夏目房之介ＶＳくみかおる

It happens sometimes @ElementaryGard

これは１８９５年に新聞連載が始まった人気漫画の主人公。最初はその他大勢のひとりでしたが。これの作者さんがふと思いついた。このガキを著作物として俺が登録してしまえば、新聞社が他の漫画家にこのシリーズを描かせることができなくなるじゃんか、と。

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当時あったんですよ。この作者さんは量産が効かないので、新聞社（正しくは通信社）側が他の漫画家さんに代筆させたことが。それに作者さんはかちんときた。

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登録申請してみた。むろん通らなかった。タモさんを著作物として登録するのと同じで「そんな拡大解釈できるかばかもん」だった。タモさんの肖像写真を登録するのならできた。 pic.twitter.com/23lxnjEOTH

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あ、著作物登録とはアメリカ独自の法制です。登録しなくても著作権は発生するのが世界スタンダード。アメリカはこのやり方をとっていなくて、四コマまんがでもいちいち登録しないと著作権法で守ってもらえなかった。

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タモさんそのひとを著作物にはできない。そのかわり民法が認める人格権があるから、タモさんの偽者を使って商売はできない。つまり実質的に「タモリは特許である」といえる。

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まんがやアニメやゲームの登場人物（動物でもなんでもいいんですが）はそうはいかない。そこを強引に解釈して「キャラクターは特許である」と読み替えた。今では世界スタンダードですがもとはアメリカ独自の発想。

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ミッキーマウスが世界進出するなか、ディズニー社は各国で裁判も辞さず海賊商品業者を吊し上げていった。こうして「キャラクターは特許である」思想が各国に伝播し、葛藤を起こしながらも根付いていった。

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『フジ丸』に話を戻します。１９６５年当時の東映は、ここまで深く考えていなかったのでしょう。また白土もやはりよくわかっていなかった。だから「オリジナルストーリーになったんで原作者として指名表示するの止めにしたいんですが先生いかがでしょう」「うんいいよ」で終わった。

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今だったら白土は黙っていないでしょう。「いくらオリジナルストーリーになったといっても、フジ丸というキャラクターは俺が作ってやったんじゃないかアニメ用に」と。

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あ、今思い出した。夏目さんに耳打ちした生徒さんは「『風のフジ丸』のまんがはたしかにあるけど、これはテレビアニメのコミカライズ版だそうです」と言ってたのでした。これ。 pic.twitter.com/NElMmuPNP4

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絵は久松文雄。この方は他にもテレビアニメのコミカライズをいくつか手がけています。で、この生徒さん（ちなみに中国からの留学生でした）の指摘を受けて夏目さんは自説を裏付けるものと受け取ったようでした。「これ（アニメ）は白土の絵じゃないよ」というアレ。

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夏目さんそれ違うって！

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実際にやり取りして彼の洞察力には何度も驚かされたのですが、ときどき間違った方向に洞察してしまうのです。やっかいなことにそれで一見すべて説明がついてしまうんですよ。納得させられてしまう。私ですら信じてしまいそうなほど。

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「キャラクターは特許である」という考え方が『フジ丸』当時の日本には根付いていなかった、と私は解釈したい。もし根付いていれば東映と白土のあいだで衝突があったと思います。つまり白土先生は退かなかったでしょう。

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しかしながら当時の東映も白土も、例えば大佛次郎の小説『鞍馬天狗』を映画化する際の手続きの延長で『フジ丸』を考えた。日本の著作権法は今も昔もヨーロッパ準拠。一方で「キャラクターは特許である」思想はアメリカ式なのです。

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ああ、それから日本の「仁義」の思想もありますね。日本、ヨーロッパ、アメリカ三者の考え方が入り混じったところに、白土を外したこの逸話があるのだと考えます。

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なぜこんなトリヴィアなできごとにここまで私が執着するのか？物理学史をいろいろまたかじるうちに、何か火が付いたんです。

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ボーアＶＳアインシュタイン論争。詳しくは検索でどうぞ。東西両横綱が公けの場で決闘した。ボーアが勝ったとされてきましたが、近年の説では、実はアインシュタインのほうが理があったといわれています。

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詳しくは「小澤の不等式」で検索。

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ハイゼンベルクの不確定性原理の式は実は正しくなくて、それを日本のある物理学者が正した。それが小澤の不等式。これを使うと、ボーアＶＳアインシュタイン対決を新たな視点から眺められる。

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夏目房之介ＶＳくみかおる論争は、どうなったんだっけ。あやふやなまま終わった覚えがあります。それでもずっと私の中にしこりが残っています。いえ彼へのネガティヴな感情の類ではなく、何か腑に落ちないのです。

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「キャラクターは特許である」がアメリカ発祥だとすれば、あのときのやり取りに新たな解が見つかる。

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質問者も夏目教授も、そこまで考えて質問したのではないと思います。いわゆる素朴な疑問だった。ただ素朴な疑問のなかには、とんでもない突破口が潜んでいることもあるから「愚問ですね」と切り捨てることが自分にはできなかった。

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「キャラクター」はどういう法律で守られるのか。実はそこはとばして話したんですよ私。とてもいりくんだ法理論の話に突入してしまうから。だからこそ「キャラクター」ではなく「商品化権」の話をした。