山本七平botまとめ/【21世紀への課題】日本社会に欠けている「科学」と「民主主義」/「近思録的擬似科学」と「民主主義もどき」な伝統を自覚し、欠けた部分を補うのが21世紀の日本の課題

山本七平『1990年代の日本』/1990年代の日本/21世紀への課題/263頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【21世紀への課題】明治も過去を消そうとした。当時の学生は「我々には歴史がない」といってベルツを驚かした。戦後も戦前を消そうとした。そしてベルツを驚かした学生が前記の言葉に続けたように「我々に歴史があるとすれば、消去すべき恥ずべき歴史しかない」と考えた。<『1990年代の日本』

2015-06-30 12:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

②このような考え方は徳川時代にもあり、林羅山は日本人は東夷だが、天皇は呉の泰自の子孫すなわち中国人であるゆえに貴いと考え、また佐藤直方は、記紀に記された日本の歴史は、まことに恥ずべきものと考えた。

2015-06-30 12:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

③これもまた日本の伝統の一つかも知れないが、この劣等感が裏返しとなると、奇妙な優越感となる。 これは山鹿素行にもあるし、戦前の昭和の日本人にもあった。 それが戦後にまた裏返しとなった。

2015-06-30 13:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

④だが、こういう状態、 劣等史観やその裏返しの優越史観、万邦無比的な超国家史観やその裏返しの罪悪史観、 いわば同根の表と裏のような状態を離れてみれば、我々は貴重な遺産を継承しているが、同時に欠けた点がある事もまた認めねばならない。 どの民族の履歴書も完壁なものではあるまい。

2015-06-30 13:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤諸民族の中の一民族である日本人もまた同じであって、貴重な遺産もあれば、欠けた点もあって当然なのである。 要はそれを明確に自覚して、遺産はできうる限り活用し、欠けた点を補ってそれを自らの伝統に加え、次代に手わたせばそれでよいのであろう。

2015-06-30 14:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥現在がすでにそうであるように、21世紀は、おそらくは武力の時代でなく、経済が基盤となる時代であろう。 前述のようにソビエトの威信の低下は決して武力の低下によるのではない。 その武力は確かに今も世界を圧している。

2015-06-30 14:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦だが現実の問題として、それは少しもソビエトの威信を向上させず、諸民族に信頼感を抱かせるものでもない。 過去の人類の歴史は決してこうではなかったことを思うとき、私はここに、全人類的な意識の変化がすでに芽生えており、この傾向は今後ともますます強くなって行くと思う。

2015-06-30 15:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧われわれは、この時代に対処するための、貴重な遺産をもっている。 すなわち式目的能力主義、一揆的集団主義、礼楽的な情熱的一体感の秩序、それに要請される九徳的リーダー、勤労絶対化の規範などは、20世紀のわれわれが創出したものでなく、文化的蓄積という遺産なのである。

2015-06-30 15:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨これからの時代にもこれらの遺産を十分に活用しつつ、これを次代に申し送る義務があるであろう。 国際的競争に於て油断は常に大敵である。 すでに記したように、アメリカに対する日本の優位は、実は、紙一重の差に等しいのである。

2015-06-30 16:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そしてこの差を生じた重要な要素が、実に、遺産にあることを忘れてはならないであろう。 と同時にわれわれに欠けた点があることは否定できない。 一つが科学であり、一つが民主主義であった。 これは、過去の歴史をいかに探ってもない。

2015-06-30 16:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪もちろん、「進化論もどき」「機械論的宇宙論もどき」はあったし、「民主主義もどき」もあった。 しかし加藤弘之が強く主張した「科学」は『近思録』的であり、これは一見科学的な「神話」にすぎない。

2015-06-30 17:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫私は戦後、ある官学的社会科学者が、 「マルクス主義は正しい、なぜならそれは科学であるから」 と言ったとき、反射的に加藤弘之を思い出し、 「なるほど、この系統は生きているのだな」 と思った。

2015-06-30 17:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬加藤弘之の『吾国体と基督教』は、科学、科学を連呼しつつ、最終的結論は「天皇制が絶対であることの科学的証明」に終っているのである。 いわば 「天皇制は正しい、なぜならそれは科学的に証明できるから」 となっている。

2015-06-30 18:09:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭これは「科学」ではないが、この『近思録』的擬似科学を、われわれは常に絶対化したがる傾向がある。 従って「科学だ」といわれれば沈黙し、同時にそれへの反撥としての「反科学的自然順応主義」が出てくる。

2015-06-30 18:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮これもまた日本に於ける最も強固な伝統だが、いずれも「科学」には関係あるまい。 この点は常に要心しなければなるまい。 同じことは戦後の「民主主義もどき」にもいえる。

2015-06-30 19:09:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯我々はこの点をはっきりと自覚し、まず「法を王の上に置き」「自らの手で法を作る」という作業から始めるべきであろう。 幸いその萌芽は既に現われているから、これを育成していき、政治でも、教育でも、医療でも、倫理を叫ぶ前にまず「法がどのようにあるべきか」を考える事から始めるべきである。

2015-06-30 19:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰もちろん法は万能ではない。 しかし、法なき野放し状態で徒らに倫理を叫ぶことは、民主主義よりむしろ聖人政治の待望であることを自覚すべきであろう。 「星享批判」から一歩も前進していないような状態を21世紀に申し送るべきではあるまい。

2015-06-30 20:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱これらの課題を、1990年のわれわれの課題にし、自らの履歴をよく考えた上でその課題を解決して、この日本を21世紀に申し送っていくことが、残された20世紀のこんにちに、われわれが行うべきことではないかと思う。

2015-06-30 20:38:52