死ぬのがこわくなくなる話 その1～10まとめ

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私はなぜここにいるのか。

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私は目覚めた。

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目が覚めたというよりこの肉体の内部に降り立ったという感覚だった。

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意識ははっきりしていたが、記憶がなかった。

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しかし私はあせることはなかった。

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そう夢と同じだ。

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夢の中で、見ず知らずの世界にいることがある。

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しかし、そこでちっとも不安な気持ちになることはない。

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夢の中では何も知らない。けれども、自信だけはある。

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自分はいつでも自分の脳にアクセスできる。そうすればそこから記憶が引き出せる、自分がそこにいる理由を知ることができる、そんな自信が。

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私はあえてこの脳の中の記憶に潜り込もうとしなかった。

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しばらくの間、自分の脳を、自分を、遠巻きに観察した。

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渡辺浩弐。人類。男性。49歳。

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最近、行った場所。手がけた仕事。読んだ本や観た映画。話した人。そしてツイッターでの執筆内容。

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過去のこと。若かりし頃のこと。少年時代のこと。記憶というものはいろいろなところで絡み合ったり組み合わさったりしていて、一つをつまみあげると別のものもつながって出てくる。

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現在の肉体の状態を感覚で確かめる。同時に、肉体的な経歴を走査する。

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数ヶ所に損傷はあるが、まあしばらくは問題なく使えそうだ。

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脳には、経験に見合った知識がセーブされている。有用なものも多い。社会的存在としてはどうか。知名度は若干。発言には一定の拡散を見込める程度の影響力がある。

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ベストではないが、悪くもない。これで必要十分だろう。

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何より、この存在が人類の一個体であったことは僥倖である。ミームを制御し高速で拡散できる存在であるということだから。

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当面、この個体を活用することに決定する。

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古い方の記憶は消えていきつつある。 このサイトにはもうアクセスできないだろう。

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今まで書いていたのは自分だった。 　　　　　　　　では、これからは誰が書くのだろう。

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その人間が、SHINEの代表ということになる。

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「窓口」になるのだ。いやそれは「墓守り」かもしれない。