「ハンター・インストラクション」

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「迎え撃って！」由良は14cm単装砲を構え、クロスレンジでの砲雷撃戦に備える！此処から先は艦娘の世界。カラテの世界だ！吹雪は己のニューロンがブーストされ、体感時間が泥のように遅くなるのを感じた。(まず、カラテにエゴを籠めろ)脳内に、インストラクションがリカルドの声で響く。 22

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

チ級がこちらに迫る。由良がこちらのフォローに入ろうとする。「スゥーッ…ハァーッ…」吹雪は調息した。雑音がほぼ消える。(呼吸を忘れるな。呼吸の忘却は均衡の忘却。焦った奴から死ぬ)吹雪は水雷カラテを構え、チ級を見据える。焦りはない。対処せよ。「イヤーッ！」吹雪はチ級へ向け突撃！ 22

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

KBAM！KBAM！チ級が5インチ単装高角砲で吹雪を狙い撃つ！吹雪はハチドリめいた滑走回避で避ける！「イヤーッ！」そして両者クロスレンジ突入！「イヤーッ！」「ARGH！」突撃の勢いを殺さず、吹雪は自身を狙う5インチ単装高角砲を蹴り払う！チ級は反撃として頭突きを繰り出す！ 23

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ！」「ARGH！？」吹雪は先程とは逆の足でチ級の頭を踏み、跳び離れる！「イヤーッ！」飛び離れると同時に、出遅れた由良の14cm単装砲が砲火を噴く！KBAM！「ARGH！」チ級のフロートユニットに砲弾が突き刺さり、破損個所が炎上する！小破だ！ 24

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

チ級は由良の14cm単装砲を危険と判断し、5インチ単装高角砲の照準を由良へと向ける。その様子を見た吹雪の中で再びインストラクションが響く。(敵を観察せよ。敵もまたお前と同じ一つの存在なら、思考し、行動に隙が出る) 吹雪は観察し、気付く。チ級は、吹雪を注視していない！ ウカツ！25

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

チ級の後方に着地した吹雪は、直ぐ様反転し、チ級へと再突撃！連装砲を左手に移し、右手でチョップ突きを繰り出した！チ級は慌てて振り向くが、遅い！「イヤーッ！」「ARRRGH！？」吹雪のチョップ突きは真っ直ぐと、チ級の仮面に穿たれた穴へ、即ち左目に突き刺さる！吹雪は素早く離れる！ 26

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ARRRRGH！」チ級は潰れた左目からコールタールめいた青黒い血をまき散らし、闇雲に周囲を撃つ！(狙いをつけていない？)吹雪は砲撃を回避し、高速思考する。(まさか、目で見て狙ってる？)吹雪は己の仮説を証明するために、三度突撃する！「イヤーッ！」 27

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、おお見よ！チ級の目は既に再生している！KBAM！狙い澄ました砲撃が吹雪を狙う！「イヤーッ！」咄嗟にハチドリ機動回避！だが、連装砲に砲弾が接触し、手から吹き飛ぶ！「吹雪さん！」由良が叫ぶ！武器を失うのは痛手だ！ましてニュービーならば！だが吹雪は突撃をやめない！ 28

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「スゥーッ！ハァーッ！」吹雪は努めて呼吸を整える。(いけるだろうか？)吹雪は一瞬逡巡する。だが迷いは一瞬！三度のクロスレンジ！「イヤーッ！」「AGRRRRRH！？」交差は一瞬！吹雪はイアイめいてチョップを高速で振るった。チョップは寸分違わずチ級の首に命中し、頭部を切断した！ 29

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

チ級の頭が宙を舞い、残った体が吹雪を狙おうとする。(トドメのタイミングを読み違えるな。間違えた奴の4割は逆転されて死ぬ)吹雪は既に射線上に居ない！だが、頭を失ったチ級はそれに気が付かず撃ち続ける！KBAM！KBAM！KBAM！ 30

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は側面を取り、魚雷発射管を起動した。只のカラテで深海棲艦を始末することはできない。深海棲艦を祓えしは、艤装のみ！吹雪は魚雷を、放つ！「イイイイヤアアアアアーッ！」魚雷は寸分違わずチ級に迫り、そして！KDOOOOOM！命中！轟沈！ゴウランガ！ 31

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

同時刻、加古と那珂の奮闘により、ル級が爆発四散！残敵も白雪と由良に掃討され、海は再び静寂を取り戻した。「あぁ…終わったぁ…」戦闘時の覇気が嘘のような死んだような声で、加古が戦闘終了を告げる。「さっさと帰って寝よう…」「MVPはぁ、もちろん那珂ちゃんだよね？」「知らん」 32

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

艦隊は近隣へ待機している艦娘母艦へと向けて進み出した。「お疲れ様」由良は吹雪に声を掛ける。「あ、お疲れ様です」吹雪は会釈した。「ニュービーとしては、中々だったわ」由良は朗らかに会話を進める。「私、直ぐ追い抜かれちゃうかも」「そんな、まだまだですよ」吹雪は謙遜した。 33

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そんな二人の会話を眺めつつ、白雪は険しい表情で沈黙思考する。(何たるカラテ…あれ程動けるのがニュービー？そんな馬鹿な)白雪はふと、こちらに向けられている別の視線に気が付いた。那珂だ。能面めいた表情を感じない目が、吹雪を捉えている。 34

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

那珂がこういった反応をするのは稀だ。彼女は艦隊のアイドルを自称し、事実アイドルめいた人気を持つ実力のある少女だ。しかしてその実態は、カラテ強者集団・川内型三姉妹の末妹。カラテ力量では、姉二人に勝るとも劣らぬ猛者である。那珂の瞳から笑顔が消えるのは、カラテ強者を見る時のみだ。 35

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

白雪の疑念は強まる。那珂が注視するということは、力量は確かだということだ。(確か？高々1か月のニュービーが？)白雪は戦慄すら覚えた。何より、クロスレンジ下で目潰しと首狩りを選択できるその精神に。(リカルド…あの男、一体何を教えた？そして…)白雪は空を仰いだ。 36

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

(戦場であそこまでカラテを冷静に選択できる…あの少女は、“吹雪”は、何なんだ！)空は不気味なまでに青く澄んでいた。底知れぬ吹雪の未来の可能性を暗示するかのように。 37

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ハンター・インストラクション」＃１ おわり　＃２ へ続く

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

0101010101010101010101

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

◇K@R@TE Entertainment◇

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

霧の濃い山道。(ああ、またこれか)そう認識した時、吹雪は不快感を感じた。夢だ。それも、悪夢の類。白い木綿の寝間着姿で、何処とも知れぬ霧の濃い参道をふらふらと歩く。やがて、切り立った崖に辿り着くと、そのまま躊躇なく身を投げ… 1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「嗚呼」気が付けば、寝台の上で目を見開いていた。顔を顰め、吹雪は体を起こす。寝汗が酷い。あの夢を見るといつもこうであった。窓を見やれば、丁度太陽が顔を出すかどうかの瀬戸際であった。吹雪は寝台から這い出て、寮室の戸を静かに開けた。顔を洗いたかった。 2

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

自身の寝泊りする寮の共用洗面所へ辿りつき、蛇口を捻る。冷たい水が止めどなく流れ出す。吹雪は手で水を受け止め、じゃぶじゃぶと乱暴に顔を洗った。「……」備え付けの鏡に映る自分の顔を眺め、吹雪は思案する。あれは、記憶を失う前の、恐らく“吹雪”に憑依される前の記憶。自殺の記憶。 3

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

“吹雪”となる前の自分が何故自殺を選択したのか。今の彼女はそれを知るつもりはない。自殺を選択した少女は死んだ。ここにいるのは、吹雪型一番艦の艦娘・吹雪だ。少なくとも、吹雪自身はそう思っていた。 4