とっておきの桜

4
∞すみれ∞ @magic88word

1 "〇〇さん、今日残業できる?" 『あ、はい』 "急だけど大丈夫? デートの予定じゃなかった?" 『いえ、大丈夫です』 "悪いな週末なのに… 後で埋め合わせするからさ" 『いえそんな』

2015-03-29 02:01:11
∞すみれ∞ @magic88word

2 やっと訪れた週末… 定時であがって 最終のセールでもって 思ってたけど 部長直々に頼まれたら断れない それに少し興味もあって 人当たりは優しいけど 寡黙でどことなくミステリアスな 部長とふたりで残業なんて

2015-03-29 02:01:22
∞すみれ∞ @magic88word

3 広いフロアのそれぞれのデスクで 黙々とパソコンに向かう キーボードの音と たまに聞こえる部長の咳払い きまずい…早く終わらそ よし、終わった プリントアウトしてる間に化粧室へ 結構時間かかったし もたもたしたくないし

2015-03-29 02:01:34
∞すみれ∞ @magic88word

4 ポケットの中でスマホが震える 化粧室を出たところでメールを見ると "お疲れ様 よかったらこの後一杯どう? ふたりだけで夜桜なんてのもいいな" 『えっ!』 思わず声が出た 部長から…

2015-03-29 02:01:46
∞すみれ∞ @magic88word

5 「どーしてん」 『わっ!びっくりした…』 誰もいないと思っていた廊下に 立っていたのは同期の錦戸くん 「なにこそこそしてん」 『な、なにも…』 「部長やろ」 『へ?』 「部長が誘ってきたんちゃうの」 『え…えーと』

2015-03-29 02:02:00
∞すみれ∞ @magic88word

6 「おまえ…ロックオンされてんで」 『なに…それ?』 「部長、誠実そうな顔してるけど この手口で何人喰ってる思う?」 ポケットに手を突っ込んで 壁にもたれて俯いた錦戸くんが 上目遣いで言う

2015-03-29 02:02:12
∞すみれ∞ @magic88word

7 『まさか…』 にわかには信じられないけど 今まさにそんなメールが 送られてきたばかり 『これ…』 私が見せたスマホの画面を ちらっと見ると頷いた 「俺にまかしとけ…部屋戻りぃ」

2015-03-29 02:02:23
∞すみれ∞ @magic88word

8 そっとデスクに戻ると 部長がすでに帰り支度をしてた 行こうかとでも言いたげに 視線を送ってくる 『あ、あの…』 錦戸くん…助けてくれるんじゃ…! バタン! その時錦戸くんが 思いきり派手に音を立てて 部屋に入ってきた

2015-03-29 02:02:36
∞すみれ∞ @magic88word

9 「おー!待たしたなぁ、行こか?」 『え…』 「飲み行く約束やろ? ひどいわ、おまえ忘れとったん?」 『あ、あーそうだった!ごめーん』 「部長もうお帰りですか? よかったら一緒にどうですか?」 "ん?あ、いや僕は遠慮しとくよ じゃあお先に~"

2015-03-29 02:02:53
∞すみれ∞ @magic88word

10 部長が出ていくのを見送って にやっと顔を上げる錦戸くん 私はひとつ大きな息をついた 突然の小芝居にどぎまぎしたよ 「さ、行くで」 歩き出す錦戸くんについて 私も急いで部屋を出た pic.twitter.com/0RmUHZAfMk

2015-03-29 02:03:17
拡大
∞すみれ∞ @magic88word

11 「お腹減ったやろ、飯行く?」 『…うん』 エレベーターの中で言われて 急にお腹が空いてきた そういえば残業になって おやつ食べるのも忘れてた 部長とふたりっきりで ちょっとドキドキしてたなんて ばかみたいだけど

2015-03-31 21:40:12
∞すみれ∞ @magic88word

12 そのことには触れないで いつもどおりの錦戸くん 「なに食べたい? あ、お寿司以外にしてなぁ」 にっこりしてくれるから ちょっとほっとした

2015-03-31 21:40:23
∞すみれ∞ @magic88word

13 外へ出るとまだ夜風は冷たくて 思わずスプリングコートの 襟元を合わせる 「うわっ寒いな~鍋にしよか」 『錦戸くん食べれないんじゃ…』 「それが食えるようになってん! こないだ九州に出張してんけど 地元の鍋がめっちゃうまかってさ」 『ふーん』

2015-03-31 21:40:29
∞すみれ∞ @magic88word

14 週末のお店はどこも混んでいて 結局いつもの焼き鳥屋に落ち着く 何度も飲みに来てるけど そういえばふたりでって初めてだな 錦戸くんは唐揚げと鶏モモ串を 交互に食べて レモンサワーを豪快に飲んでる

2015-03-31 21:40:38
∞すみれ∞ @magic88word

15 『相変わらず偏食だね〜錦戸くんと 結婚する人はラクチンかも』 何気なくそう言ったら 飲んでたサワーにむせて 目を白黒させてる 『わ、だいじょうぶ?』 「ご、ごめん… そんなん言われたん初めてやから 普通めんどくさいて思うやん」 『あーそっか』

2015-03-31 21:40:46
∞すみれ∞ @magic88word

16 まだ咳込んでおしぼりで 口を押さえる錦戸くん 『唐揚げ上手に作れたら 他の料理もちゃんとできるよねー』 「おまえそんなん作る相手おんの?」 グラスを勢いよくあおった時に そんなこと聞いてくるから 今度は私がウーロンハイをこぼす

2015-03-31 21:40:53
∞すみれ∞ @magic88word

17 「もーきちゃないなぁ」 『わ、ごめ…』 あわててグラスを置くのに もたついていると 私のおしぼりを取って 口元を拭いてくれる 『ありがと』 おしぼりを受け取ろうとすると 離さずに引っ張って顔を近づけてくる

2015-03-31 21:40:59
∞すみれ∞ @magic88word

18 「ほんで?」 『え?』 「おるん?…彼氏」 『い、いないけど…』 「ほんま?」 『うん』 「そーなんや」 にやっとする錦戸くん なんなのそれだけ?

2015-03-31 21:41:05
∞すみれ∞ @magic88word

19 お店を出て駅へ向かう道 線路沿いの桜並木はまだ ほとんどつぼみ状態 「なんや夜桜って…咲いてへんやん 部長も詰め甘いなあ」 桜の木を見上げてた錦戸くんが 急に振り向いた 「な、ええもん見せたろか?」 『えっ?』

2015-03-31 21:41:13
∞すみれ∞ @magic88word

20 引っ張られて行ったのは 大通りから外れた裏通り 『ちょっと…どこ行く…』 「見てみ!」 『あ…』 小さなマンションのエントランスに 不自然に大きな桜の木 見事に満開だった 『わぁ…!』

2015-03-31 21:41:19
∞すみれ∞ @magic88word

21 「ここ日当たりがええんかな? とっておきのスポットやねん」 『きれい…』 「あ、教えたんはおまえだけやで」 『いいよ別に』 そう笑ったら 突然後ろから腕に包まれた

2015-03-31 21:41:26
∞すみれ∞ @magic88word

22 「あかんねん、俺が」 『え…』 「今日会社おったん偶然やと思う?」 『あ…』 腕の力を緩めると 前に回って真っ直ぐ見つめてくる 「今度俺んちで鍋作ってくれる?」 返事をする前に桜が視界から消えた pic.twitter.com/8EwiQOJdtn

2015-03-31 21:41:39
拡大