を示す証拠は、これまでに数多く提出されてきました。もちろん、まだ分かっていない部分もかなりあります。また、単に「マニュアルに従えば良い」というものではなく、カウンセラーの経験と技量がかなり要求される心理療法です。

2015-04-01 09:15:04
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