杉江松恋氏が語る「小説新人賞応募作品のいろいろ問題点」

小説と漫画は作法がちょっと違うのですが、ここで呟かれたことの多くは、漫画を描き始めた人にも役に立つはず。というか僕も時々振り返ったほうがいいと思い、覚書的にまとめさせていただきました。
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杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

某新人賞の下読み第一段階おしまい。箱の中で落とすものと残すものの仕分けをした。ここから残すものについては順位をつけて、必要に応じて選評を書く。総じて低調。「最後まで読むことはできるが小説としては未完成」なものがほとんどだった。ある特徴を感じたので書いてみる。

2015-04-14 19:53:26
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

小説としてなぜ未完成と感じたかというと、読者を「もてなそう」「楽しませよう」という態度が皆無だったからである。小説は別に娯楽のために書かれたものだけでなくていいのだけど、大衆文芸の賞にそれで応募してきても選考で残れるわけはないよね。もちろん純文学の賞には別の厳しさがある。

2015-04-14 19:55:42
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

もてなしの欠如についてはいろいろ言いたいことがあるが、今回目立ったのは、骨組みだけで肉がないものが圧倒的に多かったことである。筋立てを語ることで終始していて、それ以外は何もない。いや、ストーリーテリングの技法が素晴らしければ問題ないんだけどさ。

2015-04-14 19:57:45
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

たとえば梗概で「主人公の純一は親の転勤のために長年住みなれた街を離れてボリビアに行く」と書いてあれば冒頭は、「晴天の霹靂であった。まさか自分が南米に移住するなんて」という状況説明か「えーっ、引越し」という台詞(それも説明のためのものである)で始まる。そのままですか、そうですか。

2015-04-14 20:00:09
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

別にそういう小説を否定はしないが、どれもこれも状況説明か台詞で始まるものばかりだとうんざりしてくる。あのですね、映画でも最初は主人公がどこかを訪れたり、カメラが入ってきて主人公を発見したり、そういう風に物語の中に導入する工夫がされているでしょう。あれが「もてなし」なんですよ。

2015-04-14 20:01:46
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

自分が観客(読者)になったら、と考えてみてくださいな。劇場が暗くなって上映が始まる前のどきどきする気持ちとか、幕が開いて舞台の上の役者が喋り始める前の緊張感とか、そこが楽しくなかったですか? いきなり説明で話を始めるのは「これから始まる物語への期待」を拒絶する行為なのですよ。

2015-04-14 20:04:27
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

同じようにうんざりした例に登場人物の紹介の仕方がある。梗概に「女性と付き合ったことがない主人公が次々に百戦錬磨のお姉さんと恋をして」などとあると、本当に「次々に」会わせるの。横スクロールアクションみたいに、順番で登場人物が流れてくるだけ。人はベルトコンベアに乗っていません。

2015-04-14 20:07:08
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

「俺、二十一歳で彼女いない歴二十一年の佐藤無茶ノ介は」みたいな一人称で始まる小説もだいたいこれと同じ失敗をしている。そうじゃなくて、誰かにその人を会わせて、親しくなったり、衝突したりする中で、どういう人間かを読者にわからせてほしいんですよ。関係の中で性格や属性を書くんです。

2015-04-14 20:09:57
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

ヒロインがAからDまでいるような話の場合は、彼女たちを序盤に出しておき、Aは重要度高、Bも同じくらい、Cはちょい役、Dはまったく関係ない人、みたいに配置しておいて、話が進展していく中でそれを少しずつ変化させていく。もちろん女性キャラクター同士の関係も書いておく。

2015-04-14 20:12:16
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

そうやってできた人間関係の網目を引っ張って目を詰めてみたり、あるいは広げてみたり、とにかく主人公を含む動態で見せていってもらいたい。読者が欲しいのはキャラクターのプロフィールじゃなくて、動いているときにどういう顔を見せるか、ということで、設定なんかはそこから想像させたっていい。

2015-04-14 20:14:47
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

そんなわけで、筋立てがさくさく進んでいく「だけ」の小説というのは、ページをめくらせる力があるようには見えるが、実は読者はページをめくらないと終わらないからそうしているだけで、楽しくもなんともない。読者が想像力を働かせたくなるような部分がないと、結局は読んでもらえないっすよ。

2015-04-14 20:17:50
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

「予定調和」とか「ありがちなオチ」を嫌ってプロットをひねろうとする強迫観念のようなものを感じることがあるのだけど、筋立ては陳腐でも読んでいて楽しいことは十分ある。力の入れどころを間違えてないか、と立ち止まって考えてみることをお勧めしまーす。今回の応募には間に合わないけどね。

2015-04-14 20:22:22
杉江松恋お-22紅楼夢 @from41tohomania

伊坂幸太郎『重力ピエロ』の影響か、一行目だけすごく凝った文章をもってくる応募原稿も最近よく見るんだけど、あれ、最初だけ印象的でもその次の数ページが無個性だったらすぐに忘れられちゃうからね>RT マラソン大会で最初だけダッシュする人と同じだよ。

2015-04-14 21:00:15