黄昏町徘徊記、ある少女の記録

つけるのはなしをしんじるな @kinoakira

『網に絡まったまま、歩道橋の上に居たらしい人と、あとから追いついてきた人にズルズルと引きずられていった。猟友会に捕獲された猪ってこんな気分なのかなーと考えていたら、なんだか大勢の人がいるところに来た。みんなぼくを怖い目で見る。』 #黄昏徘徊記

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『「…ぷるぷる、ぼく悪いスライムじゃないよ」「喋った…」「怪物が喋ったぞ」「殺せ、知能が高い奴は後々厄介だ」「牙がある、早く殺せ！」やだ、渾身のボケが滑ったぞどうしよう。ボケは意味を聞かれるのとスルーされる時が一番辛いよ。一人くらいネタわかって』 #黄昏徘徊記

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『「あのー、すいません。不必要にボケたことは謝りますから網外してください。ちょっとこれ本当に絡まってつらいです」訴えも虚しく、ズルズルと人の波を割って再び引きずられていくぼく。目の前には、銀色の、貯水槽。ばこんと蓋が外されて中からすえた臭いがする。』 #黄昏徘徊記

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『これ知ってるぞ。罠とかにかかったネズミを水の中に落として溺死させるやつだ。ガジガジと網にかじりついてみる、少し網がほころんだ。頑張ればどうにかなりそうだ。「オイ！早くしろ！そいつ逃げようとしているぞ！」そりゃそうです、溺死って辛そうだし、その水汚いでしょ絶対』#黄昏徘徊記

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『貯水槽の上に引きずり上げられる。その時、見えた。僕を引きずる男の人の腕に、鱗があるのが。「あー」もしかして、この人も、ぼくと同じなの隠してこの人達と一緒にいるのだろうか。もしも、この人のそれがバレたらどうなるのだろうか。』 #黄昏徘徊記

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『視線に気がついたのか、男の人は少し苦い顔をしながら捲くっていた袖を伸ばして鱗を隠した。「…すまない」「いいですよ」きっとこの人は寂しがり屋なんだろうなあ。それとも別の理由？「多分また。コンティニューするだけですし」ゲーム脳の若者を装いつつ笑う。』 #黄昏徘徊記

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『「怖いのは、いっしょってわかりましたから」だから、貯水槽に投げ込まれる寸前に「今度は怖くないといいです」鱗の人は驚いたように目を丸くした。彼も、ぼくと同じようにそう遠くないうちにここに投げ込まれるのだろう。だったら、おあいこだ。汚い水を沢山飲んで意識は途絶えた』 #黄昏徘徊記

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『第十日目：気がつくとまた学校だった。死ぬたびにワープするのは慣れたけど、そろそろ別の場所に行きたい。腕に違和感があるので触ってみると二の腕あたりに鱗が出来ていた。竜のやつほど綺麗じゃないけど、魚っぽい。…もしかしてあの人、別のところで溺れたのかな』 #黄昏徘徊記

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『座っているのは何故か教室に机と椅子のセットがぼくが座ってる一つきりの変な教室だった。どんな特別教室なんだ。黒板には「うそつき」と大きな文字で書いてあった。「うそつき、うそつきかー」椅子から立ち上がって文字の傍に行って見てみる。随分背の高い人が書いたらしい。』 #黄昏徘徊記

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『とりあえず、教室を出てウロウロ。「…図書室」本は好きだ。荒んだ心を癒すために少し寄ってみてもいいかもしれない。立て付けの悪い扉を力任せに開こうとすると外れてしまった。しょうがないから入口に立てかけておく。誰か直してくれますよーに。』 #黄昏徘徊記

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『「えーっと、新耳袋、耳袋、フランケンシュタイン、オカルト、ハンニバル、フロムヘル…」順番がぐちゃぐちゃになった本棚を順番に見ていく。実話怪談に怪奇小説、サスペンスとオドロオドロしさ満載の本のチョイスはいっそ悪意というか愉快さを感じられる。』 #黄昏徘徊記

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『もう少し、こう…明るくなれるチョイスにしなかったのか。ここの司書さんは随分と偏った趣味を持っているみたいだ。「あ、オズの魔法使いある」これってサスペンスカウントなのかな。それとも、ホラーカウント？なんにしても基準がわからない。アリスはないんだよなー。』 #黄昏徘徊記

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『「ラブクラフト全集…インスマウスを覆う影」鱗ができたし読み返すのも悪くない。何冊か選び出して、ゆっくりと読書して一休みすることにする。何冊か借りたい気もするが貸出カードの作り方はわからないし返せるあてはない。ここで読んでしまおう。』 #黄昏徘徊記

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『読みたかった本をたくさん見つけた。 とりあえずどうしようか、すこしはゆっくりできるし屋上に行こう。 夕焼けに染まる街をきっと一望できるし。 …あんまし良い眺めじゃなさそうだなあ。』 ＃黄昏徘徊記

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『屋上の扉は物凄い軋んだ音を立てて開いた。「おー結構眺めが……」 よくなかった。目の前に、巨大な翼を持った爬虫類が丸まって眠っていた。 どう見てもドラゴン。すごいドラゴン、もうすっごいドラゴン。あの尻尾は見覚えがある、ぼくをころしたやつだ。』 ＃黄昏徘徊記

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『そうっとそのまま後退して、階段に戻ろうとした。けど、遅かった。盛大に軋んだ音を立てたせいで彼の昼寝？夕寝？を邪魔したみたいだ。そもそも男なのか知らないけども。竜の瞳は夕焼けと同じ色をしている。鮮烈な、赤。ゆっくりだけどびっくりするほど早い動きで僕は銜えられた』 #黄昏徘徊記

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『手に抱えていた本がバサバサと屋上の床に落ちた。グッバイ、ぼくの安息の時。そのまま竜は翼を広げ、勢いよく飛び立ち、校庭に降り立った。そして、ぼくは、ぶおんぶおんと振り回された挙句、二階の教室にアクション映画よろしく背中から窓ガラスをぶち破りながらダイブした』 #黄昏徘徊記

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『無造作に作られた机の山に勢いよく突っ込む。これで死なないということはぼくも大概人外じみて来たらしい、前からだけど。足が両方共変な方向に曲がっていて立てない。目の前には、巨大な、龍の顔。「…こんにちは、会うのは二回目だけど顔を見るのは初めてだね」』 #黄昏徘徊記

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『竜は答えない。ただ、無感情な瞳だけが、ぼくを見て。大きな口が開いた時に観念して目をつぶった。あーあ、くやしいなあ。なんであんなにかっこいいんだ。』 #黄昏徘徊記

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『第十二日目：竜に丸呑みされるという今時RPGでもしそうにない貴重な体験からニューゲームしたらしいぼくはガードレールに腰掛けていた。手が謎の粉まみれになってる、これなんていうんだろう。一生懸命払いながら、ふと顔に涙があることに気がついた。何で泣いてたんだろ』 #黄昏徘徊記

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『目尻を拭いながら歩いているとボロボロになったスーツを来た男の人が向こうから来た。ぼくが身構えると、彼は両手を挙げて「泣いてるじゃないか」といった。いや別に悲しくて泣いてるわけじゃないよ。多分ね。「怖かったろう」怖…うん、怖か…怖かった？』 #黄昏徘徊記

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『ぼくがどう答えるか悩んでいると、男の人はぐいぐいとぼくを引っ張っていく。ちくしょう、この町の人はどいつもこいつも話を聞かない気だな！話聞いてくれたのは男爵とご飯くれた男の人くらいだよ。連れて行かれた先にはガレージがあった。結構大きい、お金持ちかな？』 #黄昏徘徊記

つけるのはなしをしんじるな @kinoakira

『「あの、ぼく」「ここなら安全だ」「あの」「ここなら安全だ」「用事が」「ここなら安全だ」あっこれダメ臭い。凄いダメな感じする。具体的に言うとRPGの村人だ。モブだ。何回話しかけてもセリフ変わらない感じの人だ。もっと言うと、この人は壊れてる。』 #黄昏徘徊記

つけるのはなしをしんじるな @kinoakira

『ぼくだって、この町に来てからだいぶ元の女子中学生から力が強くなった。毛皮だってあるし鱗があって眼だって普通じゃないし、ちょっと喋れば牙が見える。振り払おうとしてもすごい力で引き摺られる。聞いたことがある、おかしくなった人は普通の人以上の力が出るんだ。』 #黄昏徘徊記

つけるのはなしをしんじるな @kinoakira

『じたばたしているとガレージの中まであっという間に引き込まれてしまった。いっぱい人がいる。あっこれ覚えがあるぞー。「あの、ごめんなさい。すぐ出て行くのでごめんなさい。引っ張られただけなんですごめんなさい」語尾をごめんなさいにしながらぼくは懇願する』 #黄昏徘徊記