ツイッター小説 お気に入りセレクト 2010/12/27

冬木塔 @haguru_ma

#twnovel 海が料理をしたらどんな味になるのだろう。どうしてもそのことが気になって、作らせてみることにした。海ははじめ嫌がっていたけれど、ついにはさざなみを震わせるようにして一粒の真珠を差し出した。それを口に含んだときから、僕は不治の病。海の底で、ぼんやりと水面を見上げる。

@1_ichiko_1

メールの返事を待つのが苦手で、嫌いだ。だから、待たないためにはメールを打たないのが一番だと思うけど、でも、あなたと私をつなぐのがメールしかない状況で、あなたとの連絡手段を絶つには、私はあなたを好きになりすぎたようだ。 いつも、片思いの女の子は矛盾を抱えている。　#twnovel

Gabb-- @itisnot

貝殻に詰まっていたのは砂だった。身などひとかけらもなく、ただすべてが砂だった。口の中をじゃりじゃりとかき混ぜながら、僕は妻の顔を見る。笑顔を返され、僕も同じように笑う。「美味しい？」「もちろんさ！」飲み込んだ感触は実に贅沢。よくここまで貝の砂を集めてくれた。 #twnovel

Ak @Akinobu_E

#twnovel いつからか、本を読まないと落ち着かない日が多くなった。数分でも読まないと、身悶えしてしまう。その結果仕事が手に付かなくなり、友人も私の元から去ってしまった。そして、死んで棺桶の中に入った今でも本を読んでいる。ばさっ。本が手から落ちたけど、私はそれを拾えない。

@QuaibunPocket

「手を繋いでゆくのは構わないが」男は少し伸びた爪を気にしている。「その手を離す頃合いは彼女に一任することだ。どんな危機が迫ろうとも自ら離してはならない」水槽の熱帯魚たちに一通り聞かせてから、「これが最後の忠告にならなければいいがね」と曖昧に笑った。 #twnovel

Tohru Ishizuka @operahaus

「ザダロガ」この世でもっとも小さな都市が発見されたというのででかけると、すでに図書館のホールは満杯。なんでも『ザダロガ』の百三十七頁にあるそうで六人一組で順に閲覧する。呼ばれて別室に入るとはたして件の本が開かれていたが、一人がくしゃみをした途端、都市は行方不明。 #twnovel

T_Agatsuma @gatuma

#twnovel その薬缶は自分は人間だという妄想に取りつかれていた。病識はあった。だから通院して治療を受けているが、ガスコンロを病院、フライパンを医者だと思い込んでいることには無自覚だった。そもそも薬缶が妄想に取りつかれるなどという妄想に取りつかれているのは、本当に薬缶なのか。

夢名 七志 @mumei7c

電気コタツさえあれば、何処へでも行けるし何でもできる。怪物が住む異世界へ狩に出かけることも、星の光がスパークする深宇宙の彼方へも。無数の世界を渡り歩くのは思い通りだ。無限の力。阻むのは薄い紙だけ。「やむをえず送電を停止させていただきます」世界は年末に閉ざされた。 #twnovel

田中静人／かなたん @kanatan_jg

#twnovel 三十歳まで童貞を守ると魔法使いになれることが明らかになってから数年。童貞によるイケメン狩りと支配が始まった。それから三十年、童貞による恐怖政治が続いたが……彼らは魔法を失うことを恐れ、子どもを残せなかった。三十年あまり続いた童貞社会は、あっけなく終わりを告げた。

Pingu　novel @ckpingu_nvl

僕は柴犬。クリスマスって日の散歩はお兄ちゃん。「メリークリスマス」すっかり仲良しになった女の子が、僕に赤と白の服を着せ尖がり帽をのせた。慣れなくて変な感じだけど二人が嬉しそうに笑うから、僕も嬉しい。なんかポカポカ。空っ風を追いかける僕の後を寄り添って二人が歩く。 #twnovel

雨之森散策 @t_amamori

人の不幸を喜ぶ自分が心底嫌になった俺は自分を捨てるべく決意して脱皮を始めた。脱皮は激しい苦痛を伴ったが俺は見事に自分を脱ぎ去った。だが達成感に浸る俺を何者かが摘み上げた。「自己嫌悪が爪一枚で捨てられるなら安いもんだ」俺は脱ぎ捨てた自分によってゴミ箱に捨てられた。 #twnovel

コーヒー豆 @C_beans379

#twnovel プールを見つけたが、水がなかった。雨の中、水が溜まるのを待つ。しかし僅かに溜まっても、すぐに太陽が蒸発させてしまう。私は泣いた。死ぬほど泣いた。そしたら涙でプールが一杯になったが、私は既に力尽きていた。干上がった海の哀れな魚達を、ここに入れてやろうと思ったのに。

layback @laybacks

「お兄さん、今日は道しるべにする小石がないわ」「大丈夫だよグレーテル。さっきお父さんが自分のお弁当のパンをこっそりとくれたんだ。それをちぎって目印に落としていくからね」帰りみち、ヘンゼルがパンを落としてきたはずの地面にパンはなく、小鳥が列をなして死んでいました。 #twnovel

hua @hua_shancha

#twnovel 導かれるままに行き着いた今の会社。「君にはまずヒヨコの♂♀を選別してもらう」と言われ恥じない仕事はできるようになった。次は「石油プラントを輸出してもらう」僕は輸出しまくった。ボーナスは少なかったけど養鶏場のおっちゃんの笑顔が今でも仕事の支えになってる。

catroll @catroll

#twnovel 奴らは11月頃からその勢力を広げ、12月半ばにはほぼ日本が覆い尽くされていた。だがネンマツネンシ星のカドマッツ、カガミモーチ、オセッチの活躍でクリスマス星人の野望は砕かれた。しかしバレンタイン星人が日本を狙っているぞ。負けるなカドマッツ、カガミモーチ、オセッチ！

水木ナオ @nayotaf

帰りの電車にて。こっくり舟を漕ぎ、はっと顔を上げると、前に立つ男がさっと手を後ろに回すのが見えた。スリ？だが盗られた物はない模様。そそくさと離れた男を目で追う。男は再び居眠りをする人の前へ。そして両手を振り始めた。その動きに合わせ、前の人の頭も左右に。…指揮者！ #twnovel

雪月 @setugetufuka

#twnovel ｢仕事と私どっちが大事｣｢君｣二人は結婚した。数年後｢子供と俺どっちが大切｣｢稼がない夫より子供よ｣｢仕事より君を選んだからだ｣離婚の危機。｢ﾊﾟﾊﾟとﾏﾏどっちと暮らす｣子供は答えた。｢短絡的な二者択一をした結果がこれ。選べないものはある。反省した方がいいよ｣

穏やかに健やかに(๑´◡`)_旦 @chotto1koto

#twnovel 東京と神奈川で起きた連続殺人。警視庁と県警の合同捜査本部で、プチトマト刑事は伝説の人物 トマト警部と初対面した。「お父さんと呼んでも良いですか？」「私が好きなのはトマトジュースだが」「では、叔父さんで…」。その基準が刑事にしか理解できないのを、まだ彼は知らない。

すわぞ @suwazo

#twnovel 運命の三姉妹。一人は針を持ち、一人は針に糸を通し、一人は糸にたま止めをする。効率は悪いが、三姉妹が縫いとめる力は残酷なほどに揺るぎない。走る運命に、描く運命に、踊る運命に、書く運命に、多くの人間が縫いとめられる。好き嫌いにも、成功するしないにも関わらず。

ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

#twnovel お母さん。騒がしかった教室がその一言で静まり返った。皆の注目は、手を挙げたまま身動きしない少年と、黒板の前で身動きしない教師へと注がれる。教師は一度大きく息を吸うと、やっと呼んでくれたね、と愛しそうに呟き、数ヶ月前に息子となった少年に涙を零しつつ微笑んだ。