「桜縁」

2015年春季1号は、シリアスさのちづ編です。
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綺 羅 @thrianta_satin

タイトル未定 綺羅 2015.4.8

2015-04-08 23:20:10
綺 羅 @thrianta_satin

序 その視線の意味には随分前から気付いていた。 彼女に応えようと思えばそれは簡単なことだった。

2015-04-08 23:21:15
綺 羅 @thrianta_satin

ここに属していなければすぐに攫っていただろう。 ここに属していなければ出逢うこともなかったというのに。 知らぬふりをして季節を重ねて行けば、他に視線が移るだろうと思って過ごして来た。

2015-04-08 23:22:01
綺 羅 @thrianta_satin

躊躇なく愛を与えてくれる誰かのもとで、 しあわせそうな笑顔を見せてくれたら、 燃えるような嫉妬の下で、俺も笑って見せるのに、と。

2015-04-08 23:22:40
綺 羅 @thrianta_satin

彼女は真っ直ぐだった。 その視線に堪えられず、 思わせぶりな素振りを止めたのは、己のこころから目を逸らし、騙すためだった。

2015-04-08 23:23:05
綺 羅 @thrianta_satin

気になるから声をかける。 何を考えているのか知りたいから声を聞きたい。 けれどそうするたびに、気持ちが抑えきれなくなって行く。 期待させるくらいなら、いっそ話さない方がいい。

2015-04-08 23:23:30
綺 羅 @thrianta_satin

負の連鎖は彼女を余計に傷つける。 自分自身も瞳が濁る。

2015-04-08 23:23:48
綺 羅 @thrianta_satin

胸の澱みを晴らしたくて、酒に身を委ねてみたところで、既に酔ったこころは頑なに穢れを拒む。

2015-04-08 23:24:08
綺 羅 @thrianta_satin

体は火照りを覚えても、芯まで酔うことも自我を手放すことも出来ず、 掲げた盃に姿を映した月はまた欠けて行く。

2015-04-08 23:24:35
綺 羅 @thrianta_satin

肌寒さで目を覚ますまで、まどろみに溺れさせて欲しいと願いながら、 孤独色の空でひと際強く輝く光に想いを馳せた。

2015-04-08 23:24:55
綺 羅 @thrianta_satin

1 慶応三年三月。 優しさと厳しさが新選組から去ろうとしている。 千鶴にとって彼らはかけがえのない仲間であり、支えであった。

2015-04-09 21:08:43
綺 羅 @thrianta_satin

体から引き剥がされていくのは、京においてやっと感じることが出来るようになった二重の安寧だ。

2015-04-09 21:09:27
綺 羅 @thrianta_satin

新たな一歩を踏み出そうとしている藤堂と斎藤に、口に出してはならない一言と知りつつ、どうしても言わずにいられなかった。 行かないで欲しいという言葉に含まれた甘えを見透かしたのは、 斎藤だった。

2015-04-09 21:10:30
綺 羅 @thrianta_satin

それは、千鶴たちに藤堂や斎藤の離隊が告げられて間もない頃だった。 春の日差しと柔らかな蕾が鈴生りの桜を見上げて物思いに耽っている斎藤を見つけた千鶴は、 勇気を振り絞って斎藤に声をかけた。

2015-04-09 21:11:05
綺 羅 @thrianta_satin

「斎藤さん」 振り向きもせず、ただ黙っているが、千鶴が横に並んで立つのを拒まれたわけではない。 長い時を経て、今はそれがわかる。 (やっと、わかるようになったのに)

2015-04-09 21:11:30
綺 羅 @thrianta_satin

喉の奥が焼ける。乾いた声が震えながら斎藤を問い詰める。 「どうしても、行ってしまうんですか」 聞くまでもなく、斎藤の答えは一つしかない。

2015-04-09 21:12:09
綺 羅 @thrianta_satin

行き場のない涙がいっぱいにたまり、今にも零れ出しそうな滴になった時、斎藤は千鶴の顔を見据えるべく向き合った。

2015-04-09 21:12:32
綺 羅 @thrianta_satin

「その涙は、あんたを守る刀が減るせいか。 自分の身は、自分で守れると豪語していたはずだが」

2015-04-09 21:12:54
綺 羅 @thrianta_satin

斎藤もまた、千鶴にそんな力がないことは十分に承知している。 半分は嘘。半分は本当。 歩み寄るきっかけとなった小太刀の振る舞いを受けたのは、他でもない斎藤だったのだから。

2015-04-09 21:13:34
綺 羅 @thrianta_satin

とても身を守るほどの腕前ではない、それでも斎藤と沖田は千鶴を受け入れてくれた。 過ごした日々が次々と思い出されては頭の中を過って行く。 苦難の日よりも、何気ない日常が多く思い出される。

2015-04-09 21:14:24
綺 羅 @thrianta_satin

記憶の人ではなく、これからも時を重ねて行きたい__それが苦渋の道であっても、ともに。

2015-04-09 21:14:45
綺 羅 @thrianta_satin

揺れる滴の向こうの斎藤は、困ったような、戸惑ったような表情を一瞬だけ見せた。 「あんたが危機に面した時は、俺も手を貸す。 新選組であろうとなかろうと、一度約束したことは、守る。 必ずだ」

2015-04-09 21:15:15
綺 羅 @thrianta_satin

だから、と斎藤はそっと腕を伸ばした。 「泣かなくていい」

2015-04-09 21:15:32
綺 羅 @thrianta_satin

千鶴の頭を斎藤の不器用な手が撫でた時、我慢できなかった滴がぼろぼろっと溢れた。 声にならない泣き声で、一頻り泣いて、泣いて、泣き止むまで、斎藤は側で佇んでいた。

2015-04-09 21:15:55
綺 羅 @thrianta_satin

千鶴にとって斎藤は、決して接し易い男ではなかったはずだ。 話しかけにくい雰囲気を纏い、 口を開いても言葉数少なく、 ましてや気の利いた台詞一つ言うこともできない。

2015-04-09 21:16:26
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