編集部イチオシ

幻想世界の町と人

hakuba_rei_nのついのべまとめ。 不思議な世界の人々とか生き物とかお祭りとか。
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白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

この町の中心には万の時を経た大樹がある。この町の人はその根元で生を終える。途中で死ぬことも傷つくこともできず、町の外で生きた日々と同じだけの日々を全うし、赤子に戻って産声のなかで消え失せる。この町の時は戻り続ける。この大樹が若木へ戻り一個の種に戻るまで、ずっとずっと。

2014-02-13 19:36:13
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

「見てろよ」割れたグラスで手を切った、はずだが彼の手には傷一つない。彼にはここで傷を負った過去がない。「なのに不思議だよな。あと何日かしたらここの傷が生々しくなってしばらく生死をさまようことになってる。なぁ、看病してくれないか」だいぶ若返った剣士は苦笑しつつ昔を語る。

2014-02-13 19:35:45
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町で新たに命が芽吹くことはない。一度町に入った者は二度と外に出られない。「この大たわけが! 子供を連れて入るとは!」怒鳴られうなだれるのは枯木のような少女を抱いたお母さん。「七年間、苦しまずに生かしてやれるなら」苦い顔の少年に頭を下げる。そこは左回り時計の町。#twnovel

2014-02-13 18:28:01
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

画家の町の人々は誰もが一流のパン屋であり、家具屋であり、花屋である。絵筆一本で何にでもなれる人々である。でも悲しいかな、彼らの多くが人物画だけは上手くない。「本物の画家になれ」絵の町のなか魔法使いがそう呟く。画家たちはみな自身を転生させる力を秘めたひとりの偉大な神である。

2014-02-12 22:42:42
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

画家の町の人々には死の間際、絵の町に自画像を描く権利がある。魂を得られるほどの絵であれば死後に絵の町でもう一度生きられる。それほどの出来でなければ絵は只のマネキンとなり、画家仲間の描いた棺へ絵の町の人々に納められもう一度弔われることになる。がらん、がらん。誰が描いたか弔鐘が鳴る。

2014-02-12 14:42:37
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

絵の町は画家の町の西側城壁の中にある。昔々、魔法使いが生涯をかけ描いた巨大な町の中、人や獣や不思議な生き物たちが命を持って動き始めた。「ね、ケーキ描いて!」美味しい絵が描ける画家はひっぱりだこ。魔法使い亡き今、彼らに必要なものを描くのが画家の町の人の仕事。#twnovel

2014-02-11 18:26:51
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

その町の蝶は硝子細工のような透明の美しい翅をもつという。「蒐集家や観光客はみんな夏に来るけれど」町の人は片目をつぶり、「今時期、冬眠しているときも綺麗だよ。沢山集まって、ステンドグラスみたいになって」光を集め、氷雪から卵を守り、孵化を見届けてから死ぬそうだ。#twnovel

2014-02-11 16:14:14
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

赤の都の建物は朱に赤銅、臙脂と多少の差はあれど赤く塗られて、朝でも昼でも黄昏時のように光っている。劫火の都、血染めの都、滅びを間近にした黄昏の都。かつて戦乱の時代にそう呼ばれ、民衆がそれを皮肉って壁を塗ったのが起源という。平和な今も人々の心はいまだ狂奔する赤の中。#twnovel

2014-02-11 12:04:22
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

「ただいま」「おかえりなさい」食事をして、シャワーを浴びて。いつもの日常。でも今日は妻が寝静まるのを待って、こっそりハンドバッグを開ける。#twnovel 「ありがとう」「なんのことだ」ポケットの茶色い小箱を軽く振った。からんころん。この箱も昨日帰ってくるまでは空だったんだが。

2014-02-10 12:23:32
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

この町では冬のある日、茶色い箱を持ち歩くという行事がある。大きさ不問。小脇に抱えたり鞄に忍ばせたり、中には胸の谷間に挟むなんて猛者もいたり。好きな人の箱へこっそりチョコを入れあうんだ。教えてくれたおじさまのポッケにはまるで指輪を入れるような定量ひとつの綺麗な小箱。#twnovel

2014-02-06 11:33:04
白馬 黎@創作アカ @hakuba_rei_n

永遠に眠りたいなら石像の町へ行くといい。黄昏に町へ入って、どこか素敵な場所を選んで(大聖堂は一番人気、城壁の上も景色が良くて人気だよ)眠りにつけば朝には石像のできあがり。痛くも苦しくもない、みんな穏やかに眠っている。ただ覚えておいで、石像の由来はだぁれも知らない。#twnovel

2014-02-05 11:43:39