- hakuba_rei_n
- 4913
- 12
- 0
- 0
その町には禁漁日があるという。「その日はさかなの葬式さ。網を投げても骸骨しかかからんよ」漁師は網をぐいと引きながら。「骨のないのはもっと悪い」すがたはないのに気配ばかりが濃厚で。なにも食えずに海鳥と波を見つめるほかないのだと、跳ねるさかなを船へどんどん引き上げる。#twnovel
2019-02-06 09:14:42その町の人は全員二重人格だ。善と悪、姉と妹、かたちは人によって違えども。「近ごろの若い人は結婚を嫌うことが多いというよ」ひとりの体にふたつの心、夫と妻と子ども全員がそうともなれば大家族。「まぁ、そのうち逆になる。にぎやかなのもまた良いさ」コインの表裏を返すように。#twnovel
2019-02-04 11:55:44その町には年に一度、手紙の日があるという。誰に送ってもいいけれど、過去一度でも送った人は選ばない決まり。「拝啓、竜殺しの英雄様」病床の少年は鉛筆をくるくる回し。両親、先生、もうみんなに送ったから。親愛なる物語の人々へ、ポストには入れないけれど届いていると。そう、信じて。#twnovel
2019-01-18 23:47:49その町の建物は建てられてから100年経つと足がはえて歩き出す。人や他の建物を踏みつぶさぬように注意深く、居心地のいい場所を求めてトコトコと。「だからみんな古い建物で働きたがるの」この町に地図はないけれど、住人に不便はないという。晴れた日のビーチには古い銀行や図書館がずらりと並ぶ。
2017-10-25 18:06:18その町では夜のうちに雨が降り、昼にはからりと晴れわたる。夜は長袖の服がちょうどよく、昼は少し汗ばむくらい。年中ずっとずっとこの天気。「町を出るとすぐに体を壊しちゃう」少女はちょっとはにかんで。「でも星空ってものが見てみたいの」旅装を背負い、見送りの人へ手を振った。#twnovel
2017-08-22 10:40:05その町の人は渡り鳥の背にぬいぐるみをくくりつける。「ひと季節、軒先を貸した宿代に」色かたち様々のぬいぐるみはターコイズの瞳をかがやかせ。「この子たちに旅をさせて。一年後無事に帰ってこれますように」人々の祈りと小さな同伴者を背におって、小鳥たちは誇らしげに空へ発つ。#twnovel
2017-07-29 22:01:27交易の町にはあらゆるものが集まってくる。南からは人魚の作った海酒が、西からは夜闇に光る青い花が。不思議なものをいっぱい集めて、「なぜかここには青いものばかり。選んでなんぞいないのに」藍鉱銅染めの布を広げて、隊商の娘はくるくる踊る。どこかに赤や緑の町もあるかしら。#twnovel
2017-07-11 18:42:03その町には夏の夜にしか咲かない花があるという。朝になるとしおれてしまうその花は、風や刺激で淡く光る。「儂はむかし海辺の町で暮らしておって」老爺は町を見下ろす丘に家を建て。「海蛍に輝く海が忘れられん。それでこの花を植えたのさ」三十年かかった、と満足げに酒を舐める。#twnovel
2017-07-10 22:27:02「横穴に入ってはいけません」洞窟の町にうまれた子はそう言い聞かされて育つ。理由は決して話されないが、大人たちは知っている。横穴にめぐらされた爆薬の存在を。追手がきたときは町をうずめて逃げなければならないことを。「なぜ?」無邪気に首をかしげるは亡国の王の血をひく子。#twnovel
2017-07-08 23:40:04その町の人は感情によって髪の色が変わるという。とはいえその色合いは千差万別。「幼いころ、その感情を強くおぼえたとき見ていた色になるそうよ」大好きな果物、別れの夕暮れ、夢に出てきた怪物。「好きな色を選べたらいいんだけど」せつなく語る彼女の髪は、死んだ母の瞳の色。#twnovel
2017-07-05 23:06:251月の赤子、3月の少女。6月の青年に9月の淑女。その町では12の月で12人の主役が選ばれ祝われる。主役になれるのは人生通して一度きり。「ひどい祭りだよ。こんな筋金入りの恥ずかしがりを飾り立てて」12月の老婆は祝福の雪をふりまかれ、頬と鼻先を真っ赤に染める。#twnovel
2016-12-19 21:21:49その都には神話時代の王の化身がいるという。化身は不死で、死んだように見えてもすぐ蘇る。深夜の鐘をきっかけに馬や鳩、象に蟻と毎日姿を変え、いかなる姿でも金色の毛並みをしているという。「人間にはならないの?」「さてね」無邪気な声に、語り部は金髪の奥でしずかに笑う。#twnovel
2016-12-14 22:25:03その町でうまれた若者は16歳になると何か「誓い」をたてて旅に出る。誓いはどんなものでもいいけれど、果たすまでは決して故郷に戻れない。「風の果てを見る」二度と帰るものか、と町を飛び出した青年は。「永い、永い凪のなかにいた」眼光鋭い壮年となって、いま故郷の土を踏む。#twnovel
2016-12-14 22:06:15「俺はー町のコックで」彼らはその町の、コックの、花屋の、宿屋の見知らぬベッドで目を覚まし。「一日でいい、ここでいつも通りに働いて」テーブルの上にそんなメモ。「町人が全員毎日入れ替わってしまうんだ」解説はいつも旅人の役目。代金はツケでと悪戯っぽく片目を瞑り。#twnovel
2016-07-04 10:28:55差出人も宛先もはっきりとした、けれど届けけられない物の行き着く町がある。私書箱で形作られた城壁には死者への手紙や空想の生物への届け物がどっさり詰まり。「私達は墓守。私達はサンタクロース」町の人にスタンプ押され、ほんの少し宛先変えて、何処へともなくまた旅立つ。#twnovel
2016-07-02 20:37:32その日は年に一度の「あべこべ祭り」。初対面には「久しぶり!」と肩を叩き、旧知の仲なら「はじめまして」と固く握手。#twnovel「はじめまして」母親は子どもにそっとささやく。「ママ」寂しげな子を抱き寄せて頭をなでる。癇癪も怒鳴り声も今日は封印。産声で出会ったあの日のように。
2016-03-27 22:33:56その町は千年の時を生きるカタツムリの上にある。巨大な殻の上にひとつの町。ゆったり動くその背に乗って町の人々は雨を旅する。「私たちは音が聞けなかったのです」小さなカタツムリを内耳に住まわせ、町の人々は高らかに歌う。カタツムリの栄養源は町の人々の歌である。#twnovel
2015-08-09 22:32:30その町は巨大な階段の半ばにある。彼方から近づく足音、巨人が海から山へ向かうための大階段。潰さぬよう足を忍ばせそっとまたぎ越す巨人を見送り、町の人は今年こそ願いが叶うようにと祈る。巨人は山の女神に焦がれている。帰り道に土砂降りの雨が降らぬようにと、そう。 #twnovel
2015-07-20 20:56:21その町には影の鳥があらわれる。人ほどの背丈のその鳥はおのれの影をもたず、人を殺して影を奪う。奪えねばその日のうちに鳥は死ぬ。「旅人よ、町に出入りするなら夜にしなされ」目を伏せる古老のかたわらを、狩りに成功した鳥の影が泣きじゃくりながら両腕ひろげて翔けてゆく。#twnovel
2015-06-18 21:47:32その町の人が死ぬと、心臓から一翅の蝶が這い出てくる。血濡れの翅をゆるりと伸ばし、やがて無邪気に宙を舞う。故人を偲ぶ者に庇護されるもの、どこともつかぬ空へ飛んでゆくもの、猫にぱくりと食われるもの。怨みも祈りも関係なしにたった1日、無言のままに蝶は生きる。#twnovel
2015-06-01 20:34:54その町の壁は一階部分がぜんぶ本棚になっている。軒先がうんと長くて、立ち読みできる場所もあって。「本の揃え方を見れば家主がどんな人かわかるもの」ガラガラの棚は恥ずかしいこと。形だけでもと揃えるのだが、「背伸びの仕方にも人柄が出るよね」そう笑われたりもする。#twnovel
2015-06-01 18:50:10ふと浮かんだシーンをひとつ。 「ナイフなら、ここにある」ガラスの腕をもつ友人はおのれの腕をかざしてみせた。「石を叩きつけてくれ。そうしたらその破片で僕は、縄を切る」「そんな。だってそれは君の腕じゃないか!」彼はにっこり笑って「そう、自分じゃさすがにできない。だから頼んでるんだ」
2015-04-13 08:43:42その町に生まれた人はガラスの腕をもつという。機能にはなんら問題ない、滑らかに動く、けれど血の通わない透明の腕。歳を経るたび欠けて、鋭く尖って、摩耗して。「ちびた腕は手を伸ばし続けた証です」誰かへ、何かへ。指を守りながら、人を傷つけぬよう。注意を払って、おそれずに。#twnovel
2015-04-13 08:26:36壊れた絵本はあの店へ、色褪せたコートはこの店へ。切って、縫って、貼って、染めて。「でも私たちにも修理できないものがあるの」それは、この町。修理が終わるとこの町は消える。「さよなら」町を喚ぶほど悲しい思い出が溜まるその日まで。#twnovel
2015-04-01 08:19:54この町を横切る冬将軍は画家としての顔ももつ。あるときは水溜りに刺々しい模様を描いて人々を脅し、またあるときは娘さんの窓へ六花をいっぱい描いてみせる。町の人は将軍を畏れ、その作品を愛している。絵描きは冬の間仕事を控え、子供たちは水まきをして素敵な絵を描いてと願う。#twnovel
2015-02-03 23:06:12