小説【パラレル☆ナイトメア】
- hanna_secret
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#平行悪夢 150/172 そこには、たった3行だけ―。 『リエを幸せにできるのはお前だけだし、 お前を幸せにできるのもリエだけだよ。 真剣に生きろ。小山慶一郎ならやれる。』 「これっ…」 「“分かってる”って言ったよね? …さっき、彼。」 分かって、る…?
2015-07-14 19:00:13#平行悪夢 151/172 急いでエントランスに出ると、 やっぱりそこにいたのは兄貴だった。 「お前、まだ生きてたのかよ。」 兄貴が慶ちゃんを睨む。 慶ちゃんも目を逸らさない。 「盗んだ金は、俺の部屋のベッドの下にあります! 全部持ってってもらって構いません!」
2015-07-14 21:02:45#平行悪夢 152/172 「利子付けろって言うなら、 ちゃんと働いて払います!」 「…できねー事言って」 「やります!できなくても、やりますっ!」 兄貴は黙って慶ちゃんを見つめた。 「だ、だからっ!!」 「…何?」 「だ、から…あのっ…」 「何だよ。」 「あ、のっ…!」
2015-07-14 21:02:53#平行悪夢 153/172 慶ちゃんがチラッと私を見た。 「あの…リエと…リエとっ、結婚させてくださいっ!!」 …えっ?! 「絶対幸せにします!」 「は?無理に決まっ」 「だから!無理でもやんだよ俺はっ!」 慶ちゃんがこちらを向く。 「ごめん…俺ダメな奴で。」
2015-07-14 21:03:05#平行悪夢 154/172 「…俺なんかじゃ、幸せにできない、かな?」 そんなこと、っ! 鼻の奥がツンとするのを、ぐっと我慢する。 「バッカじゃないの?…調子乗んなよ。」 「えっ」 「私が慶ちゃんを幸せにしてあげんだから、っ。」 私は、少し無理矢理に微笑んだ。
2015-07-14 21:03:12#平行悪夢 155/172 「…条件がある。」 「えっ?」 兄貴が上を指さす。 「無事、リエを部屋まで送り届けられたら―」 「送り届けられ、たら…?」 「…好きにしろ、っ。」 兄貴は、私と目も合さずに歩きだす。 「それって…」 …慶ちゃんと一緒にいても…いいってこと?
2015-07-14 21:03:20#平行悪夢 156/172 「よっしゃ、帰るぞ、リエ♡」 慶ちゃんと一緒に外に出る…が。 上空には、あの黒い集団が旋回していた。 「ま。俺に任せなさい☆」 慶ちゃんはボートに乗ると、 慣れた手つきでエンジンを掛けた。 ―本当に、戻ったんだ。 私もその後ろに飛び乗る。
2015-07-16 23:04:43#平行悪夢 157/172 「リエちゃん。」 シゲさんが呼び止める。 「これ餞別…ってか、婚約祝いね。」 ぽん、と投げてくれたのは、 小型のレーザー銃。 「ありがとっ、シゲさん!」 ボートはふわりと重力から自由になる。 「リエ、しっかり掴まってろよ!」 「うんっ。」
2015-07-15 07:56:11#平行悪夢 158/172 ボートが風に乗ると、黒い集団も一緒に付いて来た。 私は片手だけ掴まって、身を乗り出して銃で応戦する。 「…お前、たくましくなったな。」 「バッカじゃないの? 慶ちゃん守ったのは、私なんだからっ!」 ボートは海の上を旋回するが、敵は減らない―。
2015-07-15 07:56:23#平行悪夢 159/172 その時。 アナログエンジンの凄まじい轟音と、 排気ガスの臭いが、すぐ近くを横切った。 「悪ぃ、邪魔したー!」 ゴーグルとマスクの下で、兄貴が微笑む。 小型飛行機の翼と轟音で、敵が俄に散った。 「先行ってるぞー!」 「サンキュ、兄貴ーっ!」
2015-07-15 07:56:31#平行悪夢 160/172 ボートは滑らかに蛇行して、敵を散らしながら飛ぶ。 ふと見下ろした歓楽街に、祐也の郭が見えた。 「…あーっ!!」 「な、何っ?どーしたのっ?!」 「あれっ!祐也だっ!!」 一番大きな塔の一番大きな窓で、 紅い打掛が大きく手を振っている。
2015-07-15 15:30:46#平行悪夢 161/172 「…んだよ、お前いつの間に、 遊郭の男なんかと知り合ってんだよっ。」 「…慶ちゃんが双子と遊んでる間に。」 「っ…!」 へへ、ちょっと意地悪☆ 「リエちゃーーん♡」 銀色の髪を風に揺らしながら手を振っている。 「祐也ー!ありがとーー!」
2015-07-15 15:30:52#平行悪夢 162/172 「…ひゃっ!!」 突然、ボートは垂直に上昇する。 「ちょ、慶ちゃんっ!」 慶ちゃんは黙ったまま―。 ボートはスモッグを抜けて、明るい朝焼けの中に出た。 ふと、昨日の朝見た朝焼けと重なる。 …あれから1日経ったんだ。 目を閉じて深呼吸する。
2015-07-15 15:30:59#平行悪夢 163/172 冷たく透き通った空気が、 体の中を満たしていく―。 ボートはゆっくり、空中で停止した。 「…慶ちゃん?」 「…」 「慶ちゃ、っ…?!」 呼吸が、止まる。 ―正確に言えば、止められる。 慶ちゃんの柔らかで温かい唇が、 私の唇を塞いだ―。
2015-07-15 15:31:04#平行悪夢 164/172 私は暫く放心状態だった。 …ふぁーすと、きす。 「…大事にするから、っ。」 慶ちゃんが、視線を逸らして言う。 「誰より幸せにするから、だから、 …俺だけ見てろ、っ。」 「…生意気。」 少し微笑んで、今度は私からキスを返した。 ***
2015-07-15 15:31:10#平行悪夢 165/172 《件名》生放送見ました。 無事届いてたみたいですね。素敵なチャンカパーナでした(笑)。 ところで、あんまり信号を送ると、やっぱり幾分か次元が歪むことが分かったから、研究が進むまで、メールは送らないことにする。これが小山へのラストメールです。
2015-07-15 20:19:12#平行悪夢 166/172 あなたのせいで、結婚式に出席する羽目になりました。 式には、新婦の兄と桃源郭のNo.1も出席します。 新郎と俺を含むその4ショットを送れないのが残念だな。 小山の分までおめでとうを伝えておきます。 それでは、今後のご活躍、遠くから見守っています。
2015-07-15 20:19:45#平行悪夢 167/172 「結婚…するんだ。」 おめでとうの気持ちが80%、 そして、残りの20%は―。 あの刺激的な1日の記憶は、 ボートの独特な浮遊感と共に、 俺の中に、濃く残っていた。 「…おめでとう、リエ。」 誰もいない会議室で、小さく呟いてみる。
2015-07-15 20:20:07#平行悪夢 168/172 俺は、テーブルの上の資料に視線を落とす。 取材テーマ:「運命の恋、赤い糸を信じますか?」 初めて取材を受ける女性誌。 「…どういうテンションで答えたらいいんだろ?」 テーマも抽象的だし…赤い糸、か。 今の俺のモヤモヤを以て、どう話したらいい?
2015-07-15 21:52:45#平行悪夢 169/172 またリエの横顔を思い出す。 あの時、もし俺がキスしてたら―。 「…ばっかじゃないの。」 小さく呟いた独り言に、 彼女の乱暴な口調が重なった。 「すみませんっ、お待たせしましたー。」 会議室のドアが開き、スーツ姿の女性が入って来る。
2015-07-15 21:52:52#平行悪夢 170/172 「今日はよろしくお願いします!」 「いえ、こちらこそよろし」 ―時間が、止まった。 「今回の記事担当させて頂きます、佐伯梨恵と申します。」 長く黒い髪、白い頬、茶色い瞳―。 「ど、も…NEWSの小山慶一郎です。」 それは、この世界の―リエ。
2015-07-15 21:53:01#平行悪夢 171/172 「早速なんですが、小山さん―」 彼女は手際よくボイスレコーダーをセットすると、 真っ直ぐな瞳で俺を見る。 「―赤い糸って、信じますか?」 …その唇でその質問は、ずるい。 「あの…小山さん?」 「あ、っと…ごめんなさい。えっと…」
2015-07-15 23:00:42#平行悪夢 172/172 例えばそれは、 世界が変わっても、同じ誰かに巡り逢える奇跡―。 「―はい、信じます。」 俺は、数日振りのリエの真っ直ぐな視線に、ふわり微笑んだ。 =END= But the love continues in another world…♡
2015-07-15 23:00:50