「ハンター・インストラクション」

「咆哮系提督の吹雪」第3章 「戦いに必要なものを教えよう」 「エゴとは、何なんでしょう?」
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セクション1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ハンター・インストラクション」

2015-05-19 20:39:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ふぁ~あ……」欠伸を堪えず、川内は朝靄の中を歩く。昨夜の夜間作戦は大変満足のいく内容であった。僚艦達は既に己のベットの中で夢心地であろうか。川内は、未だ冷めぬ夜戦の火照りを覚ますために鹿屋基地敷地内を練り歩いた。「もっと夜戦したいなぁ」彼女は生粋の夜戦主義者である。 1

2015-05-19 20:43:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

朝靄でぼやける基地内建造群を眺め、ぼんやりと川内は自身の身の先に思いを馳せる。ここ鹿屋基地は2か月前に新設されたばかりの艦娘運用基地だ。以前から存在する鹿屋航空基地と分別するために、鹿屋艦娘基地とも呼ばれている。17番目の鎮守府施設たるこの基地は、南方戦線支援を目的とする。 2

2015-05-19 20:48:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

川内は妹達と共に佐世保から戦力として送られてきた軽巡艦娘だ。彼女ら川内型3姉妹はその全員が恐るべきカラテを秘めるカラテ強者だ。特に川内は夜間戦闘と俊敏さに優れた古の忍者の如きタツジンである。そんな彼女であるが、あと少しで妹を置いて遠く北方戦線へ向かわなければならなかった。 3

2015-05-19 20:53:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

理由は単純だ。彼女の直属の提督である楓提督が単冠湾泊地に着任することが決まったからだ。楓は川内を気遣い、鹿屋に残る選択肢を提示したが、川内はそれを良しとしなかった。妹達も自分も、そろそろ独立独歩の時だ。少なくとも川内はそう思っていた。 4

2015-05-19 20:57:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、一抹の寂しさが無いと言えば嘘になる。今生の別れでもないというのに。川内は僅かに自嘲の笑みを浮かべた。不意に、風が吹き朝靄を吹き飛ばした。川内は埠頭近くまで歩いて来た自分を認識した。水平線の向こう側から、太陽が顔を出していた。「戻って寝よ」川内は踵を返す。その時。 5

2015-05-19 21:01:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」「イヤーッ!」突如、朝焼けを切り裂かんとばかりに、カラテシャウトが轟く!「何!?夜戦!?」咄嗟に川内は柔術を構えた。そして川内の鋭敏な視力は、埠頭の先端、暁の太陽を背にカラテを振るう二人組を見つけた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」 6

2015-05-19 21:04:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

川内は視神経に精神を集中させる。二人組はジャージを着た大男と少女だ。大男は両腕に大楯めいたダミーミットを備え、少女のチョップや蹴りを受け止めていた。大男はただ攻撃を受け止めるだけではない。隙を見て裏拳めいたミット打撃や自由な脚により刈り取りに来る。少女は巧みにそれらを避ける。 7

2015-05-19 21:12:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

まるでスパーリングだ。川内はその光景に目を見張った。カラテトレーニングは艦娘の戦闘体系の一つとして組み込まれているが、ここまでカラテを磨こうとする者はそういない。砲火力と魚雷火力で十分であるからだ。故に、カラテを鍛えんとするのは余程の物好きか、極まったカラテバカだけだ。 8

2015-05-19 21:16:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りと蹴りが衝突し、カラテ斥力が僅かに大気と海を揺らす。昇り続ける太陽が二者を更に照らし、そのカラテ光景は荘厳な様相を呈し始めてきた。川内は寝室に戻るのも忘れその光景に見入った。誰とも知れぬ二人のカラテを、ニューロンに刻み付ける様に。 9

2015-05-19 21:20:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

正午、製油所地帯沿岸海域を滑るように進む5人の艦娘あり。南西海域にほど近いこの製油所地帯は鎮守府にとって重要な燃料補給地であり、それを理解していてか、時折小規模な深海棲艦群が出現することがある。故に、この製油所地帯沿岸の護衛任務は、鎮守府にとって疎かにするべきものではない。 11

2015-05-19 21:34:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

海上を進む5人の艦娘、即ち加古、那珂、由良、白雪、そして吹雪は戦艦を旗艦とする敵深海棲艦群を発見し、これを追跡していた。「眠い…」戦闘を往く加古は欠伸を噛み殺さずにぼやく。「加古ちゃん油断しすぎ~」場違いなほど明るい声で、那珂が加古を咎める。「えぇ、だってさ」 12

2015-05-19 21:39:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「だって、ではありませんよ」那珂に続き由良も加古を咎める。「的には戦艦級に加え、雷巡級や軽巡級もいると報告があります」由良は淡々と言葉を続ける。「“注意は一秒、後遺症が死ぬまで”ですよ」「分かってるって」加古は辟易したように答えた。「分かったから、取り巻きは頼むよ」 13

2015-05-19 21:43:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そんな先頭集団の会話をぼんやりと眺めつつ、吹雪は白雪と並走していた。双方の間に言葉は無い。白雪は吹雪を探るように見つめ、吹雪は脳内で戦闘シミュレーションを無言で繰り返すのみ。(敵を観察せよ…トドメを読み違えるな…百発で倒せぬからと言って一発の強さに頼るな) 14

2015-05-19 21:48:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪の脳内では、インストラクションが渦を巻き整然と整えられていく。(調息…フーリンカザン…カラテ…エゴ…)吹雪の眉が寄り、皺が形造られる。(“カラテにエゴを籠めろ”…か)「あの」「ひゃ!」唐突に声がかかる。隣の白雪からだ。「随分と思い詰めてるようですが」「だ、大丈夫です」 15

2015-05-19 21:53:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」「あ、あはは…」白雪は訝しげな視線を吹雪に送る。やがて、白雪はゆっくりと息を吐き、言った。「貴方、まだ実戦に出て数日でしょう。ですから焦らないで。焦れば最悪死にますよ」「…それは、大丈夫です」吹雪は決然と言葉を返した。「大丈夫です」もう一度、吹雪は繰り返した。 16

2015-05-19 21:57:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

白雪は吹雪をもう一度よく観察した。1か月ほど前、鹿屋基地にやってきた“鎮守府が関わらずに船魂を憑依させた艦娘”艦娘となる前の来歴が杳として知れぬ少女。押収した資料からは少なくとも自殺を試みたことしかわからない少女だ。そして、カラテの才覚目覚ましい艦娘でもあった。 17

2015-05-19 22:00:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

かの神通教官の訓練に根を上げずについて行き、更にはあの要注意人物 ・リカルドから直々にカラテ・インストラクションを受けているとされている目の前の少女。(同じ“吹雪”とは、思えませんね)白雪は脳裏に、恋い焦がれる宿毛湾の“吹雪”を思い浮かべた。 18

2015-05-19 22:02:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「電探に感!」突如、二人の物思いを切り裂くように加古の鋭い声が飛ぶ。「敵数5!噂の戦艦旗艦の奴だ!」「よーし!那珂ちゃん張り切っちゃうぞ!」「吹雪さん!白雪さん!」「「はい!」」由良の声が吹雪達にかかる。「我々は先行し敵の随伴艦を仕留めます!」「「了解!」」 19

2015-05-19 22:07:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「総員戦闘態勢!」先程とは人が変わったかのような加古の凛とした声が響く。イクサを前にして、アドレナリンが彼女のニューロンを覚醒させているのだ。そして、イクサの始まりを告げる号令がかかる!「砲雷撃戦開始!ぶっ飛ばせ!」 20

2015-05-19 22:10:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

号令と共に艦隊は二手に分かれ、由良・吹雪・白雪が先行する。眼前に確認できる敵は5隻。雷巡チ級、軽巡ヘ級、駆逐イ級2隻、そして旗艦の戦艦ル級。ル級の砲身が、先行隊に向けられる!DDOOOOM!砲弾は先行隊の後方へ落ちる!「夾叉狙いよ!足を止めないで!」由良は叫ぶ!「砲撃!」 20

2015-05-19 22:16:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

由良の言葉に従い、吹雪と白雪は12.7cm連装砲を構える!狙うは同じく先行してきたイ級2隻とチ級!KBAM!KBAM!KBAM!「ARRRRRGH!」KBOOOOM!砲弾がイ級の口蓋を穿ち、内部の弾薬に誘爆!撃沈!僚艦の撃沈を気にも留めず、チ級と残ったイ級は突撃砲撃! 21

2015-05-19 22:24:01
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