鈴メガバースくりへし ※燭へし要素有り(完結済み)

かたなのスズトの省エネモード @10dance_suzuto

@10dance_suzuto 乏しいことに、これ以上も無く感謝した。中学は、なるべく国重と同じ方向の学校を選んだ。国重にも文句を言われないレベルの、公立校だ。この辺は公立の方が偏差値は高い傾向にある。だが国重の行った学校も負けず劣らずといった形で、図らずとも対抗意識を

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@10dance_suzuto 燃やしているようなってしまったのは、少しだけ、不覚だった。国重には大変、嬉しそうに笑われたのだから、悪いことではないとは言え。あれは見た目によらず、負けず嫌いで競争意識が高い。十三歳の春。国重と同じバスで別の学校に通える幸い。

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@10dance_suzuto 幸せの時間はそう長くは続かなかった。長谷部にまとわりつく二人組が現れたのだ。「俺っち、薬研藤四郎。よろしく頼むぜ、だーんな」「俺は同田貫正国。お前が大倶利伽羅だな」あまりに全くタイプの違った二人組に、俺は正直、混乱した。しかも二人とも国重と

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@10dance_suzuto 同学年の同じクラスだと言う。薬研、と名乗った方は正直、下手したら俺と同い年なんじゃないかって思うような容貌をしていたし、同田貫の方は……目に、近寄りがたい何かを感じていた。何かを漏らせば鼻で笑われるんじゃないかと言うような、威圧感。

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@10dance_suzuto どちらにせよ、気に入らないと思った。だが現実は無常なもので、大体どちらか片方が国重が家を出て家に帰るまで着いてくる。決して俺達の間に割って入るようなことをしなかった分、尚更だ。その理由を聞き出そうと思うことすら癇に障った。だが何より苛立ったのは

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@10dance_suzuto どこか人を見下しような目をしていながら、こいつらを決して嫌な奴だと思えなかった俺自身だ。国重を待つふとした時間、ふとしたきっかけから話してみれば、気が合うな、と思った。薬研は怜悧な少年然とした印象を裏切る決断力と視野の広さを兼ね備えていて

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@10dance_suzuto 同田貫は見た目通りの柄の悪さとは裏腹に、仕事はきっちりこなす心情を抱えたまっすぐな奴らだった。嫌いになれる筈が無かった。次第に近付いていく俺と二人組の距離を、国重は嬉しそうな様子を隠しもせず黙って見守っていた。そういうところがずるいんだよ、あんた。

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@10dance_suzuto そして同じバスで見る曇り空がいつの間にか暖かな日差しに変わる花冷え。桜が二回通り過ぎて三回目を迎える前に、国重は大学進学を決めた。家から通える距離だったため実家からは出ないが、送り迎えは相変わらずあの二人がすると言った。その頃には、あの三人の

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@10dance_suzuto 関係性が普通じゃないことへ気付くには、十分すぎるほどの確証が揃っていた。

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@10dance_suzuto 例えそれが恋だとしたら、二人組の距離感はあまりに国重から遠かった。例えそれが友情だとしたら、眉を顰める程度には二人組は過保護に過ぎる。独占、嫉妬、逆恨み、そんなものは混じっていない。博愛、隣人愛、家族愛、それで言い表すにはドライだ。

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@10dance_suzuto それを、ようやく正面切って問いただせたのは、俺が十八歳になってからだった。国重は二十二歳。ストレートで国立大学へ進学して、そのままストレートに卒業するという。互いにずっと避けていた話題だった。だがもうないがしろにも、もう、できない。

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@10dance_suzuto 卒業したその先はどうするのか、と聞いた。「結婚するんだ」と言われた。予想していた全ての言葉の中で最も最悪だった選択肢を突きつけられて、頭が真っ白に成り果てた。と思った頃には、俺は国重を床に組み敷いていた。

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@10dance_suzuto 国重に女の気配は無かった。当然だ。いや、相手がαなら、その限りではないが、国重はΩだ。大学に通っている間は、ずっと勉学に没頭していた。サークルにも入らず、周囲との付き合いさえ殆ど絶って、そんなんでやっていけるのかとこちらが心配になるほどに

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@10dance_suzuto 学生の本分とやらにストイックだった。そんな大学生活を惜しむように過ごす国重の顔は、いつも穏やかだった。小さい頃から何一つとして変わることの無い、アルカイックスマイルを、俺は知っている。知っているぞ、国広、あんたは。

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@10dance_suzuto 「あんたは、ずっと諦めていたんだろう……？」

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@10dance_suzuto ずっとそういう約束だったんだ、と国重は言った。幼い頃から決まっていた婚約者だったのだと。これまで何度も呼び出されては清い交際を続けていた。唇に触れることさえしない誠実さを好ましく思った。婚約関係にあるαなのだから、Ωの俺を好きにして良い権利を

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@10dance_suzuto 持っている筈なのに、それは僕の信条に反するからと、断固たる理由を持って断られた。国重自身のことを上げ連ねるのではなく、あくまで自分自身の魂に誓いを立てる姿を見て、この人なら任せられると思った。この人なら、どんな俺になっても受け入れてくれると。

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@10dance_suzuto 国重は、そう言った。 「俺のことが好きなくせに」「すまない」「俺なら、あんたにそういう顔は、させない」「すまない」「好ましいだと？ 笑わせるな。あんたらしくない。これ以上の言い訳は、結構だ」「すまない、廣光」「俺なら」「無理だ」

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@10dance_suzuto 口付けようとしたら、掌に拒まれた。「俺はお前に、俺が壊れていく様を、見られたくは無いんだ……廣光、お前の前では、Ωの俺じゃなくて、ただの長谷部国重でいたい」国重は泣いていた。くしゃりと歪めた顔を見て、好きだな、と思った。「綺麗なままの俺で、いたい」

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@10dance_suzuto 大倶利伽羅編、(暫定的に)了。長谷部編に続く。

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@10dance_suzuto 一度だけ、廣光と二人きりで登校したことがある。剣道部の試合があるからと、殆ど始発のバスに乗る廣光の隣に座っていた。あんたまで付き合う必要は無いんだ、と言われたので、俺も生徒会で片付けなければならないことがあると返したら廣光は静かに口角を上げた。

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@10dance_suzuto ああ、好きだな、と思った。朝もやの中を寂しく走るバスには、機械的に職務を果たす運転手の男性と、俺と、お前だけ。薬研も同田貫も、ここにはいない。すまない、とは思う。だがヒートはこの間、収まったばかりだ。今日ばかりは許して欲しいと、そう願う。

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@10dance_suzuto 一度だけ、廣光と二人きりで登校した。瑞々しい十五歳のお前と、十八歳になったばかりの俺が、一度だけ邂逅した。あれが最後のチャンスだったのだ。あの時、俺は婚約者から結婚の話を持ち出されていた。

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@10dance_suzuto 順を追って話そうか。六歳の性別検査でめでたくΩだと診断された俺は、早々に中学から先の人生を決められていた。小学校まではまだ良い。だが本格的な思春期を迎える中学から先は、全寮制のΩ専用の学校へ通うことを、決められていた。……俺はまだ良い方なんだ。