窪美澄さん『さよなら、ニルヴァーナ』について

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榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 74 話の流れとして、金原さんにあのシーンを書いた時の状況について伺いました。金原さんは、子供が生き残る道を模索したけれど、物語の必然として回避できないことがわかって、号泣しながら事故のシーンを書いたそうです。

2015-06-11 15:05:47
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 75 その後も、一週間ぐらい喪に服す感じで、不安定な精神状態が続いたそうです。金原ひとみさんの『持たざる者』インタビューは以下に全文掲載されているので、気になった方はぜひ読んでみてください(ddnavi.com/news/237166/)。

2015-06-11 15:06:20
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 76 少し前のことですが、小説家・劇作家の柳美里さんと話をしていた時に、小説の中で人が死ぬシーンを書くことは演劇(戯曲)の中で書くよりもむずかしい、とおっしゃったことを思いだしました。

2015-06-11 15:08:29
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 77 そう、柳美里さんもまた、神戸の14歳の少年の事件を材に採った『ゴールドラッシュ』を書かれたのでした。小説の中で人の死を書くことがむずかしい理由を、柳さんにいま一度訊いてみたい気持ちがします。

2015-06-11 15:08:42
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 78 たぶんそれはリアリズムの問題で、小説の中で人の死を書く際には、寓意やメタファーに置き換え不可能な、切実で否定しがたい生々しい現実として表現されてしまうからではないでしょうか。

2015-06-11 15:10:35
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 79 小説家としてデビューした水野今日子が、「もっと深くて、もっと暗い、地獄に下りていこう」と決意する時、彼女は死を見据え、死を表現することを同時に決意しています。死を描くことには責任が付帯することをも了解した上で。

2015-06-11 15:11:08
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 80 それが「地獄に下りていく」ことの本当の意味なのです。僕がこの作品を読んで心配したのは、そのような深く厳しい決意を自分に課した窪美澄さんのメンタリティでした。窪さんがツイッターで「そのときはつらかったですが、今は、お菓子食べて、

2015-06-11 15:12:16
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 81 昼寝してるくらいには元気です」と書かれているのを読んで、少し安心しました。さて、この連続ツイートも6日目となりました。明日最後のツイートを行って、1週間続いたこの連続ツイートを閉じようと考えています。

2015-06-11 15:12:53
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 82 Championという言葉があります。競技の優勝者や選手権保持者を意味する言葉で、ボクシングの世界チャンピオンというふうに使用されます。Championにはもう一つ、「誰かのために戦う人」の意味があります。

2015-06-12 17:08:11
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 83 誰かの代わりに戦う人、という意味のChampionという言葉に僕は惹きつけられます。人間が社会的な存在である以上、あらゆる人間は別の誰かにとってのChampionであるはずです。

2015-06-12 17:09:10
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 84 小説家とは、小説を書かない、書くことができない人にとってのChampionです。自分が漠然と考えていたことや、それとなく思っていたことを、的確に表現する小説家の言葉に出会うと、この人は自分にとってのChampionなのだ、

2015-06-12 17:10:09
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 85 と強く思わされることがよくあります。小説家とは言葉の世界におけるChampionなのです。少し文脈が異なりますが、娘の光(ひかる)を少年Aに殺された母親のなっちゃんは、キリストと娘を重ね合わせ、

2015-06-12 17:10:58
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 86 「(光は)あの少年に殺されたんじゃない。光は誰かのために、何かのために、命を捧げたんじゃないだろうか」と考えます。ここには、娘の死に積極的な意味づけを行うことで苦しみを乗り越えようとする母親の思考の深まりが表現されています。

2015-06-12 17:11:27
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 87 仏教用語に「代受苦(だいじゅく)」という言葉があります。仏や菩薩が人間に代わって苦難を引き受けてくれるとする信仰です。身代り地蔵などの民間信仰がまさにそうです。他人の苦しみを代わりに受ける代受苦とは、Championの最たるものです。

2015-06-12 17:13:05
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 88 本作にも重要な仏教用語が登場します。それがタイトルに含まれる「ニルヴァーナ」という言葉です。ニルヴァーナはまず、Aが医療少年院で出会った少年Wから教えられる、アメリカのロックバントの名前として出てきます。

2015-06-12 17:13:41
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 89 ニルヴァーナとは、悟りの境地を表す「涅槃(ねはん)」を意味する仏教用語です。ネットで調べると「生け贄」の意味もあるようですが、手元にある『岩波仏教辞典』からは、その意味を見つけることはできませんでした。

2015-06-12 17:14:09
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 90 少年WはAに対し、「子どもの生け贄を捧げて、おまえは一度涅槃に行ったんだ。そんな体験したやつが、ここを出て、娑婆で、普通の人間みたいに飯くって、何食わぬ顔で生きていけると思うかよ」と糾弾の言葉を向けます。

2015-06-12 17:14:34
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 91 「子どもの生け贄を捧げて」「涅槃」に行くという、おぞましきニルヴァーナの定義がWによってなされます。ここにあるのは、仏教的な悟りの境地とはまったく関係のない、狂信的な供犠の思想です。

2015-06-12 17:15:04
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 92 「ニルヴァーナ」という言葉を含んだ本作のタイトル全体は、いったい何を意味しているのでしょうか。惜別の思いをこめた感情の吐露でしょうか。実は「さよなら、ニルヴァーナ」という言葉は、作中のある人物が発する重要な言葉として出てきます。

2015-06-12 17:16:01
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 93 「さよなら、ニルヴァーナ」という言葉にこめられた意味を、窪さんご自身にお伺いしてみたい気持ちがしますが、この言葉もまた窪さんの「決意表明」につながっていると僕は考えます。物語のラストに到って、平安と悟りの境地である涅槃に行き着くことなく、

2015-06-12 17:17:14
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 94 「煩悩」の根本である「貪欲(とんよく)」「瞋恚(しんい)」「愚癡(ぐち)」にまみれて、この俗世を生き、苦しみ、死ぬ、そのはざまの時間を「私はひたすら書き続ける」との作者の強い意志と決意が、強く深く心に迫ってきました。

2015-06-12 17:17:53
榎本正樹 @11月17日『新海誠の世界』KADOKAWA刊 @enmt

『さよなら、ニルヴァーナ』について 95 一連の連続ツイートはここまでにします。だらだらと長いツイートは、フォロワーの皆さんのタイムラインを乱してしまったかもしれません。そして窪美澄さん、多様な解読と解釈に誘う大作を書いてくださったことに、一人の読者として感謝します。(終)

2015-06-12 17:21:38
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