《空に手を》番外編

すばるくんのお話の店長さん主役のスピンオフです。
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hikari♡∞妄想♡ @love_kamome

《空に手を》番外編 -1 よく、優しいねって言われる。 家族にも友達にも、仕事仲間にも今まで付き合った女の子にも。 言われる度に違和感がある。 そりゃあ確かに、イヤなやつじゃないとは思うけど。

2015-06-24 22:47:53
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《空に手を》番外編 -2 「すいません、グラスビール...」 カウンターの常連さんからオーダーされて、姿勢を正す。 最近よく来てくれる、やけに美人なこのOLさん、いつもランチでビール飲んでくけど、仕事大丈夫なのかなぁ。

2015-06-24 22:48:09
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《空に手を》番外編 -3 んーと。 とにかく。 よくわかんないけど、たぶん俺は、人の気持ちに鈍感なだけなんだと思う。 その証拠に、いつも知らないうちに惚れられて、知らないうちに飽きられて、知らないうちにフラれる。 知らないうちにフラれるってことはないか。

2015-06-24 22:48:22
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《空に手を》番外編 -4 でもまあとにかく、そんな感じ。 だから、怖い。 自分が知らないうちに誰かを傷つけてるんじゃないかって。 だから俺の、優しさ?と言われてるものって、つまりは鈍感と臆病でできてるわけで...。 きっと、すばるはそれわかってくれてんのかなって思う。

2015-06-24 22:48:37
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《空に手を》番外編 -5 酔っぱらうと「お前ほんまええヤツやなぁ」ってしみじみ言うけど、優しいとは言わないから。 信用できるなって。 日本のショービジネスのメインストリームでサバイブしてる、超スーパーアイドルだって知ってからも、フツーに友達なのは、そういうことなんだと思う。

2015-06-24 22:48:51
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《空に手を》番外編 -6 “ええヤツ”っていいよな。 いいとこも悪いとこもひっくるめて本質から肯定されてる感じがして。 優しいって言われるより、ずっと嬉しい。 まあ、こんなこと考えてられんのも平和な証拠だよなぁ...。

2015-06-24 22:49:05
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《空に手を》番外編 -7 「はい、お待たせ。鮭ハラスと野沢菜ー」 カウンターの美人さんにお茶漬けを渡して、壁の時計を見上げる。 夜の仕込みは後でいっかなぁ。 今日も今日とて...ヒマそうだ。

2015-06-24 22:49:21
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《空に手を》 番外編 -8 そんな平和な俺の日常に激震が起きたのは、とある春の日の午前9時だった。 久しぶりにイラストの仕事が来てて。

2015-06-25 22:39:31
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《空に手を》 番外編 -9 夏に池袋西武の催事場でやる、観葉植物とか花とか、なんかそーゆーヤツの展示会のポスター。 っていう、三流美大卒の五流イラストレーターの俺にしちゃあ、割と大きな仕事。

2015-06-25 22:39:41
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《空に手を》 番外編 -10 店開ける前に資料の写真を撮っとこうと思って、早起きして近所の植物園に行った。 いい感じの花を探しながら歩いてたとき。 リアルに、妖精がいる、と思った。

2015-06-25 22:39:52
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《空に手を》 番外編 -11 満開の桜並木を抜けた先。 菜の花のカドミウム・イエローと、空の透き通るようなセルリアン・ブルー。 名前の分からない薄紫と白の花が周りを縁取って、その真ん中に女の子が立ってた。

2015-06-25 22:40:03
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《空に手を》 番外編 -12 パステルカラーの洪水の中で光ってるみたいで、そのパーフェクトな構図と天国みたいな絶対的な幸福感に、ただ圧倒されて...。 気づいたときにはもう、夢中でシャッターをきっていた。 そして気づいたときにはもう...。 恋に落ちていたんだ、と思う。

2015-06-25 22:40:15
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《空に手を》 番外編 -13 その日の夜、店にすばるが来た。 「なんかえーことあったん」 すばるは焼酎のホットウーロン茶割をふぅふぅしてる。 猫舌なら冷たいの飲めばいいのになぁ。 「今日さ、妖精見た」

2015-06-25 22:40:26
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《空に手を》 番外編 -14 「はぁ?なんやそれ、きっしょ」 眉をしかめて吐き捨てて、枝豆を口に放り込む。 「妖精ってあれやろ?どうせちっちゃいおっさんがジャージ着てるっていう、売れない女のタレントが言うウソのやつやろ」 なんだよ、それ。

2015-06-25 22:40:37
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《空に手を》 番外編 -15 「めっちゃ嫌いやわぁ」 俺の見た妖精は、すげー穏やかな感じがする女の子だったけど。 てゆーか、いい年してこんなのむちゃくちゃイタいよな...。

2015-06-25 22:40:45
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《空に手を》番外編 -16 「いいんですよ、いいんですけど、すごく」 店閉めてから徹夜して、依頼のとおりにイラストを仕上げて、打ち合わせに出向いた。 小人が何人かで大きな花束をつくってるっていうメルヘンチックなイラスト。

2015-06-26 22:07:01
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《空に手を》番外編 -17 「なんていうかぁ...ストーリーがないんですよ。叙情が足りない」 一枚のイラストにそんなものを込められるくらいなら、俺はとっくに売れっ子イラストレーターになってるってば。

2015-06-26 22:07:10
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《空に手を》番外編 -18 多分、俺より少し年下のディレクターは、タブレットの中のイラストをマジマジと見て首をひねる。 もはや居酒屋が本業の俺に、なんでこんなデカい仕事が回ってきたかって、スケジュールが恐ろしくタイトだから。

2015-06-26 22:07:21
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《空に手を》番外編 -19 頼まれればなんだってやる主義だけど、最近じゃ怪しげなパンフレットの挿絵とか、エロ漫画雑誌のイラストくらいしか絵の仕事はしてなかったし。 「なんかこう、胸にずんっとくるようなやつが欲しいんですよねぇ」

2015-06-26 22:07:44
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《空に手を》番外編 -20 ディレクターとかエディターが言う、こういうふわっとまるっとした指示の裏側にある意図を汲めるほど、俺は器用じゃなくて。 だから絵だけじゃ食ってけないんだよなぁ...。 ディレクターはいい感じにセットされた髪の毛を弄りながらまだタブレットを眺めてる。

2015-06-26 22:07:59
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《空に手を》番外編 -21 チャラいようでしっかり仕事もする、子供の頃からクラスの中心にいたんだろうなぁっていうような人のことを、俺は無条件に尊敬する。 それが自分よりも年下なら特に。 「これ!なんすか、あるじゃないっすか!これでいきましょう!」

2015-06-26 22:08:24
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《空に手を》番外編 -22 ディレクターが見せてきた俺のタブレットにあったのは、妖精の...あの女の子だった。 今朝、依頼の仕事を仕上げてから、急にどーしても描きたくなって徹夜明けのテンションのまま一気に描き上げた、ラフスケッチ。

2015-06-26 22:08:33
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《空に手を》番外編 -23 あの女の子がしゃがんで、菜の花に顔を寄せた、その一瞬の絵。 ディレクターがケータイで誰かを呼んでる。 「あ...これはちょっと...」 「いいですよ、最高に。これ、花んとこだけ夏の花にしましょう!ね!直し...明後日の午前中とかってできます?」

2015-06-26 22:08:46
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《空に手を》番外編 -24 彼は仕事のできる人特有の柔らかな強引さで期日を決めて、呼びつけた後輩みたいな子にてきぱき指示を出す。 ...ただ俺は、そんなことすらもう、なるべくしてなったような...運命めいたものを感じてしまってた。 イタいことに。

2015-06-26 22:09:01
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《空に手を》番外編 -25 花壇の中にいたってことは、多分あの植物園のスタッフなはず。 そう思って...。 だって、無断で写真撮って勝手に絵描いて、それが夏には都内の色んなとこに貼られるわけだから、なんも言わないのはまずい。

2015-06-28 21:57:35
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