死ぬのがこわくなくなる話 その9 「SHINE会員」
>ところがなんということでしょう。私は、やっぱりこわいんです。今の私は、死にたくないのです。死んで、未来に蘇る、それが信じられなくなっているわけではありませんが。
2011-11-08 00:16:31>アーカイブに蓄積された私のデータは、私の生活パターンそのものです。つまり私は、私をスムーズに殺害するためのデータを、SHINEに提供しているということなんです。各種カードや登録サイトのパスワード、合い鍵、日課や癖など、など。これらを使えば、私を殺すことは簡単です。
2011-11-08 00:17:37>例えばこんなことがありました。母親がキッチンに用意してくれていた昼食のサンドイッチを自室に持ち込み食べている時でした。何個目かを口にした瞬間、私は吐き出しました。ピーナッツバターのサンドが、紛れ込んでいたのです。
2011-11-08 00:35:29>私はひどいピーナッツアレルギーで、以前、たった一かけらを口にしただけで呼吸困難になり、救急車のお世話になったことがありました。その時の記憶が鮮明だったため、独特の香ばしさに気付き、飲み下さなかったことが幸いでした。
2011-11-08 00:35:41>口に入れただけで手足に少し発疹が出ていました。ひどいアレルギー体質の人にとってアレルギー物質は猛毒と同じです。飲み込んだらすぐにショック症状が始まります。全身が腫れ上がり、そして食道や気管が詰まり、呼吸が困難になります。周囲に誰もいなかったら、そのまま死に至る可能性もあります。
2011-11-08 00:36:19>それにしても、母親が作ってくれたサンドイッチです。当然ですが母は私の体質を知っています。母は念のためこの家の中にナッツ類を置かないほど気を遣ってくれていたくらいです。こんな間違いをするはずがないのです。
2011-11-08 00:36:34>母もずいぶんな歳ですし、私はこれからは食べものについては自分自身で、くれぐれも注意しておかなくてはならないと肝に銘じました。今後のために、このことを日記に書いておこうと思いました。日記帳を出し、その日のページを開きました。
2011-11-08 00:36:53>そこで、机の上に残ったピーナッツバターサンドが目にとまりました。アレルギーの人ならわかると思いますが、いったん症状が出てしまうと過敏になって、近くに置いてあるだけで気分が悪くなるものです。そっと包んで、部屋を出ました。その時、違和感がありました。
2011-11-08 00:37:08>部屋に内鍵がかかっていたんです。私は普段そんなことをしません。しかし、私がやったとしか考えられません。内鍵をかけられるのは、私だけですから。後から考えると、そのサンドイッチを食べようとしていた時、部屋は完全密室になっていたんです。
2011-11-08 00:37:19>ぞっとするようなことですが、そのときはことの重大さに気づかず、私は台所でサンドイッチを捨てると部屋に戻りました。その間、せいぜい数分だったと思います。
2011-11-08 00:37:38>しかしそれ以上のことがあって、私は叫びました。そのページ、日記のその日のページ、一面に、べったりと、ピーナッツバターが塗りつけてあったのです。
2011-11-08 00:43:36