黄昏町徘徊記、ある少女の記録

つけるのはなしをしんじるな @kinoakira

『第六日目：今日は水が流れていない配管の中で寝ることにする、結構快適。あんまり悪いことはなかったしいい日だっ（紅い染み）』 #黄昏徘徊記

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『失敗した。前のところまで書いてたら配管のもっと奥のほうで何かがもそもそと動く気配がした。なんだろって思った時には、金色の目が私の顔のところギリギリにあった。爪が肌に食い込んで、喉から空気が抜けていくのがわかった。気がついたら…また街の路地。』 #黄昏徘徊記

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『荷物がなくならなくてよかった。近くの水たまりでよーく見てみたら、なんだか両方の目が、猫さんみたいに金色で瞳孔が縦に長くなっている。これで、暗いところもよく見えるかなあ。そしたらちょっと便利になるかも』 #黄昏徘徊記

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『第七日目：「髭男爵だ…」「初対面の人間に失礼だな君」心の声を口に出していたらしい。「すいません、ルネッサンスさん」「訂正する気がないね、さては！？」だって男爵ではないか。大昔の貴族のようなヒラヒラしたなんか燕尾服にマント、まるきり吸血鬼。』 #黄昏徘徊記

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『結構かっこいいから雰囲気があるものの、普通にやったらタダの痛いコスプレ未満の奇抜仮装おじさんだ。「それにしても…髭がないのに髭男爵呼ばわりを受けるとは」「その節は申し訳ないです」なんか思いつかなかったのだ、仕方がない。「ところで、お嬢さん」』 #黄昏徘徊記

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『「なんですか、吸血鬼さん」「吸血…鬼、ではないよ。私は、鬼になどなれるはずもない、ただの人間さ。吸血人間とでも呼んでくれ」「カッコ悪い」かっこよさ当社比3/1。男爵さんは可笑しそうに肩を震わせる。「そうかね。何であるかはここでは関係ないさ」』 #黄昏徘徊記

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『「異形が欲しくはないかい、猫瞳のお嬢さん」「いぎょう？」なんだろう、それは。「知らないのか。君のその瞳や毛皮のようなものさ。…あると便利だがありすぎると人間じゃなくなる」それは薄々わかっていた。「そして、人に感染すことができる」そっちは初耳』 #黄昏徘徊記

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『ここは物騒だ。身を守るには武器がいる。怖いけど、家に帰る前にどうにかなったら元も子もない。「ほしいです！」「躊躇ないね、君。まあわかっていると思うが、死ぬよ？私が君を殺す」「…それ男爵さんのメリットはあるんですか」「……さあね」自分で言っといて』 #黄昏徘徊記

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『「君が私の【牙】を受け取ってくれれば、君がそれを使った時に私を思い出すだろう。…私は君が怪物になり果なければ覚えててもらえるというわけさ」「なんですか、それ」まるで。「こっから出たくないんですか」「実を言うと半ば諦めている。…それから少しの酔狂だ」』 #黄昏徘徊記

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『「酔狂…」なるほど、誰しも事情がある。「いいですよ」「…躊躇がないな」考えて答えが出ることじゃないし「男爵のこと、覚えておいても悪くないです」ぼくだって日記をつけている。もしも、ぼくがいなくなってしまった時のために。「痛くないようにお願いします」「努力する」』 #黄昏徘徊記

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『男爵が大きく口を開くとびっくりするほど長い牙が口に収まっていた。よく喋る時に邪魔じゃないなあ。っていうかどうやってしまってるのかなあ。あ、これ聞いておかないと。「あ」聞く前に首の根元に牙が埋まり肉が一塊さよならする。ダイナミック』 #黄昏徘徊記

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『ぼくのあった何人かの人のことは、覚えておこうと思う。もちろん男爵のことも』 #黄昏徘徊記

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『第八日目：目が覚めるとそこは学校だった。知らない学校、チャイムの音で目が覚める。学校の床ってホコリとワックスの匂いがするよね。保健室のベッドで寝たかった。背中が痛い』 #黄昏徘徊記

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『トイレにいって鏡を覗き込む。なんかすごいことになってる。顔はなんか毛皮でもふもふしてるし、目は金色だし、男爵からもらった牙を剥いてみるとどう見ても猫っぽい。「男爵はもうちょっとかっこよかったのに」まあしょうがないか。学校って結構いろいろあるし』 #黄昏徘徊記

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『水道で水を飲んで顔を洗い、一息つくと窓の外の校庭の花壇にはツツジが咲いているのが見えた。しめしめ、甘いものなんてもう随分と口にしていない。お行儀は悪いけれど、この際だからもらっておこう』 #黄昏徘徊記

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『ツツジの花は夕陽を浴びてなんだか変な感じの色になっていたが、元気に咲いていた。ぷちっと一つ摘んでみる。「あまーい！」あまい、甘いってこんなに幸せだっけ。まだ結構咲いている、一つまた一つと摘んで夢中になっていると、後ろに何かがどすんと立った気配がした』 #黄昏徘徊記

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『くるりと振り返る。まもなく、僕の体に鱗が大量についた太い丸太のようなものが食い込むのがわかった。「う」その鱗はキラキラと夕日に光って綺麗で、引き伸ばされた時間の中で見蕩れてしまう。でも、そんなの本当はやっぱり一瞬で。校庭を取り囲んでいるフェンスに吹き飛ばされた』 #黄昏徘徊記

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『背骨が折れたのか、今までにない激痛の中で最後に見えたのは。ぼくに背を向けて飛んでいく。大きな竜の姿だった』 #黄昏徘徊記

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『第九日目：巨大な爬虫類に吹き飛ばされてから、気がついたら地下道にいた。こういう話でお約束なのはたいてい神様が出てきて、「お前は手違いで死んでしまった！お詫びに異世界チートをさせてあげよう！」とかいうのではないのか。最近諦めてきたけど現実は非情である』 #黄昏徘徊記

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『「まあ、異世界チートする予定はぼくにはないけどねー」独り言を言いながら地下道をの壁を見ると、毛むくじゃらで牙を剥き出したおんなのこが泣いている絵があった。なんだか、ぼくに似ている気もする。「んー、キュビズム」ゲルテナ…じゃなかったゲルニカっていう絵に似ている』 #黄昏徘徊記

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『「芸術性はあるけど、一般的には受け入れ難い画風だねえ、君ってば」まあ、ぼくは嫌いじゃないけどね。スマホはいつの間にか壊れてしまったので写真が撮れないのが残念だ。ぼくはその絵をじっくりと鑑賞してから歩き出した。芸術は心を豊かにする、誰かがそう言っていた。』 #黄昏徘徊記

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『少し歩いていると、後ろから誰かが歩いてくるのがわかった。立ち止まる。後ろの足音が止まる。歩く、足音も歩く。早足、早くなる。うん、つけられてるね、これは。ゆっくりと、歩いて呼吸を整える。話しかけてこないということは悪い人である可能性が高い。ゆっくり呼吸を整える』 #黄昏徘徊記

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『よーい、どん！　後ろの足音が慌てたように足踏みする。毛皮のおかげでもともとより足が少し速くなっている。猫の目で、どこを走ればいいかわかる。追いかけてくる足音が遠のく。ぼくの勝ちかなーなんて思っていたのは束の間。』 #黄昏徘徊記

つけるのはなしをしんじるな @kinoakira

『歩道橋の下を駆け抜けようとした時、ぼくは前しか見ていなかった。当たり前だけどよそ見してる暇があったら後ろの人をまく為に、横道に逃げ込める。それがだめだった。歩道橋の上に人がいるとか、その人が手すりに足をかけていたとか、見えてなかった。』 #黄昏徘徊記

つけるのはなしをしんじるな @kinoakira

『下に差し掛かった時、重りのついた網が降ってきた。重りだけならどうにか出来たけど、網はもがけばもがくほどまとわりついて。結論を言えば絡みついた網で身動きが取れなくなって捕まった。あーあ。』 #黄昏徘徊記