ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((フラットな理想世界です)))アガメムノンの声が調律されたニューロンに響いた。(((無力で愚かなモータルには、今の世界は複雑すぎる)))整然とした秩序と平和の世界。抑圧と監視。暗がり全てを漢字サーチライトが照らす逃げ場なしの世界。システムの犠牲者が悲鳴すら上げられぬ世界。44

2015-05-11 23:53:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……途中から何か刺々しいノイズが混じった。それはアガメムノンの言葉ではない。アマクダリの思想でもない。どこから来た?『先行し、攻撃目標を探す』シャドウドラゴンは再び唸ると、作戦目標を求めて再び輸送ヘリから飛び降り滑空した。濁った空を飛翔する。彼の内側には嵐が吹き荒れていた。 45

2015-05-12 00:03:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((見ろ!漂白された世界ができあがるぞ!いびつで美しいものが存在できない、凡庸な世界が……!)))そのノイズは内側から聞こえてきた。シャドウドラゴンは己が構築者として組み込まれた巨大な暗黒秩序世界を、上空から俯瞰していた。(((異端者を囲んで棒で叩くだけの世界だ……!)))46

2015-05-12 00:13:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((……この世界は失敗作です)))神の如き声が響く。(((間違いは元通り正されねばなりません。我々は秩序の執行者……)))「ARRRRRRRGH!」シャドウドラゴンは頭を振り、内なるノイズを消す。高層ビル街の間を飛翔する。舞い上がった「忍」「殺」フラッグが視界を横切った。 47

2015-05-12 00:21:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

強大なカラテが漲る禍々しい文字。影の竜はそれを鈎爪で切り裂く。次いでレディオの声が強まる。(((……システムに……抑圧された場所へ……!)))「ARRRGH!」その光も苛立たしげに振り払う!『任務継続。新たな電波中継車を捕捉』遥か前方にハイウェイ。点のように小さなモノバイク。48

2015-05-12 00:31:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は新たな攻撃目標の一個めがけ、無感情に滑空を始めた。滅びの先触れめいた暗黒の翼を広げて。世界は死んだように声を潜めていた。彼は左右の高層ビル屋上に物言わず立つ過去の幻影を見た。ブラックドラゴン。パープルタコ。ダークニンジャ。ヨモギ。家族。彼らはひとりずつ現れ、消えていった。49

2015-05-12 00:41:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

最後に前方高層ビルの屋上に現れたのは、学生服を着てカタナをさしたハイスクール時代の己自身、ナブナガ・レイジの幻影そのものであった。シャドウドラゴンはそれを斜め上空から一瞥し、目が合った。すれ違いざま、過去の幻影は、己自身を糾弾するかのように、侮蔑と怒りの眼差しを投げた。 50

2015-05-12 00:50:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイデッカー、しつこい……!」ユンコは後方からの追跡をかわすべく、改造モノバイクを加速させた。直後『重点』『重点』『ニンジャソウル検知』『アブナイ』UNIX視界に戯画じみたカエルAIアドバイザが現れ、何個もの警句を表示。彼女のボディに備わったオムラの遺産が危険を告げていた。51

2015-05-12 00:58:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユンコは斜め上空を見た。黒く小さな嵐のごとき物体が、凄まじい勢いで旋回滑空してきていた。「ヤバイ……あいつは!」ユンコの右サイバネ・アイに『戦闘用』の文字が浮かび上がった。左胸の奥でモーター回路が回転を始めた。『迎撃』『ライフル展開な済』『ロックオンです』『AA装備に不足』 52

2015-05-12 01:03:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サイバネアイの赤い∴型ロックオン光が敵を捕捉。戦闘用AIを信じ、右腕をハンドルから離し窓の外へ向ける。「ファック!間に合え!生き残るんだ!」ユンコの右腕が内側から開き、仕込みアサルトライフルを展開。もどかしいほどに遅い。影の竜はもうすぐそこに迫り、無慈悲な鈎爪を構えていた。 53

2015-05-12 01:10:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウドラゴンもまた、∴照準光と視線を交差させ、攻撃目標の正体に気づいていた。ユンコ・スズキ。既知の敵。スズキ・マトリックス理論を搭載した戦闘用ドロイド。セクトの敵。秩序を乱すノイズ。……ノイズ!(((……噫!俺よ!俺の魂よ!恐れるな!これが最後のチャンスだぞ!)))  54

2015-05-12 01:20:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

迎撃が間に合わない。ユンコは直撃を覚悟した。……だが直前、影の竜はハイクを詠んだ。自らの意志で滑空角度を変えると、モノバイクの背後をかすめ、自殺的速度でハイウェイへと墜落。泥の塊めいて跳ね転がり、側壁に激突粉砕。影の竜は高架下にガレキを撒き散らしながら爆ぜるように消滅した。 55

2015-05-12 01:30:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

事態を理解できず、ユンコは反対側後方へと頭を向け、目を大きく見開いた。驚きで口を開けて叫びながら、影の破片が遠ざかってゆくのを見た。まるで巨大な黒い鈎爪が、ハイウェイを切り裂いたかのようだった。彼女を追っていたハイデッカー車両部隊は、その爪痕の前で緊急停車し立ち往生していた。56

2015-05-12 01:38:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが息つく暇などない。彼方からは、アクシスの高速輸送ヘリ編隊が迫っていた。UNIX視界の目的地矢印が動く。ャー都会カルチが近い。ユンコは展開していた仕込みアサルトライフルを収納すると、なおモノバイクの速度を上げ、車両列の間を縫うように走り、インターチェンジへと降りていった。 57

2015-05-12 01:50:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……高架下の暗いスラム街。百メートル上方のハイウェイから突如降り注いだガレキ山の周辺には、死の静寂が満ちていた。 59

2015-05-12 01:59:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエ……?」「ペケロッパ……?」粉塵が収まる頃、薄汚いローブを着たテクノ・スカベンジャーたちが、恐る恐る集ってきた。一人が天を仰ぎ、ゆらゆらと舞い落ちて消える影の破片を不思議そうに見た。ハイウェイ側からサーチライトが投光されると、彼らは怯えて一斉に暗がりへと消えた。 60

2015-05-12 02:03:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見当たりません」「違法改造モノバイクから対空銃撃を受けました」「墜落し粉々に砕け散ったと思います」「IRC応答ありません」サイバー双眼鏡で執拗に地表をスキャニングしながら、ハイデッカー部隊はアマクダリへIRC報告。『バカな!ニンジャがその程度で撃墜されるものか!』返信。 61

2015-05-12 02:12:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて投光は止み、ハイデッカー車両部隊は新たに設定された封鎖ポイントへと急いだ。ザリザリザリ……ノイズ混じりの司令無線音が、ガレキの中で鳴った。アマクダリは次第に、探索の格子を狭めている。ハイデッカーの報告に基づき、ストリート監視カメラがモノバイクの走行経路を分析し始めた。 62

2015-05-12 02:21:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

再び静寂と闇が訪れると、ハカバじみて盛り上がったガレキの中から、鈎爪の如く強張った手が突き出した。そして血みどろのシャドウウィーヴが、苦しげに呻きながら身をもたげた。その腕は細く、瓦礫を払い除けるのも困難だった。強大な竜の鎧は、フード付きのニンジャ装束に変わっていた。 63

2015-05-12 02:30:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……冥府の王/漆黒の腕/心なき墓!」長いくびきから解き放たれたシャドウウィーヴは、ガレキを踏みしめながら歩き、己の存在を刻み付けるように、胸いっぱいに空気を吸って吐き出すように、暗いハイクを叫び続けた。そうせずにはいられなかった。「影の外套/纏いて隠し/呪い抱えて……」 64

2015-05-12 02:46:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

胸には再び暗黒の炎が燃えていた。「…呪い抱えて進め!/進め!/いざ進め!」彼は己のハイクを冷笑し消し去ろうとする者たちを許すつもりは無かった。欺瞞世界のために己を使役せんとする者を許すつもりはなかった。そしてもう二度と己の言葉を裏切るまいと誓った。「忌々しき太陽に弓を引け!」65

2015-05-12 02:55:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……噫!どこにも理想世界など無かった!」物理肉体は再び、暗い躍動を感じ始めた。「いや、俺の中にだけある!他の誰の中にも無いのだ!」その足は次第に速度を増し、ニンジャの速度で走り始めた。また高く、高く跳躍した。激しい痛みに耐えながら、シャドウウィーヴは怒りに燃え、笑っていた。66

2015-05-12 03:06:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウウィーヴは駆けた。セクトに報復するために、いま己が何を為すべきかは、もう解っていた。彼女を助け、逃がすのだ。今度こそ失敗しない。アマクダリを滅びへと導くデータを……世界の基盤を揺るがす秘密を、サイバーゴスの皇女はその脳内記憶領域にダウンロードしなければならない……! 67

2015-05-12 03:18:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ】#1終わり #2へ続く

2015-05-12 03:19:44