ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ #2
ユンコは薄汚い老朽マンションに掲げられるネオンサインを見た。左の∴サイバネ・アイが赤く回転し、文字のスキャニングを行った。「ャー都会カルチ……!」それこそは、月面から届けられた機密データの転送先物理アドレスに他ならない!「電子みたいに速く……!」ユンコはドアを開け、進んだ。 23
2015-05-21 14:31:42レッドハッグは傷だらけのモノバイクを駆り、ディストリクトの東端へ。高台へと昇り、橋が完全封鎖されていると見るや、素早く北へ転じた。彼女はしばしば電波発生装置をオフにし、路地裏を縫うように駆け抜けて電波発生源スキャンとニンジャ目視を躱し、また大通りに現れ、撒き餌をオンにした。 25
2015-05-21 14:36:25アクシスIRCに目を転じれば、通信途絶していたシャドウドラゴンの認証済バイタルサインが再び灯っていた。彼はモノバイク襲撃時の墜落から復帰。通信装置に障害も、任務継続中。納得がゆく。ニンジャスレイヤーと幾度も戦闘を行い生還したハタモト・エージェントが、そう易々と死のうものか。 26
2015-05-21 14:44:06目下、アクシスはレッドハッグを重要攻撃対象として追跡しつつも、区内全域に広く展開。機密データの物理アドレスは、未だアルゴスが絞込中。レッドハッグは既にデータを獲得し、区外へ運ぼうとしているのか?あるいは今まさにデータをピックアップしようとしているのか?全ての可能性に備える。 27
2015-05-21 14:53:03アルゴスの復帰ペースは速い。徐々に候補エリアは絞られている。第二段階スキャニングとして、ハイデッカー人海戦術が始まった。重点エリアの全住居全UNIXに対し、強制捜査を行う。そのような下等な作業はニンジャが行うべきものではない。火が上がった所へ、都度、アクシスが急行すれば良い。28
2015-05-21 14:56:32未だ区内の封鎖強度は不完全。ハイタカ、シデムシの到着が急がれる。コールドロンに続き、第五次ハイデッカー即席検問所で連携攻撃を仕掛けたアクシス2人も、レッドハッグの返り討ちにあい爆発四散。再び逃走開始…。「レッドハッグをどう見る?」輸送機内、隣のタタミにザゼンする男が問うた。 29
2015-05-21 15:04:15「戦闘データも少なく、底は見えない。実際、彼女と剣を交えてみたいものだ。あの風情の無い死神などと戦うより、よほど良い」鼻から上だけを覆面で隠した洒落者が言った。それは求めていた答えではないと言いたげに、もう一人の男が返した。「あれは陽動と見るか?スワッシュバックラー=サン」 30
2015-05-21 15:11:41「システムの判断を待てばよい。我々は為すべき事を為す花形。あの方の筋書きは必ずや勝利し、支配する」「ならばレッドハッグだ」カタフラクトは言った。白髪混じりの短髪、黒いトレンチレザー、サイバーゴーグル。一切の装飾物が見当たらぬ。強さと冷徹さ以外全てを削ぎ落としたような男だった。31
2015-05-21 15:23:07「総員出撃とはな」カタフラクトはゴーグルを引き上げると、ジグラットからここへ彼らを運んだ中型ヘリから身を乗り出し、機械めいて冷たい目で外を見た。恐怖に凍りつく都市、上空を飛ぶ武装ヘリの群れ。システムに作られた新兵どもの群れ。「壮観だ」「同意する」スワッシュバックラーは笑った。32
2015-05-21 15:32:41「ヤバイヤバイヤバイヤバイ……」色褪せたエメラルドグリーンのショーツだけを履いたまま、モナコ・チャンは寝床から這い出し、チャブ上のUNIXに向かっていた。ケーブルはセーフティ機構により物理切断され、スタンドアロン状態。ファイアウォールの焦げた臭いが室内に満ちる。 34
2015-05-21 16:02:25部屋はゴミためめいて汚く、荒んだ生活は明白。ゴミやガラクタや服の間には、「なるべくドラッグしない」の自筆署名ショドーがのぞく。彼女はそれを顧みず、オイランバーガー夜勤明けの眠た目を擦ってキーボードを叩き、いつ注いだかも判然としない特製バリキ・カクテル入りマグを口元に運んだ。 35
2015-05-21 16:06:01首都決戦でも始まったかのように、ヘリが空を飛び交っている。その音が彼女を縮こまらせる。ガリガリガリ……UNIXが不穏な音を立てる。巨大データは展開すら困難。ハッカーでない彼女には、表層を舐めることしか出来ない。「オリジナル作成者……メガトリイ・コーポ……年号がバグってる?」 36
2015-05-21 16:13:20「この項は?十二人?スパ……スパルタカス?スターゲイザー?何これ。オカルト?コワイ……アーーーーーー」彼女は薬物でガツンを脳を起こし、頭を振ってシャッキリさせると、先程のノイズ混じり音声を追憶する。(((データを持って逃げろ)))ケミカル幻聴でないならば、あれはナボリの声。 37
2015-05-21 16:18:08「こ、こ、これきっと国家機密!せ、せ、せ、政府に消されるアイエエエエ!」モナコはタンスに走った。彼女にとってこの程度のメガロ妄想はお手の物だ。また存外それは的を得ている。「どこいったのー!」タンスからナボリの古いハッカーアタッシェケースを掘り出し、乱暴にチャブの横に置いた。 38
2015-05-21 16:23:12中にはハッカー御用達、磁気シールド処理済、上書き防止機能付のまっさらなフロッピーディスクが何十枚も捨てずに残っていた。僥倖だ。「データを持って逃げようー!」モナコは大型UNIXデッキの堅牢なダブル・ドライヴに二枚のフロッピー挿入を試み、手が震えて失敗し、何度もリトライする。 39
2015-05-21 16:28:08「頭が爆発しそう!ジャンキーにこんな事させるな!」モナコは恐怖でガタガタ震えながら怒った。そして挿入。無慈悲な表示『完了まで3時間』。「ザッケンナコラー!私とナボリの命が掛かってんだオラー!」涙目でキーボードを殴った。「せっかくナボリが命懸けで何かしてくれたんだぞコラー!」 40
2015-05-21 16:33:49KNOCK!KNOCK!「ドーモ」突如、鍵付きフスマが叩かれ、知らない女の声。「アイエエエ……!」モナコは縮み上がった。すわ、政府エージェントか。勇気を振り絞り、毛布で身を包みフスマへ。「だ、誰だ?」「開けて、私はミスター・ハーフプライス=サンのエージェント」押し殺した声。 41
2015-05-21 16:45:02「ハーフプライス……!」モナコは目を見開き、背筋を伸ばした。そして鍵付きフスマの隙間から、注意深く廊下を見た。雪のように白い肌の、人工造形美めいたサイバーゴスガールが立っていた。その目はシリアスだった。「破壊できるけど、騒ぎを起こしたくない。開けて。ハイデッカーが来る前に」 42
2015-05-21 16:54:38【ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ】#2終わり #3へ続く
2015-05-21 16:55:11