編集部イチオシ

幻想世界の町と人

hakuba_rei_nのついのべまとめ。 不思議な世界の人々とか生き物とかお祭りとか。
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白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町で生まれた人はなにかひとつ、生涯身につける目印がある。青いリボン、子馬のブローチ、ひまわりのペンダント。「ふたつめの名前のようなものさ」男は盛装に似合わぬぼろぼろの「目印」をつけた友人たちを見回して。青い傘を晴天にかざし、花嫁の肩を大事に抱いて引き入れた。#twnovel

2015-01-14 16:17:07
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町の人の心には、その人だけのひとつの町。本屋だけの町やら古代遺跡やら人によって姿はさまざま。幼いころから時々夢で訪れるその町は見るたび広く深くなって。「いつかどこかで出会うんだ」旅の途中で、ふと読んだ本の中で。「一度出会うと夢は変わる」夢を追って旅をする。#twnovel

2014-12-09 07:02:12
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

机、えんぴつ、舟のオール。その町で造られる木製品には、どこかに種が埋められている。切り倒した木の分身を一粒埋めて、長い間使われて。ちびて、朽ちて、雨天にさらされて。「ありがとう」芽吹いた種は大事に育てる。廃屋はひとつの森になる。#twnovel

2014-11-18 17:51:51
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町を訪れた旅人は花の種を一粒植えていく。ひとつの願いのこもった種を町の人は祈りをこめて育ててゆく。「咲いたからって、叶うかどうかは知らないけど」家内安全、世界平和。種の祈りは数あれど。「託されたからには大事にするのが筋だから」桃色の花は重たげに首を垂れて。#twnovel

2014-11-04 15:14:00
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町の人は時計に心があるという。壊れるとき一番楽しい時間を指すからと。小学校の時計は4時間目の終了時刻。バーの時計は閉店の三十分前。「うちの時計は私の帰宅時刻で止まったの」仕事帰りの女は夜の町に微笑んで。「犬みたいでしょ?」時計は人知れず主人の帰りを待っている #twnovel

2014-08-19 10:49:01
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

真っ青なガラス瓶にお酒を詰めて、その口を溶かして密閉して。ロープに吊るして海へ沈める。割れてしまったらそれは海への供物。流されてしまったならいつかどこかで極上の美酒に。味は海のかみさまの思し召し。ころろん、ろん。ほんのり涙味の蒸留酒。それは人魚たちが作る酒。#twnovel

2014-06-15 07:33:55
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町の木々には葉の一枚一枚にちょっとした文章が書いてある。ジョークだらけの木。「水」とそれだけの木。「お元気ですか」誰ともつかぬ相手へ手紙を送り続ける木…。「木が書くのか神様が書くのか知らないけど」町の人もついつい苦笑。一枝落とすにも気を使うから、町は木々に鬱蒼と覆われている。

2014-06-05 22:03:15
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

鏡の町は小さな町。でも一歩入れば大きく見える、銀とガラスでできた町。町の中央広場は夏の間立ち入り禁止。たきぎを積んで、たくさんの鏡で光を集め。火がついたら夏のはじまり。その夜はありったけの鏡でその火を映し、町中を明るく照らし。そうして新しい季節を祝うのです。#twnovel

2014-05-24 08:04:19
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町の鳥は珈琲豆が大好きだ。町のカフェでは挽きたての豆を店先にまいてこの鳥を餌付けする。鳥がたくさん集まるカフェほど美味しい珈琲が飲めるというわけ。店主たちは鳥に気に入られようと挽き方を変えたりフレーバーをつけてみたり。鳥が舞うたびその店の珈琲がふわりと香る。#twnvday

2014-05-15 10:59:16
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町の人は地図が大好きだ。道ゆく人々のカバンの中には書き込みだらけの地図帳一冊。地図専門店もたくさんあって、星の数ほどの異国の島々や本の中の国々まで丁寧に紹介してくれる。ツリーマン、いつかどこかに根をおろし大樹となる定めの彼らは、お気に入りの地図帳片手に語らいながら午後を過ごす

2014-04-26 07:22:40
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

「オハヨウゴザイマス。今日ノ予言ヲ下シマス」この町には神様がいて、毎日こんな調子で語り出す。「今日ノ太陽ハ東カラ昇リ西ヘ沈ムデショウ。今日カ、明日カ、明後日カ、昨日カ、一昨年二、町ハズレノアノ花ガ咲クデショウ…」カキカキ。機械じかけの女神の声は甲高くも優しくて。#twnovel

2014-04-08 10:40:04
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町はずれに住む竜は、十年に一度火を吹いて町を全部焼き払う。「あの竜が何を考えてるか分からないけど」若い芸術家はせっせと絵筆を動かしながら。「きっかり十年ごと。次は三年後」それでもこの町には人が暮らす。ひとつの区切りをつけたい人が。#twnovel

2014-04-06 07:22:25
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

人生の半分を一緒に過ごした。人生の三分の二を一緒に過ごした。そうして歳を数える町がある。「何年生きたかも大事だけど」じいさんは膝の子猫をなでながら。「誰とどれだけ一緒にいたか、そういう基準も必要さ」おれはこの猫と人生の60分の1過ごした。50分の1になるまでは面倒見てやりたいね。

2014-03-29 07:09:22
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

パン屋も、本屋も、ブティックも。その日、その町で扱っていいのはたった三種の商品だけ。残りの商品は覆いをかけて売らない決まり。たくさんあると迷って悩んで買えないから。渾身のお勧めを選んで、飾りたてて、思い思いの工夫をこらし。そうして大事に大事に売るのです。 #twnovel

2014-03-05 22:49:53
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町では年に数度、雨の代わりに種が降る。白い綿毛がいっぱいついた小さな種はこのあたりでは芽吹かない。「きっと渡り鳥みたいに旅してるのね。もっと南でなら真っ青な花が咲くそうよ」種よ飛べ飛べ。町の人はくしゃみをしながら種を集め、風の吹く日に南の崖でまき散らす。#twnovel

2014-03-04 17:11:35
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町では雄猫たちはタキシードを身にまとう。雌猫はドレス、にしたいところだけれど邪魔になるから男装の麗人。むかしむかし猫に化けて町を飛び出したはいいけれど着替えを忘れて人に戻れなくなった魔法使いの王子を捜索した時以来の伝統とか。不機嫌にゃんこにお澄ましにゃんこ、そこは猫紳士の町。

2014-02-27 23:11:35
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町では秋の終わりに思い出の指輪や手袋や、小さくて軽いものが次々と消えるという。「この町には小人がいてね」町の人は首飾りを窓際に置いて。「彼らは火で温まることができない。だから暖かな思い出の宿ったもので暖をとるそうだ」悪い気はしないから貸してあげる。でも春には返してねと、そう。

2014-02-25 14:54:26
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

この町は遠い遠い昔に咲いた巨大な花の上にある。どこまで行っても砂ばかりの砂漠のなか、花の化石の硬い足場とその傍らのオアシスは隊商の憩いの場となった。人々が集い、彼らの落し物を苗床に次の花が育つ。そうしてこの町はゆっくりゆっくり大きくなって、砂漠の薔薇と呼ばれるようになったのさ。

2014-02-22 01:45:08
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町では人々の願いで天気が動く。「神様、明日はデートなので晴れにしてください」「神様、明日は嫌な会議なので大荒れにしてください」人々の願いに引っ張りまわされ、この町の天気は大体のところ不安定な曇り空。だから青い空が見えたとき、きっと沢山の人が幸せなのだと町の人は笑うのです。

2014-02-17 12:21:18
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町の人々は一日にたった一度しか言葉を発することができない。だから大抵は手話や筆談を使っている。声は大切な人に大切なことを伝えるために大事に大事にとってある。でも大事にしすぎてうっかりその日の分を使い忘れると、眠る前にどうしようもなく悲しく寂しくなるそうだ。#twnovel

2014-02-16 13:07:13
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町には沢山の雪だるま。大抵は家の前に3人4人、大きなホテルの前なんて100人くらい立っている。崩れたら急いで直して、雪に埋もれたら作り直して。冬よ、冬よ、生きた人は連れていくな。寂しいのなら雪だるまを連れてゆけ。雪だるまたちを優しく笑わせ、空を仰いで春を待つ。#twnovel

2014-02-16 12:16:16
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

この町には300年前の蜃気楼が重なっている。意思の疎通はできないけれど、町の人は蜃気楼の剣闘士に歓声あげたりコスプレしてまぎれこんだり古風なお嬢さんの着替えを拝んだり「あんたも300年後の人に見られてんのよ!」怒鳴られる蜃気楼の男の背をにやにやしながら小突いたり。#twnovel

2014-02-15 20:42:32
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

陽が暮れて星の町は動き出す。シリウス役所に青白い灯が、アンタレス図書館に赤い灯が入って、天の川の中央市場やカシオペア地区のブティック街も輝きだす。キセノン灯を持って歩くのは金星の少女だ。最後に中央広場の北極星街灯がつくと、町は夜空にあわせゆっくりゆっくり回りだす。#twnovel

2014-02-15 12:36:06
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

鷹の町の人々は男も女も目のふちを黒く塗り、鋭い眼光を持っている。優れた視力と第六感、断崖絶壁に住まう彼らの多くが空ゆく舟の関係者。船の甲板、港と名づけられただけの崖。その双方から疾風吹き荒れる町へ船を導く。(帰っておいで)彼らは空舟の羅針盤、町は座標のゼロ地点。#twnovel

2014-02-14 12:09:55
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

太陽の町と雨の町。太陽の町では年がら年中カンカン照りで、雨の町では年がら年中雨降りだ。だから二つの町の住人は助け合って暮らしている。町境にあるのは虹の通り。太陽の町からぴんと皮を張った打楽器が、雨の町からぴかぴかに磨かれた金管楽器が贈られて、さぁお祭りの始まりだ。#twnvday

2014-02-14 10:34:43