【艦これ】トワイライト・マグロストーリー

皇歴40000年。海と、マグロを失った人類が黄昏の中に見た、一時の幻。
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GammaRay @sizuoka074

提督が死んだ。 最後に彼が言い残した言葉は、『マグロが見たい』だった。 赤城はもぬけの殻となった執務室から必要な書類を全て集め、部屋を後にした。 この部屋の主はもういない。174才での老衰死。長生きしたほうではなかったが、さりとて早死にしたほうでもない。

2015-06-21 02:21:52
GammaRay @sizuoka074

他の秘書官たちに書類を渡し、赤城は鎮守府の裏手にある山のほうへと出て行った。 小川のせせらぎが聞こえる。秋の日差しはすでに傾き始め、どこかもの悲しい空気が鬱蒼と生い茂る木々の合間に漂っている。 夕焼けに染まる海が、綺麗だ。 赤城はよくここで、彼と海を見たものだった。

2015-06-21 02:23:59
GammaRay @sizuoka074

◆◆◆◆◆ 「マグロを見たことはあるか」 提督はふいにそんなことを聞いてきた。赤城は、どう答えたらいいかわからなかったが、素直に「いいえ」と首を振った。彼はサイバネ義眼のサーボ音をキュ、と鳴らしながら、橙色に染まる、静かな小川の流れを見ていた。

2015-06-21 02:25:44
GammaRay @sizuoka074

「私が子供のころ、よく川でマグロを取ったものだった」「ここで、ですか?」「まさか。実家は信濃だよ。だが、川があればどこにでもマグロはいるものだ」 赤城は頷けなかった。赤城は、マグロを見たことがない。間宮が運営している食堂のメニューにはマグロの名前を見たことはある。

2015-06-21 02:28:58
GammaRay @sizuoka074

だがそれはスシやタタキとなった加工品のマグロだったし、そもそもそれらのマグロでさえ合成品やバイオマグロだ。本物の生きたマグロを見たことなど、この百余年の人生の中で一度もない。 「兄たちと釣り竿や網を手にして。一日中マグロを追いかけていた。畑仕事よりもずっと楽しかったよ」

2015-06-21 02:31:24
GammaRay @sizuoka074

「そのマグロは」「今はもういない」赤城の言葉を遮り、提督は丘の下に広がる海原を見た。「今世の中を生きている子供達で、マグロを見たことがある者はおそらく一人もいないだろう」そうして合成葉巻を咥え、サイバネ義手で火を付ける。燻る煙と、炙りサーモンの匂いが赤城の鼻をついた。

2015-06-21 02:34:43
GammaRay @sizuoka074

「寂しいことだな、赤城よ」もごもごと口の中で煙をくゆらせ、ふう、と長く、長く吐き出す。潮の混じった風が吹き、煙を夕焼けの向こうに運んだ。銀色とも橙ともつかない海の彼方に、提督はなにを見ていたのだろうか。それは幼いころの思い出か、あるいは悠然と泳ぐ天然マグロか。

2015-06-21 02:36:49
GammaRay @sizuoka074

◆◆◆◆◆ 『警告。十二より敵性艦隊多数を確認。発砲炎を確認。迎撃システムスタンバイ。着弾まで三十秒』 基地内に鳴り響く警告音。機械精霊達がありったけの警報を鳴らし、基地中の防衛設備が次々に展開していく。くぐもった発射音。第一次防衛システムが敵弾の能動的迎撃を試みているのだ。

2015-06-21 02:40:18
GammaRay @sizuoka074

提督がいなくなってからわずか三日で、戦局はめまぐるしく変化していた。敵性艦隊の強襲によって舞鶴の鎮守府が陥落し、続く沿岸砲撃によって本州は京都から二つに分かれた。敵は今や湾と化した中国地方を縦断し、比較的脆弱な日本海側の兵站部分を丸裸にしようとしていた。

2015-06-21 02:44:19
GammaRay @sizuoka074

『第二次迎撃システム作動。3・2・1・Launch(発射)』二次迎撃システムの作動音。噴進方式で射出された投網弾が空中で展開、飛来する砲弾を全て破壊した。 明石の考案した新型迎撃兵器はよく作動している。今のところは。だが敵本隊が到着すれば、この呉鎮守府も長くは保つまい。

2015-06-21 02:47:25
GammaRay @sizuoka074

「瑞鶴、翔鶴。基地内の稼働可能な水上戦力は?」赤城は提督執務室、その中に横倒しにされた檜の机に隠れながら、部屋の反対側にいる者達に尋ねた。「第一・第二艦隊はまだ南方から戻ってきていません。二級の重巡・航戦と、一線級の駆逐多数、軽空母群、夕張と川内型は町に出ています」瑞鶴が答えた。

2015-06-21 02:51:06
GammaRay @sizuoka074

彼女は本棚を引きずり倒し、その影に姉と一緒に隠れている。優れた木材である檜は頑丈だ。こうした敵襲に備えて、鎮守府の至るところには檜造りの家具がしつらえてある。「葛城と雲龍は?」「先日食べた鯖に当たりました。戦闘は不可能です」「兵器庫から艦載機を持ってこさせて。それぐらいなら」

2015-06-21 02:53:33
GammaRay @sizuoka074

「アイマム。行くわよ瑞鶴」「了解」「ご武運を」唸りを上げて敵艦載機が飛来し、機銃掃射で鎮守府の窓を破り、『夜戦な』と書道された掛け軸をずたずたに引き裂いたが、檜と黒檀の家具は割れなかった。「私たちも行きましょう」硝子の破片を浴びながら、赤城は加賀を連れて基地の外へと出て行った。

2015-06-21 02:56:23
GammaRay @sizuoka074

基地内は混乱の坩堝だった。敵は早期警戒システムに使われている暗号を解読し、こちらの基地設備を秘密裏に強襲してきた。海上防衛は遅きに過ぎ、赤城たち呉鎮守府は風前の灯火だった。 「赤城さん!こっちです!」格納庫の影にいた陽炎型の何隻かが手を振る。風切り音。「頭を下げて!!」

2015-06-21 02:59:59
GammaRay @sizuoka074

ドン、と鈍い音がし、赤城の見ている前で、格納庫の壁が粉々に吹き飛んだ。鉄筋コンクリートの打ち砕かれた粉塵が周囲に広がり、その場にいた全員が咳き込み、視界を奪われた。「いやあああ!!」陽炎の悲痛な叫び声。何人かの陽炎型が被弾したようだった。赤黒い血と肉片が飛び散っているのが見えた。

2015-06-21 03:03:42
GammaRay @sizuoka074

自分の無事を確認しながら、赤城は煙の中で目を凝らす。先ほどまで健在だった格納庫のすぐ傍に、カジキマグロが突き刺さっていた。「赤城さん!」さらに風切り音。二人は身を低くしながら崩れかけた格納庫から飛びすさった。大小様々な衝突音が入り乱れ、砲弾とコンクリートの破片がでたらめに飛び散る

2015-06-21 03:07:06
GammaRay @sizuoka074

赤城の鼻先を、イワシがかすめていった。降り注ぐサンマやダツ、キスといった小魚が次々と地面に突き刺さり、あるいは地面に激突し、爆発したように飛び散ったり、その場で勢いよく跳ね回ったりしている。この分では築地周辺の魚は取り尽くされているかもしれない。

2015-06-21 03:10:13
GammaRay @sizuoka074

赤城は地面を這うように身を低くしたまま、第一格納庫目がけて走った。まずは艤装を手に入れなければ、やがては砲弾の雨に掴まるだろう。リ級の放ったカツオ砲弾が地面に激突し、赤城目がけて滑走してくる。スズキやトドの大型魚も降り始めている。

2015-06-21 03:13:12
GammaRay @sizuoka074

「やれそうですか」なんとか格納庫内に滑り込むと、そこには一足先に辿り着いていた加賀が待ち受けていた。彼女は七輪で炭火をおこし、先ほど降り注いできたイワシ数匹を焼き、直接醤油をかけて香ばしく焼いているところだった。

2015-06-21 03:15:05
GammaRay @sizuoka074

「やります。あの方は、きっと私たちがそうあることをお望みでしょう」赤城は格納庫の壁に掛けられた弓を取り、きつくたすきを締め直した。

2015-06-21 03:17:41
GammaRay @sizuoka074

赤城は不適に笑うと、携帯七輪に火をおこし、加賀に小さく手をこまねいた。「カツオを火にくべるときが来ました。……焼き上がるまでにやつらを一匹残らず皆殺しにします」「ご随意に」ぱちん、と音を立てて炭が爆ぜると、赤城と加賀の二人は、暁の海へと飛び出していった。 (続かないはず)

2015-06-21 03:35:32
GammaRay @sizuoka074

真剣にバカなことをやると、どのような気持ちになるのかという即興テスト

2015-06-21 03:22:24