ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101526:フェアウェル・マイ・シャドウ #4
さらに隣のビルへと跳躍、跳躍、跳躍!「まだ納得いってないからね!」並走し、ユンコが叫ぶ。「包囲網を超えたら全て説明してやる!」シャドウウィーヴが返す。かつて彼はユンコの存在自体も抹消すべく戦ったが、それを逐一教えてやる時間もない。「あとは俺を殴ろうが、撃とうが、好きにしろ!」23
2015-06-09 22:21:09この先に四車線大通り。最短経路はむろん直進。左手のストリートにパックド・スシめいて並ぶハイデッカー車両列を見れば、大通りの封鎖状況は言わずもがな。「下にニンジャがいるッ!」ユンコが検知し叫ぶ。「まっすぐ跳び渡れるか!?」影と並走しながらユンコは計測し、返す。「ちょっと無理!」24
2015-06-09 22:29:50「捕まっていろ!」シャドウウィーヴはニンジャ筋力で彼女のボディを抱え上げ、踏み切って、大通りを跳躍した。全身にカラテが満ちた。「イヤーッ!」「「「アッコラー!」」」ストリートから上空に向けハイデッカーがライフルを向けるも、遥かに遅い。影は大通り反対側のビル屋根へ着地していた。25
2015-06-09 22:32:45彼らは区の全域に張り巡らされた包囲網の第一段階を突破した。「噫!」レイジは再び並走し、笑った。「まだ見えるぞ!」「何が!?」並走しながらユンコが問うた。「音と!コトダマが!空を揺らしてる!」「どういう事!?」「残響だ!お前の電波が俺にそれを見せた!」彼は堪え切れずに叫んだ。 26
2015-06-09 22:44:16「狂っちゃった!?」「俺は少しも狂ってない!また見えるようになっただけだ!」彼の超常的な影の視界は、一瞬のシステムショックがもたらしたエテルの揺らぎを見ていた。世界に満ちる不可視のハイクを。それは残響めいて徐々に減衰しつつも、未だ残っていた。「何を!?」「世界の本当の姿だ!」27
2015-06-09 22:53:54「イヤーッ!」レッドハッグが刃の嵐めいて横薙ぎの連続斬撃を繰り出す。だが相手に対して半身姿勢を取るスワッシュバックラーは、軽快なカラテ・バック・ステップでそれを回避し、ワン・インチ距離を維持し続ける。「イヤーッ!」そして隙あらば、鋭い刺突剣でハチめいて彼女の肉を刺した。 29
2015-06-09 23:08:47間もなくカタフラクトが旋回突撃してくる。一対一の間に剣士を殺さねば打破できぬ。レッドハッグは強烈なカタナ斬撃を、脳天目掛け繰り出した。だが敵は手首のわずかなスナップで剣先を回転させると、巻きつく鉄の風めいた不可思議な動きで、いとも容易く彼女の太刀筋を逸らした!「拍手喝采!」 30
2015-06-09 23:14:32SWASH!金属音とほぼ同時に、血飛沫!レットハッグの利き腕、手首から肘にかけて浅い裂傷出血。さらに交差する直前、膝蹴りが彼女の腹に突き刺さった。「グワーッ!」レッドハッグは斬撃の勢いのまま、顔をしかめて前方回転跳躍するように逃れた。二者の剣の技量差はもはや歴然であった。 31
2015-06-09 23:19:02だが直後、カタフラクトはアクシスIRCの異常を察知。眉根をひそめた。未だアルゴスの最終判断は下されていない。それでも彼は突撃を中断し、南西へハンドルを切った!(((そろそろバレちまったかねえ…)))レッドハッグは舌打ちし、経路を遮るように駆ける!「待ちな!アンタの相手は…!」32
2015-06-09 23:31:26だが敵の跳躍斬撃が、それを遮った。「いやいや、お相手はこの私だ」「アンタ、しつこいねえ…!」レッドハッグは紙一重のブリッジ回避。切断された黒髪と頬の血が飛んだ。彼女の闘志は未だ燃え盛っていたが、無慈悲な重モーターバイクの黒い音は、もはやスリケンも届かぬ距離へと達していた。 33
2015-06-09 23:46:44当該閉鎖ディストリクトにおけるハイデッカーとアクシスの包囲網は、静かな混乱をきたしていた。レッドハッグによる陽動。ユンコ・スズキの検出。そしてシャドウドラゴンの不可解な動き。再び沈黙した彼のバイタルサイン。矛盾する数々のデータ。並行して繰り広げられるニチョーム包囲戦の激化。 35
2015-06-10 16:16:06暫時の酩酊じみたシステムショックから復帰したアルゴスは、いまやネオサイタマ電脳IRC網を再び支配下に置いていた。抵抗者が迂闊にIRCを用いれば、すぐさま検出され物理IPを割り出されてUNIXを破壊されるか、あるいは月面からハッキング攻撃を受けてニューロンを直接焼かれるだろう。36
2015-06-10 16:22:15すなわち、ユンコの持つ厖大な機密データはいかなる通信網にも避難させることはできない。まずはこのディストリクトを物理突破しなければならないのだ。敵が完全な警備体制を固めるよりも速く。そのために二人の逃走者が向かう突破口は、南の工業河川カワ・ミナミに架けられた橋のひとつであった。37
2015-06-10 16:30:46時間との戦いだった。ユンコは影とLANケーブルで直結しながら、電脳スラム街を並走した。彼女はボディをAI操縦に切り替えれば、その間に情報の整理に集中できるからだ。浅いローカルIRCを用い、二人はニューロンの速度で言葉を交わした。無論、データ転送は巨大に過ぎ、不可能であった。 38
2015-06-10 16:39:13影は予測しうる敵のプロトコルを説いた。ハイデッカーが完全な警備体制を敷いた場合、これら全ての橋は検問、武装車両、バリケード、ハイデッカー小隊、暴徒鎮圧ドローンと多脚戦車で防衛されるだろう。そうなれば、ユンコの中に保存されたデータを守りながらその防御を突破することは不可能だ。 39
2015-06-10 16:44:30ユンコは姿見えぬ魚群めいたアルゴスの電子的存在感を説いた。巨大な意識が、ディストリクトを縦横にスキャンしているようだった。影はクナイで、ユンコは照準ロックオンからのライフル狙撃で、目につく市街監視カメラを破壊しながら進んだ。それがどれほどの妨害効果をもたらすのかは不明のまま。40
2015-06-10 16:51:44「「「スッゾコラー市民!」」」ハイデッカー・ヘリがビル屋上を走る異物を自動検出。威圧的に並走するように飛行した。影は直結を解除する。ケーブルは鞭の如くしなやかに動いて巻き取られ、ユンコの後頭部に収納された。敵は側面ドアを開け、アサルトライフルで警告無しの一斉射撃を仕掛ける。 41
2015-06-10 16:57:33ユンコは迎撃を試みるも、ヘリ装甲は小型マシンガンでは貫けない。ハイデッカーの射撃をいささか緩めるだけだ。影はダートめいた速度で飛び乗り、射撃手二人を連続カラテキックで卒倒させ蹴落とし、制御UNIXとLAN直結している操縦ハイデッカーの首とケーブルを背後からクナイで搔き切った。42
2015-06-10 17:04:49「アバーッ!」操縦ハイデッカーは緑血を撒き散らし絶命する。輸送ヘリは奪えない。LAN認証式であり、繋げば即座にアルゴスに焼かれる。影は機体側面を両脚で強く蹴ってビル屋上に飛び降り、ユンコと並走を再開した。クローン死体を乗せたヘリは東に傾き、死に絶えた大通りに墜落していった。 43
2015-06-10 17:13:09市街の監視カメラがヘリの爆発に向かって蟲めいて動く。2人は再び直結する。跳躍し、短い裏路地を飛び越えて立体駐車場の中へ。また監視カメラが突如意志を持ったかのように動く。直後にユンコの銃弾が突き刺さり、目を塞ぐ。屋上をアクシス輸送ヘリが通過。光点を感じる。おそらく降下した。 44
2015-06-10 17:21:17もはやアクシス専用IRCの情報は傍受できない。シャドウウィーヴが敵の動きを探り続けるために端末とIRC直結を続けていれば、何処かの時点でアルゴスに覗かれ、焼かれていただろう。彼は実際限界まで、バイタルサイン認証型端末を首に爆弾めいてぶら下げながら、正体を隠し続けていたのだ。 45
2015-06-10 17:24:27