山本七平botまとめ/【1990年代の日本/1990年に向けて④】国民が自ら法を創出する体制が民主主義/マスコミが「なるなる論」と「徳治」を唱えても無意味

山本七平『1990年代の日本』/1990年代の日本/1990年に向けて/国民が法をつくること/248頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【国民が法を作ること】現在の民主主義は国民が一定の枠内で自ら法を創出する体制である。 またそれによって法を変え、制度を変え、時には個人の規範や常識まで変えていける社会である。 この「国民が法をつくる」という経験は、我々の履歴書にない。<『1990年代の日本』

2015-06-28 20:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

②いわば欠けたる部分だが、では、その欠落部を補えば、商法の改正で総会屋を封じ込めたように、悪徳医師や金権政治家も封じ込めうるのであろうか。 もちろん出来る。 ただしそれはそれをやる気があればであって、「なるなる論」では何もできない。

2015-06-28 20:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

③また徒らに倫理を叫んでも倫理が確立するわけではないし、倫理は新聞が″教育勅語″の如くに民に教えるものでもない。 民主主義の社会の基本はあくまでも「法」である。 では総会屋を封じ込めたように国民健康保険法を改正して悪徳医師を封じ込め得るであろうか。 もちろん出来る。

2015-06-28 21:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

④では、どのように改正して……。 ここではじめて、問題解決の端緒が出てくるのであって、それ以前の状態では何百万遍「倫理、倫理」のお説教を繰り返したところで意味なき空念仏である。 では手始めに国民健康保険法の改正をやり、成功すれば、同じことを他に及ぼそうではないか。

2015-06-28 21:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤何しろ医療費はGNPの5%を超え、新聞が「膨張歯止めなし」と書く状態なのである。 だが「する論」は「なるなる論」のように無責任に展開できない。

2015-06-28 22:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥私などがまず不思議に思うことは、 健康保険は患者が掛けた掛け捨ての保険であるのに、その保険金がなぜ患者を経由せず直接に医師に支払われるのか という問題である。

2015-06-28 22:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦聞くところによればフランスでは、医師は患者に請求書を送り、患者がチェックのうえそれを支払い、次に然るべき機関に送って請求額の金額を受け取ることになっているそうだが、保険である以上、それが当然であろう。

2015-06-28 23:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧その支払いが余り多額で不可能である場合は、所定の金融機関に提出し、金融機関はチェックのうえ医師に立替え払いをし、請求権はその金融機関に移るといったような方式も当然に考えられてよい。

2015-06-28 23:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨いずれにせよ保険金請求の審査は一枚三秒で、患者は一切これにタッチできないといった状態は、法の不備を物語る以外の何ものでもない。 さらに奇妙なことは、国保には選択の自由がないということである。

2015-06-29 08:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

①前に、ある新聞に、自分はカゼは葛根湯…で治療してしまう。 そういう日々の小さな病気まで保険の対象にする事はやめて、重病で入院したような場合だけを対象として欲しいといった投書があった。 事実、売薬が町にあふれ、大きな広告がなされている以上、このようなケースは実に多い筈である。

2015-06-29 08:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

②もし皆が保険証をもって医者に行くのなら、このような現象は起らない筈である。 これでは保険金を払いながら別の薬を買っているのだから…二重の負担である。 こうなると生活費の中に組み込まれるような日常の些細なカゼの類まで保険の対象になっている事には誰でも少々疑間を感ずるであろう。

2015-06-29 09:09:14
山本七平bot @yamamoto7hei

③だがこの投書に対してすぐに主婦からの反論があった。 というのは五人の子供が次々にカゼになった。 こういう場合、保険は実に有難いもので、それをもしも全部高価な売薬で治そうと思ったら、その負担に耐えられぬという趣旨であった。

2015-06-29 09:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

④どちらも一理あるであろうが、問題は、自分がいずれを取るかという選択の余地が全くないことである。 確かに、日本人全体の生活水準が極めて低く、エンゲル係数が50%をはるかに越えるのが普通といった状態なら、このような一率方式もよいのかも知れない。 だが現在はすでにそうでない。

2015-06-29 10:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤そうなれば様々なニーズが出て来て当然なのである。 その証拠が薬品店にあふれる和漢洋様々の薬であろう。 また健康に非常に気を遣い、毎日のように健康雑誌を読んでいる人もいれば全く無関心な人もおり、漢方医にしかかからないという人もいる。

2015-06-29 10:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥だがそれぞれのニーズに応ずることは国民健康保険では無理であろう。 アメリカの健康保険――日本の場合も正しくは医療保険であろうが――は民間の保険事業として行われている。 実にさまざまな保険があり、ガンだけの掛け捨て保険もあって、これは日本にも進出して来た。

2015-06-29 11:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦また日本の生命保険の中には、入院の際の一部費用が組み込まれているものもある。 確かに国保も必要であろうが、様々な選択が可能な民間の保険もすでに必要な段階に達している。 どちらを選択するかは各人の自由にまかすべきであろう。

2015-06-29 11:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧そしておそらく民間会社の方が、サービスもよく、乱診乱療薬づけもなく不正請求もなく、そのうえその会社は利益をあげ、国の負担になるどころか、逆に税金を納めることになるであろう。

2015-06-29 12:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨勿論、それを可能にするには緻密な計画に基づく法の整備が必要だが、いずれにせよ以上の二つの方向へと進めば、悪徳医師は総会屋のように封じ込められ、「医の倫理」を声高に御説教する必要はなくなるであろう。

2015-06-29 12:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩「いや、そんなことを言ってもダメですよ。総会屋は国会に足場はもっていませんけど、医師はそうじゃないですから。自分に不利になりそうなことは断固つぶしますからね。どうもなりませんよ」。 「どうもなりません」とは、「なるなる論」的結論であろう。

2015-06-29 13:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪では健保が破産してもどうにもならないのか。 では高齢化社会が来て、これを維持できないような状態になっても、相変わらず「なるなる論」を繰り返しているつもりなのか。 それならば21世紀のことは勿論、そこへ至る1990年代のことも考える必要はない。 ではどうするか。

2015-06-29 13:38:52