~妖怪ウォッチSS~くれは舞う風××話・果たされぬ約束【後編】

前編→http://togetter.com/li/819041//本日定休日のため一気に書き上げました。ここまで読んでくれた方の中で「この話の万尾獅子行動力ありすぎじゃね?」と思う人はいるでしょうがキニシナイデネ!(途中に挟んだ動画はイメージBGM
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みなみ @minarudhia

老師の視線に気づいていた秋奈も溜息をついた。妖怪にとってお経や祝詞、聖歌は苦手なものであり、一歩間違えば祓われてしまう危険もある。今の老師は、秋奈とメラメライオンに何ひとつ困ったことのない関係を垣間見て黙視してくれたが、危ないところだったのだ。万尾獅子は、その横の空いた席に座す。

2015-05-25 16:01:53
みなみ @minarudhia

用意された弁当に手を付けながら、秋奈は進とその両親に挨拶をした。「話は聞いていたよ。うちの進も見えるらしいんだが、僕にはいまいちピンとこなくてね」進の父親は言いながら頭を掻いた。この斎場がある町に立った企業で課長を務めており、もしかすればその折りで会うことがあるだろうと言った。

2015-05-25 16:06:56
みなみ @minarudhia

―――遺骨が一部分ずつ、骨壷に納められていく。秋奈が近くにいた親族の初老男性と一緒に一本のやや大きめの骨を取り納める。その途中、進が万尾獅子を手招きして呼んだ。「どうした?」「良かったら、一緒にお骨入れない?驚かれるかもしれないけど」「進」母親に呼ばれ、進は万尾獅子の腕を引いた。

2015-05-25 16:11:40
みなみ @minarudhia

「獅子まるも一緒に混ぜてよ。ひいじいちゃんの友達なんだ、いいだろ」「進、あんたひいおじいちゃんみたいに頭おかしくなるわよ?」進と歳の近い親族の少女が呆れたように言った。「大マジだよ。それにひいじいちゃんがおかしくないってこと、今から見せてやる」そう言い、進が箸を受け取る。

2015-05-25 16:13:56
みなみ @minarudhia

その瞬間、親族と一般の参加者の間でどよめきが起こった。「は、箸が…」万尾獅子は箸を持ち、進を見やる。進はしたり顔で笑うと、老師に向かって頭を下げた。「……いいでしょう、お入れなさい」司会役の女性でさえ困惑の表情を浮かべる後ろで、老師は頷いた。「かたじけない」万尾獅子は一礼した。

2015-05-25 16:16:23
みなみ @minarudhia

ある意味緊張した空気の中、進と万尾獅子は一塊の骨――おそらく、背骨――を一緒に取り、納めた。箸を戻し、進と万尾獅子は離れる。「…どうぞ、続きを」見届けて老師が一声かけると、ぎこちなく再開された。その時、すでに大方の骨は骨壷に納められており、残るは頭蓋骨や大腿骨くらいになったが。

2015-05-25 16:21:14
みなみ @minarudhia

司会役の女性が、一つずつどこの骨かを説明しながら丁重に納めていくのを見ながら進が小声で言った。「これでさ、皆ちょっとはわかってくれたと思うんだ」「え?」「ひいじいちゃんはおかしくない、本当に見えない友達がいたんだって、ことをね」「…そうだな」進の声にメラメライオンは頷いた。

2015-05-25 16:23:17
みなみ @minarudhia

葬式が終わり、一人一人に引き出物が渡される。それが終わった後、秋奈とメラメライオン、そして進はその町の駅まで来た。…万尾獅子を見送る為だ。「秋奈さん、メラメライオン、進君。色々と世話になった」引き出物の紙袋を手に下げ、万尾獅子は言った。「うちの住所その中に入れといた」「ああ」

2015-05-25 16:31:32
みなみ @minarudhia

進が言うと、万尾獅子は少し思案の後、進に手を出すよう言った。「何だ?」「これを」差しのべられた少年の手に、万尾獅子が置いたのは妖怪メダル。「これ……」獅子まるのものではない、今の彼のもの。「これ、ん?まん?いや、よろ…?」「まんおじし、だ」「まんおじし?なんか、大層な名前だな」

2015-05-25 16:33:38
みなみ @minarudhia

進がメダルを手に取り、裏表をひっくり返して見る。表には目を閉じて胡坐の姿勢で座す万尾獅子、裏にはイサマシ族の紋章が刻まれていた。「万尾獅子さん、道中お気をつけて」「ああ…――」ぞくっ。万尾獅子の背筋を言いようのない何かが這い上る。(これ、は…)そうだ。メリーで会った時起きた衝動。

2015-05-25 16:37:38
みなみ @minarudhia

どくり、どくり。下半身が疼く。牙が疼く。目の前の女性に向かって。オソエ。オカセ。本能の誘いが彼を襲う。(なぜ、ここで…)パンッ!彼の意識は突如顔へ叩きつけられた軽い衝撃によって引き戻された。「ちょっと、メラメライオン!?」「…戻ったか?理性」メラメライオンは手を下ろした。

2015-05-25 16:41:34
みなみ @minarudhia

「な…」「見鬼の匂いに当てられたら無理ないよな。オレもそうだった」まあ、気をつけろ、とメラメライオンは万尾獅子を肘で小突いた。「す、済まない」電子掲示板に目をやれば、すでに電車が来ることを告げている。「本当に、感謝している。いつかまた」「ああ」改札を抜け、やってきた電車の中を見る

2015-05-25 16:44:51
みなみ @minarudhia

電車の中はほぼ満員だ。休日とシーズンのせいか旅行客がかなり多い。万尾獅子は電車の屋根へ目をやり、そして。「ィヤーッ!!」飛び乗った。彼を乗せて電車は遠ざかる。万尾獅子が改札へ目を向けると、まだ彼らが立っているのが見える。ふと、秋奈と眼が合った。(…!)手を、振られた。

2015-05-25 16:48:20
みなみ @minarudhia

手を振り返し、そのまま腰を下ろす。電車の振動や屋根の上を吹く風が彼のタテガミを揺らしもてあそぶ。空は開式の時よりさらに曇天となっているが、未だ太陽はその姿を隠していない。「……サイトウさん、俺は、俺の進む道を望みます。満を、持して」彼の呟きは、電車の駆動音にかき消された。

2015-05-25 16:51:47
みなみ @minarudhia

妖怪ウォッチSS『くれは舞う風』××話「果たされぬ約束」/お付き合いありがとうございます(土下座

2015-05-25 16:52:39