「ゴースト・オブ・ノン・ユークリッド・ジオメトリー」

海を守るそれは、神か。悪魔か。それとも…
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ウガーッ!勝てない!」日が沈みかける頃、夕立は床に寝転がったまま癇癪を起した。「うん、力量差が明らかにあるし当然だよ」時雨は呆れたように言った。「ハッハッハ!」男は愉快そうに笑う。「まぁ、筋は良かったぞ。ウン」男は夕立を立ち上がらせる。「むぅ」「そう睨むない」 25

2015-09-14 22:12:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「夕立がご迷惑をお掛けしました」「いや、楽しかったよ」男は朗らかに笑った。「また来るといい。こんなところに一人だと、人恋しい時があるからね」「絶対にリベンジするっぽい!」夕立は男を指差し宣言する。「こら、お行儀悪いよ…機会がありましたら是非」時雨は夕立を連れ、山を下りた。 26

2015-09-14 22:18:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

男はそれを見送り、ドージョーの中へと入ろうとした。ふと、男は夕焼けに染まる海を見た。静かな海であった。「ありがとう」ふと、男は呟いた。記憶はいまだ戻らない。名前すら分からない。だが、彼は生きている。生かされている。誰かに生きることを願われたことを覚えている。 27

2015-09-14 22:32:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そして、自分の命は彼らに救われたのだ。何時か、きちんと礼を言わなければならないだろう。その時は何時来るだろうか。男は思う。だが、考えても答えは出なかったため、男はドージョーの中へと消えた。 28

2015-09-14 22:38:08
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

バタンッ。リカルドは戸を閉め、外に出た。潮風と海が彼を迎える。「お疲れ様です」吹雪がリカルドを出迎えた。その右腕は包帯に覆われ、首から吊るされていた。「大丈夫でしたか」「ああ」リカルドは歩き出した。吹雪もそれに続く。「別人みたいに、いや、憑き物が落ちたみたいだったな」 30

2015-09-14 22:45:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あもり」の艦橋へ向け二人は歩き出す。亡霊戦鬼との戦闘後、島は崩壊を始めた。全員が「あもり」に向け退避したが、リカルドはその途上に於いて、力尽きた亡霊戦鬼の体を回収していた。彼自身は、飽く迄低調に埋葬するための行動であったが、体は弱弱しくも生きていた。 31

2015-09-14 22:47:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そして何よりも、亡霊戦鬼の体からはそれまでの禍々しい力を感じられなかった。吹雪とリカルドは最後に倒した黒い人型の事に思い至り、亡霊戦鬼が人間に戻った可能性に気付いた。先程、リカルドは単身目覚めた亡霊戦鬼と会話したが、亡霊戦鬼としての記憶は完全に失われていた。恐らくは力も。 32

2015-09-14 22:50:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そう言えば指令官」「どうした」「亡霊戦鬼について、何か知っていたんですか」リカルドは立ち止まり、吹雪を見た。「知っていたら、どうする?」「いえ、只の興味本位です」「そうか…何も知らんよ。何も」「そうですか」二人は再び歩き出そうとした。「痛」吹雪はリカルドの背にぶつかった。 33

2015-09-14 22:53:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「どうしたんですか」吹雪は花を擦りながらリカルドに問うた。「……」リカルドは沈黙して、立ち尽くしていた。「…?」吹雪は訝しみ、リカルドの後ろから隣へと移動し「!?」そして驚愕した。そこには、人がいた。半透明な大鳳が。「あの時の、大鳳?」リカルドは言葉を捻り出す。 34

2015-09-14 22:55:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」オバケめいた大鳳は黙して語らず。「鳥海が居たら、卒倒するかもな」リカルドは笑おうとした。だが、上手く笑えなかった。「……」大鳳は恭しくリカルド達にオジギした。「…礼のつもりか?」リカルドは問うた。大鳳は頷く。「よしてくれ」リカルドは申し訳なさそうに言った。 35

2015-09-14 22:59:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「確かにアイツは結果的には生存した。だが、何も覚えていないじゃないか。それなら、死んだと同じだろ……お前はそれでいいのか?アイツは、お前のことを覚えていないんだぞ」リカルドは言った。それだけが、彼の心にしこりめいて残っていた。「……」だが、大鳳は首を横に振った。 36

2015-09-14 23:01:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「それでも構わない、ってか…」リカルドは遣る瀬無い表情で大鳳を見た。大鳳は微笑んだ。寂しげに。不意に、一陣の風が吹いた。大鳳の姿が消える。リカルド達は海を見た。そこには、一匹の海鳥が5匹の海鳥達に合流し、どこか遠くへと飛び立とうとしていた。 37

2015-09-14 23:03:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」リカルドは、黙ってそれを見送った。「……ナムアミダブツ」吹雪は祈り、リカルドと同じように海を見た。海は、静かに凪いでいた。全てを飲み込み、受け入れ、ただ静かに。 38

2015-09-14 23:04:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ゴースト・オブ・ノン・ユークリッド・ジオメトリー」おわり

2015-09-14 23:05:13
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