「ゴースト・オブ・ノン・ユークリッド・ジオメトリー」

海を守るそれは、神か。悪魔か。それとも…
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#1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

◇与太話投稿行為◇ ◇望まねばミュート◇ ◇今回少々身内ネタ有◇

2015-08-11 16:10:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

男は気が付けば黒い海を漂っていた。呻く。腹部が痛む。脚の感覚が無い。軋む体を強い、起き上がるように見れば臍から下が千切れて無くなっていた。流血が海を赤く、そして黒く染める。男は考えようとした。何が起こったのかを。そして思い出す。愛しき自分の部下たちの事を。「大鳳!」名を呼ぶ。 1

2015-08-11 16:15:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

血反吐と共に吐き出された言葉はしかし、空しく虚空に響くばかりであった。「誰か居ないのか…霧島!夕立!時雨!北上!大井!」消えんとする弱弱しい命の灯を削り、男は叫び続ける。だが、答える者はいない。やがて、男の傍に何かの断片めいた鉄板が流れてきた。男はそれにしがみ付き、海を見た。 2

2015-08-11 16:20:03
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

男は後悔した。見渡す限りの景色には、骸の群れと船の残骸が浮かぶばかりであった。この鉄板もそうだ。ふと男は己がしがみつく鉄板に文字を認めた。「鎮守府所属」「ラバウル基地」の極太ミンチョ体の威圧的ショドー。男は思い出した。これは己の船だと。そして、近くに骸が流れてきた。 3

2015-08-11 16:23:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……ッ!」男は声にならぬ悲鳴を上げた。血に汚れ、半身が原形を留めていない骸であったが、それが誰なのか、男には分かってしまった。「…大鳳」男は絞り出すようにそう言った。大鳳の骸は、死んだマグロめいた目で男を見ていた。やがて、骸は流されて行く。DOOOM…遠くに砲音が響く。 4

2015-08-11 16:29:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

DOOOM…DOOOM…砲音が脳裏に煩く響く。男は全てを思い出していた。作戦行動中、味方に後ろから集中砲火を受けたことを!「タカ派の奴等…!」男の脳裏に、旧軍上がりのタカ派達の姿が過った。「我々の使命は…この海を、守ることのはずだ!奴等!奴等ァーッ!」 5

2015-08-11 16:31:30
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

男は吼えた。無念のあまりに。風前の灯火の命。だが、男は何の因果か、数奇な運命を引き寄せた。((我が因子を持つ定命の人よ…))「何だ…」声が聞こえた。男は周囲を見た。誰も居ない。((目覚めよ…使命を…))声は、男の脳裏から聞こえてきた。「幻聴か…?」男はそう思おうとした。 6

2015-08-11 16:37:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、幻聴と呼ぶにはそれは、余りに生々しく、そして恐ろしかった。((答えよ…我はクロノス…))「何を、しろと」男は声に応えた。((歪みを正せ…我は管理者…汝は代行者…))「歪み…」男は思った。死ぬならば、この幻聴に従ってやろうと。そして見た。傍に深海棲艦の骸が流れてくるのを。 7

2015-08-11 16:41:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

男は骸を掴んだ。死に行く人間とは思えぬ力強さで。((力を与えよう…そして為せ))「世界を」「『正すべし!』」男の声と幻聴が重なる。そして男は、自らの意志で引き上げた深海棲艦の骸を、食い千切った。男の周囲を、超自然的な風が吹き荒れた。男の体が浮き、周囲の骸が肉塊となり集う。 8

2015-08-11 16:46:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「人として正しきを為せぬなら、俺は深海棲艦になろう」青黒い血と白い肉を口から零し、男は笑った。それが、人としての最後の言葉であった。肉塊が男を包み込む!風が集まり嵐となる!「AGRRRRRRR!!!!」嵐の中、この世のものとは思えぬ絶叫が轟く。肉塊の中から巨大な主砲が伸びる! 9

2015-08-11 16:48:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

KA-DOOOOM!口径46センチはあろうかという主砲が、砲音を轟かす。KA-BOOOOOM!数秒で、遠くに見えた船が沈んだ。それは、男と男の艦娘を撃った船だ。やがて肉塊は収縮し、人の像を成す。紅く禍々しいソウル・エンハンスメント光。銀の髪。赤い瞳。肉体を覆う包帯と鎖。 10

2015-08-11 16:52:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

男であった者は海に降り立った。こちらに向かってくる艦娘が見えた。先程撃沈した船の護衛か。「コノ海ニ近ヅク者…排除スル」ぎこちない声で呟き、深海棲艦は艦娘に向き直った。そしてオジギをし、アイサツをした。世界に己の名を誇示するかのように。「ドーモ。ハジメマシテ。亡霊戦鬼デス」 11

2015-08-11 16:55:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

…鎮守府の資料には、こう残されている。ラバウル所属の提督「祭零次」少将と横須賀所属の提督「坂口鷹彦」大将が大規模作戦中に乗船する船を撃沈され、行方不明になったと。同時に、彼らの麾下の艦娘も行方不明となり、坂口大将麾下の最後の通信データ「亡霊戦鬼」との関連を調査している。 12

2015-08-11 17:09:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ゴースト・オブ・ノン・ユークリッド・ジオメトリー」 #1

2015-08-11 17:09:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ザザーン…ザザーン…「……ア?」波が砕ける音を聞き、リカルドは意識を覚醒させた。顔を上げる。船の甲板の上だ。「何だ…」リカルドは頭を振る。周囲は霧に覆われ、判然としない。「ココは何処だ…何で俺はこんなところで…」リカルドはニューロンの中から、過去の記憶を抽出する。 14

2015-08-11 17:15:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

(確か…ラバウルまで物資輸送護衛で着いて行って…救難信号だったか?帰り際信号を探知して、で大淀達を連れて信号源に向かったんだったか…んで、その途中に深海棲艦の群れと遭遇して…甲板まで上がってくるから、俺も応戦することになって…)リカルドは自身の乗る船を見た。 15

2015-08-11 17:19:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

長距離輸送船「あもり」鹿屋の持つ艦娘運用型輸送船だ。十数名の人間の乗組員と妖精によって動かされている。(んで、迎撃して…何があった…そうだ、嵐だ。一瞬で空が暗くなったと思ったら、酷い嵐で海が荒れて、俺も甲板に叩き付けられて…)そこまで思い出し、ハッとした。「大淀や吹雪は!」 16

2015-08-11 17:24:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」その時、霧の中から影が飛び上がってきた。影は甲板上に着地し、リカルドを見た。黒と白のセーラー服。鶯茶色の瞳と茶色の髪。「吹雪…」リカルドは彼女の名を呼んだ。「ご無事でしたか」吹雪は安心したかのように返答した。「他の奴等は」「全員下に居ます」「そうか…」 17

2015-08-11 17:26:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

カンカンカンカン…リカルドが胸を撫で下ろすと同時に、甲板を小走りで駆ける音が聞こえた。「提督!」「大淀か!」走り寄る者の姿を認め、リカルドは破顔した。「ご無事ですか…」「何とかな…「あもり」の状況は」「船員、妖精共に健在です。ですが、「あもり」その物が陸に乗り上げています」 18

2015-08-11 17:40:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「座礁しちまってるのか…」リカルドは顎に手を当て唸った。「どうにか、海に戻すことは?」「現状では不可能かと」「となると救援待ちか…木乃伊取りが木乃伊になっちまったな…」「一つご報告が」「何だ?」大淀が背負った艤装を展開する。「件の救援信号、この近辺が発信源です」 19

2015-08-11 17:45:12
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「何だと」リカルドは眉を顰めた。「僥倖…いや、そもそもここは何処だ?」ハンター第六感が、リカルドに不吉を告げ続ける。「如何いたしましょうか?」大淀が問う。「全員無事なんだよな…よし、山城には船の護衛を頼むとしてあとは…」その時、一陣の突風が吹き荒び、霧を吹き飛ばした。 20

2015-08-11 17:48:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「風か…」リカルドはふと陸を見た。「ア…!?」そして驚愕する。大淀と吹雪もだ。「あもり」が乗り上げたのは、それなりの大きさの孤島であった。差して珍しくもない。その地面が、肉めいた質感を持っていなければ、だが。「何だ、こりゃ」リカルドは唖然としながらも、甲板から降りる。 21

2015-08-11 17:51:31
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