《空に手を》

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《空に手を》side-A 239 腕ん中で暴れてんのをぎゅっとしたらおとなしくなって、肩に頭を乗せてきた。 暫定でもなんでも、帰ってくるとこが俺になるんやったらそれでええわ。 少し、体を離して見つめ合って。 はー。 やっぱ、アホみたいにかわいい顔してんねんなぁ...。

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《空に手を》side-A 240 そのままじーっと顔見てたら、照れてうつむいたから、もーあかん。 ...外やけど。 ちらほら人もおるけど。 「や、ちょっと...待っ...」 下からすくい上げて、キスした。 芝居じゃない、なんの設定もない、ほんとの彼女と。

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《空に手を》side-A 241 出発は明日やって言うから、マンションの前まで送ってった。 ほんまはもちろん、連れて帰りたかったけど。 しばらく会われへんなぁって思うと名残惜しくて、なかなか離れられんくて。 彼女はそんな俺を見て、元気よく言う。

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《空に手を》side-A 242 「スペインで、私にしかできない仕事、してきます。渋谷すばるさんみたいに」 なんか...。 そんなん言われたん、初めてやし...。 ...めっちゃ嬉しい...。 「...気ぃつけて...な」 「渋谷すばるさんも、帰り道気をつけて」

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《空に手を》side-A 243 「............あのさ」 「はい？」 「前からめっちゃ気になっててんけど」 彼女は不思議そうな顔で。 「何でフルネーム呼びなん？」 「キレイな名前だから。ダメですか？」 いや、別にダメちゃうけど...。

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《空に手を》side-A 244 なんか...距離感じるやんか...。 「渋谷さん？すばるくん？すばるさん？あ、すーくんとか？」 わー変な感じーって笑ってて、なんか悔しくなる。 やっぱ全然、俺のほーがむっちゃ好きやねんなぁ。

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《空に手を》side-A 245 「すばる」 いきなり、そう呼ばれて。 恥ずかしそーに、にこーっと笑って...。 ふわり。 いつかと同じ甘い香りがして、唇の横に柔らかいもんが触れた。 「おやすみなさい」

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《空に手を》side-A 246 気づけばコーヒーはすっかり冷めてた。 今さらやけど、完っ全に堕ちてるな、俺。 すがすがしいくらい。 心身共に、ふにゃふにゃに溶けてる気がする。 もう、プライドとかないもん。 絶対、すぐ俺とおんなじくらい好きにさせたるわ...。

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《空に手を》side-A 247 “好きなひとがいるって、ハッピーじゃん” ってあいつが言うてたんやったっけ。 今なら分かる。 彼女を想うとき。 恋しい。 愛おしい。 切ない。 会いたい。 抱きしめたい。

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《空に手を》side-A 248 ありふれた言葉が、急にリアルな形を持って降り注いで、飽きるほど歌ったはずの愛の歌が、新しい色で聞こえた。 なんか、根拠ないけど自信あんねん。 きっと、最高にハッピーな恋になる。

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《空に手を》side-A 249 もしもひとつだけ願いが叶うとしたら？ って、前に聞かれた雑誌のアレ。 叶ってもーたなぁ...。 さすがにこれ以上は願いごとできんな。 ほんまにバチ当たりそうで。

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《空に手を》side-A 250 窓から見える四角い空に、ふと手を伸ばした。 空の下、ちゃんと繋がってる。 今日の、俺の、嬉しいこと。