人事部村上の仕事納め

hikari∞短めのお話 @love_suzume

1. 「村上さん、納会行かないんすか？」 後輩に声かけられてハッとする。 だいたい仕事納めのこの時期、人事めっちゃ忙しいねんて。 しかもよりによって来年度の新卒採用の責任者になってもーた。 説明会の準備だインターンだって...。 やること多過ぎてジョーダン抜きで死にそう。

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2. 顔上げると誰もおらんくて、みんな会場の、同じビルの上の方にある外資系ホテルに向かったみたいだった。 仕事山積みのこの状況で、フツーなら行かんけど。 納会の仕切りは総務で、今年、顔見れるとしたら多分今日が最後やから...。

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3. あのめくるめく出来事は夢やったんちゃうかってくらい、彼女とは見事に何もない。 あの日、あの後...。 一緒に沖縄料理屋に行った。 もちろん俺は、このまま、この後、そーゆーつもりってゆーか、下心ありありで、やたら酒勧めたりして。

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4. 彼女は...。 嬉しそうに海ぶどうを食べて、俺が選んだ泡盛の水割りを飲んでて。 これ入れたらうまいからって、テーブルの上にあったシークァーサーの果汁入れてやった。 「うわぁ、おいしぃ」 飲み過ぎちゃいそう。 そう言って、困ったように笑って...。

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5. めっちゃきゅんときた。 前からちょっとええなぁとか、かわいいなぁとは思ってたけど。 あんなことした後は、あわよくばこのまま...ってことしか頭んなかってんけど。 根がど単純な俺は、完全に惚れてしまった...みたいで...。

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6. だって、こんままうまいこと口説き落としてホテル行ったとして...。 めっちゃイメージ悪いやんか。 遊んでる感じやん。 軽いやつみたいやん。 初めてかもしれない。 好き、が、ヤりたい、に勝ったの。

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7. 銀座線の改札まで送ってった。 彼女は少し酔ってんのか、いつも以上にぽわーんとした感じで...。 「あの...もし良かったらまた...またっていうか、これから、たまにメシとか行きませんか？」 「じゃあ、今度は秋田の...きりたんぽ！にしましょー？」

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8. 思いっきりぽわーんとした酔っぱらいのテンションでそう言われた。 で、連絡先だけ交換して...。 「おやすみなさい」 そう言って、改札の向こうに消えてった。 ............。 おやすみなさい♡って...ええなぁ...。

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9. お疲れさま、じゃなくって、おやすみなさい♡やもん。 のん気なこと考えてた。 こん時は。 そっからは、俺的には仕切り直しのつもりで。 なんて、そんな悠長なこと思ってるうちに、怒涛のように忙しくなってもーて...。 結局何もないってオチ。

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10. やっぱあの日、ホテル行っときゃよかったわ。 下手に紳士ぶったりしてアホちゃうか、俺。 もちろん、社内ですれ違ったら挨拶くらいはするけど、そもそも総務と人事はフロアちゃうし...。 ってのは言い訳で。 一度、見てもーてんもん。 社食で、彼女が、男と一緒におるとこ。

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11. 多分営業の、なかなか男前のヤツとふたりでメシ食っててん。 彼女はお弁当持ってきてて、男は麻婆豆腐定食食ってた。 んで、男が定食のデザートのちっこい杏仁豆腐を彼女に手渡した。 「いいの？ありがとう」 嬉しそうに笑って...。 俺に気づいて、会釈した。

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12. その微妙な表情の変化がショックやってん。 ほんまの笑顔と、作り笑顔の差？ わからんけど。 冷静に考えてみれば、彼氏おらんなんて言うてないもんな。 あのときだって、図らずも俺が...なんとゆーか...反応...？してしまったから責任感じて処理してくれただけで...。

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13. 飲みに行ったのだって仕事の打ち上げやったら別に深い意味ないやろし、きりたんぽ食べましょうって言ったときは酔ってたし...。 舞い上がってたん俺だけやった？ もう、めっちゃネガティブなるわ。 ......。 男と社食におっただけやのに。 だいぶ重症やぞコレ...。

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14. エレベーター乗ってぼーっと今までのそんなこんなを思い出してると、ひとつ上の階で婦人警官...のかっこした彼女が乗ってきた。 「あ...お疲れさまです。村上さん」 すぐに俺に気づいて、おどけた感じで敬礼する。 「......え、何してんすかそれ？」

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15. 「忘れものしちゃって、取りに...」 「いやいや...ちゃうくて、その...かっこ」 「今年受付なんです。じゃんけん負けちゃって」 恥ずかしそうに笑う。 うちの会社はキックオフとか社員総会とか納会とか、社内のイベントで司会とか受付がコスプレする風習があって...。

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16. くだらないと思っててんけど...今日は...感謝。 正直、めっちゃかわいい...。 かわいいってか、エロい...。 脚キレイやなぁ...。 変な気持ちのまま、会場まで案内された。 「ごめんね、お待たせ」 受付におったのはこないだ社食で一緒やった麻婆豆腐男。

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17. 「全然ええよー。もう平気？」 男は俺に会釈する。 こいつ...営業の丸山...は、3年前の中途入社組で、SPIの成績は足切りスレスレだったくせに、驚異のコミュ力で重役面接を次々突破して、研修のあとすぐに福岡支社に配属された。

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18. 商談中に一発ギャグをかましてすべり散らかすって謎の営業スタイルで大口クライアントを何個もゲットして、営業成績は3期連続目標達成率120%越え。 んで、秋からまた本社勤務。 ...通称ミラクル丸山。 調べたったわ。 人事なめんなよ。 んで...どーゆー関係？

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19. 「あれ！村上さん！？俺、覚えてます？昔、なんかのセミナーのグループワークで隣のグループで！」 覚えてるわけないやろ、隣のグループなんか...。 勝手にテンション上がってる丸山を見て、彼女は俺に「すみません」って言った。 何やねん...。 何その、身内な感じ...。

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20. 3年前の中途って、書類通したの多分俺やけど、落としといたらよかったわ。 「中でビンゴやってます」ってカード渡されて、笑顔でふたりに送り出された。 付き合ってんのかなぁ...。 でも、彼氏おんのにあんなことするか？普通...。

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21. 頭ん中そればっかで、気づいたらお開きになってた。 フロアに戻って仕事の続き、と思ったけど、全然集中出来んくて。 もーええわ。 帰ろ。 休日出勤でもなんでもしたるわ。 立ち上がったら、ケータイがないことに気づいた。 全く俺は、この年の瀬に何をしとんんねん...。

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22. 慌ててホテルの宴会場に戻ると、会場は大方撤収が終わった後で。 忘れものは隣の部屋にまとめてありますって総務のお局に言われた。 隣の小部屋でスマホを発見してホッとしてると。 「忘れものですか？」 声が聞こえて振り返れば、笑顔のミニスカポリス。

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23. 「いかがですか？お時間あれば」 さっきの納会のあまりらしい、プレミアムモルツを手渡してくれた。 コツンて缶をぶつけて乾杯する。 「...お疲れさんです。大変ですね、最終日やのに...」 「いえいえ、大したことしてませんから」

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24. 部屋の中は椅子とテーブルが積み上がってて、彼女はそれの強度を確かめてから寄っかかった。 キレイな脚が目に入って、視線を逸らす。 だって、こんな小部屋にふたりっきりって...。 どーやったって思い出すやんか。 あの日のこと...。

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25. 「今年ももう終わりですねぇ」 「...そうですねぇ...」 ムラついてる場合ちゃうわ。 確かめなあかんことあんねん。 「さっき一緒におった、営業の...」 「丸山、さん...？がどうかしました？」 「ん、仲ええんやなぁと思って」 「仲いい...どうでしょう...」